第21話 槍投げ君


膠着状態になっていた。


試しに盾を木の陰から出してみるが、別に槍を投げてくる感じは無かった。

しっかりと見てから投げてくる感じなんだな……それと、木を貫くような派手な攻撃は無いのも確定。投げた槍が木を貫通できないくらいの威力なんだろう。

いつだかか木の上から遠目で見たあの槍投げ君だとしたら、50メートル以上の距離から獲物を槍で直線的に射貫く……FPSだとライフル持ちハンターと同じ感じか……槍の軌跡はナオエさんが見えるくらいの速度って事は、銃撃よりも遅い……のは確かだな。鏡が欲しいな……ナオエさんの鏡を……って、鏡を打ち抜かれたら砕けて使えなくなるか……


鬼人族の二人も何やら大声で話し合っているが……くそっ、こう言うときに言語の壁は痛いな……そう考えるとオンラインゲームで「英語分かんねー!」とか言ってたけど、分かりはするレベルだったよな……GO とか、STOP Wait だけでもかなり意思疎通できるもんな。


「ナオエさん。囮になる。フォローお願い!」

「え? ちょ、ちょっと待って!」


俺はさっきもらった「ふんどし」を四次元収納ポーチから取り出し盾を構えて相手がいる方向を見ながら横に走り始める。遠くの藪から人影らしきものが現れる。あれが槍投げ君か?? また首のあたりに『嫌な感じ』を受ける。何かを投げるしぐさをしている……あの距離から投げてくるのか? 百メートルはあるぞ??

俺はそのまま全力で走り、木の陰へと隠れる……がなんか『嫌な感じ』は続く……首元を狙ってる?? 見えないのに?? おかしい!

盾を自分の首の前へともってくると同時に、首の周りで「ふんどし」を『固定』する。すると間髪入れずに手に激しい衝撃が走る。


ガキィイイン!!!!!


吹き飛んだ槍が盾でそれてはずれ……明後日に飛んでいく……はずが……


「えっ??」


何と、明後日に飛んでいった槍が楕円を描いて飛んでぐるっと回り、再び俺の首へと向かって飛んでくる。

俺は盾を構え、飛んでくる槍が盾にぶつかる瞬間に盾と『固定』する。


しばらく盾が槍に引っ張られ盾が抜けそうになったので、右手にもっていた「ふんどし」を巻き付けて『固定』する。しばらくすると槍は動きをやめて静かになる……


なんだこれ?? 槍が勝手に相手に突き刺さる……そういうスキルか?

再び動き出さないか心配だったので、持っていた槍を四次元収納ポーチに入れる。うん。問題なく入れられた。


「カタシくん! 大丈夫!?」

「大丈夫だ!」


ナオエさんがこちらに来たそうにしてるな……鬼人族の二人も俺の行動を見てどんな相手だか理解はしたみたいだった。俺はナオエさんに聞こえる様に大きな声で解説をする。

「おそらく、見たものに対して、自動的にモノが追跡、追尾するスキルだ! 要するに、適当に投げても当たってくれるってやつだ!」

「え!? それじゃぁ躱しようがないじゃない!?」

「受け止めればなんとなる!! 木に刺さったりするように誘導して!!」

「わ、わかったわ!」


俺の声に反応したのか、アッシュさんが盾を構え持っていた玉を前方に投げる。着地すると白い煙がもこもこと出ていく。煙玉ってやつか??


それと同時にアスティナさんが木の陰に隠れながら距離を詰め、アッシュさんがわざと大きな足音を立てながら前方の木の陰へと移動をする。相手の注意を誘ってる感じか? なるほど……新たな腰の武器を抜かないのも、槍をつかむつもりか……さすがは四本腕?


俺もナオエさんと目を合わせ、頷いたあとに木の陰や藪に隠れながら前方の人影の方に距離を詰める。アッシュさんの方を見ると、二本の槍を受け止めている状態になっていた。すごいな、あの速度をキャッチできるのか……俺は槍一本止めるだけで俺は全力だったんだけど……


アスティナさんがナオエさんに手で合図して呼んでいるな……なんかやる気か? それだったら俺ももう一度囮になるか?


足音を立てながら大きな木の陰へと突進する。今度は足回りに『嫌な感じ』を感じ木の陰にダイビングすると同時に『嫌な感じ』がする足回りに盾を構える。


ガキィイイン!!!!!


やっぱり『嫌な感じ』の場所に追従してくるみたいだ。

槍投げ君は小妖魔の槍を何本持ってるんだ?? どれだけ小妖魔を狩ったんだこの人? 


また槍が襲ってくるかと思ったが、すぐに地面に落ちる。槍投げ君もかなりの速度で移動をしている様だった。遠距離攻撃専門タイプか?

アッシュさんが持っている槍も動かなくなったみたいで、アッシュさんが槍投げ君の方にかなりの速度で槍を投げ返す。槍が綺麗に木の幹に突き刺さってる……スキルで反らした? わからないな……

俺もかく乱のために近づくが……『嫌な感じ』がまったくしない……どうしたんだ?


「カタシくん! 大丈夫! もう逃げた!!」

「えっ?」


かなり頭上の方から声が聞こえる。木の上を見ると、枝の上に弓矢を構えたアスティナさんと、槍を伸ばしたナオエさんがいた。あの様子だと上から狙撃してたのか、それで槍が追尾してこなかったのか。


「あ……不動君、申し訳ないんだけど……『固定』してくれる? 降りるときは制御難しくて」

「おっけー。ちょっと待ってて」


俺はナオエさんが挿しなおした槍の端っこを固そうな岩に固定する。土だと固定した場所がすぐにえぐれて倒れちゃうからね。基礎は大事だね。

アスティナさんが嬉しそうに槍に捕まって二人がゆっくりと降りてくる。割と細い小妖魔の槍でも折れる気配が無いな……『伸びる』もかなり強いスキルなんだな……


「逃げたって、大丈夫? もう安心な感じ??」

「うん、アスティナさんの放った矢が、槍投げ君の肩と、背中の腹辺りに刺さったから……多分しばらくはこっちこないんじゃないかな?」

「……それくらいだったら、持っている薬で回復しちゃうような……」

「……あー、そうだね。二回は回復できちゃうね……止め差しに行く?」

「と、止め……そうだよね……眠ってるときに遠距離から突然来られても厄介だね……」

「そうね……百メートルも離れた距離を槍で追従……厄介よね、回復したら妖魔を狩ってパワーアップしてこっち来るかもしれないし……」

「一応、『嫌な感じ』をしたところをターゲットにして追尾するみたいだから……不意打ちされなければガードは出来るかも……」

「飛んでくる方向が分からなかったら……だめかもね」

「……あ、たしかに……」


俺は念のため、死亡ログを確認してみる。アスティナさんの矢で死んだのならば、現地人に殺された……とでるはずだから……ん、無いな。今のところ生きてる感じか。


『###スキル####……#########……############』

((あれがスキルですか……神子と同じものですね……精霊魔法と全く違う道理だ))


『########?##########……######?』

((そうでしょう? 初見殺しってやつよね……対策できる?))


『############。ナオエ##############……』

((厳しいかもしれません、ナオエの使っているスキルも未知の領域だ……))


何やら鬼人族の二人も話し合ってるみたいだけど……ナオエさんの名前とスキルって言葉も聞き取れるな……

仕方がないので、また絵と身振り手振りでのコミュニケーションが始まる。


槍投げ君が逃げた方向は小妖魔と中妖魔のテリトリー……と最近恐竜が出没してるらしい。

……以前、木の上から見た時にいたやつか? それともワニ型か?


「小妖魔だけじゃなかったのね……」

「まぁ、そうだよね。大妖魔もいそうだし……」

「巨大妖魔もいるんだろうな……この調子だと……」


アスティナさんからは、槍投げ君と同じ力を持っているのか? とか、ナオエさんの力は相手は使ってこないのか? とか聞いているようだったが、使えない、とジェスチャーと地面に描いた絵で答えておいた。

それからはしばらく地図を使ってお互いの情報を交換し合った……と言うより、一方的にいろいろと教えてくれた。宿場町跡で見つけた地図を広げると、懐かしい目で見た後、この辺は妖魔のテリトリー、この辺にはヤバい生き物がいる、この辺は街がある……など、なんとなく教えてもらえた。

アスティナさんが今日も街に来ないかと誘おうとしたみたいだったが、アッシュさんが止めていた。

色々とやっぱり人間関係があるんだろう。早く言葉がわかるといいんだけど……アーゼさんも聞いているだろうから、通訳してくれるようにならないかな……


【言葉は記憶していますが、サンプル数が足りません。言葉を覚えたいときは相手の集落にしばらく住むことをお勧めします】


やっぱりそうなるか……


気が付くと日が傾き始めていた。鬼人族の二人もそろそろ帰る感じだったので見送りをした後、丸太のエレベーターで現在の崖の上の拠点に戻っていった。アスティナさんが振り返り興味津々な表情でこちらを見ていた。なんかまた来そうだな……


それにしても、休日のはずが……槍投げ君のおかげでなんか大変な事になった気分だった。

やっぱり賞金かかってれば……余裕で殺しに来るもんなんだな……魂のコピーとか、あちらに戻れるとか言ってたからゲーム感覚なんだろうな……

一人一千万円はやっぱりでかいよな。 弱そうなスキルの人間を狙って9人殺せば1億円か……しかも犯罪にならないし……落ち着いて考えてみるとこっちは無法地帯なんだな。


俺とナオエさんは、しばらく疲労感でげんなりしていたが、夕食に久々の米を食べられると思いモチベーションが少しだけ回復した。

だが……炊飯ジャーがなかったから蓋の無い鍋だけではリゾットになってしまった……それでもこの世界のコメはかなり美味しかった。噛むだけで甘さがにじみ出てきていた。


そういえばこの地に降り立った近辺で竹が自生してたから、あれを利用してご飯炊けばいいか……


少しだけ明日が楽しみになった。

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