第15話 襲撃される

拠点に戻ると早速洗濯物を干していた。

支給されたロープと『固定』がものすごく役に立つ。ロープが吹き飛ばされない限りは洗濯ものも吹き飛ばされない。なんて便利なスキルなんだろう。


拠点に帰ってからも洗濯をしていた。ここの方が危険は少ないし全部やってしまおう。と言うことになっていた。

下のズボンと靴下……靴下は大分凄い匂いになっていた。靴も洗いたかったが、致し方なし……それにしても丈夫な靴だよなぁ……全然ソールが削れてないし。


「水着を着ていると思えばいいのよ」

「……そう言うけどさぁ……」


ナオエさんもズボンと靴下を洗って干していた。

着替えの服は無いので下着姿だった。目に毒だ……スタイル良いんだよなぁ……中学生のプールの授業の事を思い出してしまうな……たまにナオエさんの視線も俺の筋肉や股間を見ている気がするが……あっちも気にしてないわけじゃないよね、多分。


「あ、一応、廃村で拾った服あるけど……着る? 汚いけど……」

「え? ほんと? ……麻袋……みたいね……肌が荒れそうだけど……」

「無いよりはマシ……じゃない?」

「うーん、そっちも洗濯した方が良さそうね……せっかく身体を綺麗にしたのに……」

「やっぱりそうなるか……」


それからは更なる洗濯タイムになった。樽の水がどんどん減っていく……洗濯って水をかなり使うんだね。


「もう一度くらいすすぎたいけど……水が足りなくなっちゃうね」

「5樽……だから100リットルは使ったのか……また明日かな……」

「あの川辺に住めれば良いんだけど……」

「水場は獣も魔獣も妖魔も来るからね……」

「今の俺たちじゃ無理か……」


漁師小屋の周りには洗濯物が並んでいた……外から見たら人がいるのバレバレだよな……大丈夫かな?

ナオエさんも洗濯ものを見ながら、なぜかまどろんでるし……


俺が川の水を鍋で煮沸しようとすると、ナオエさんから待ったがかかる。

「ねぇ、普通、ろ過してから煮沸するんじゃないの?」

「……え?」


そういうものなのか……それじゃぁ……ろ過しようと、以前作ったろ過ペットボトルを出す。

「ね、ねぇ……その布汚すぎじゃない?? 洗ったやつにしようよ……」

「……そうだね……」


ナオエさんが剛を煮やしたようで、サバイバル本を見ながらペットボトルをカスタムしていく。

俺の濾過器はちょっと雑過ぎたか……


それからは飲み水のろ過と煮沸消毒をしていく。大量にあるのでかなりの重労働になった。

待ち時間などを使ってスキルの練習とテストを行う。ここで初めて知ったのだが、ナオエさんの『伸びる』が縮む時は単純に『解除』の速度を調整しているだけらしい。本当に『伸びる』だけのスキルのようだ。単純に『解除』するだけだとびっくりするくらい早く元に戻る。

試しに小さな木を伸ばし、俺の『固定』で大き目の木に固定する。

そのあとに『伸びる』を完全に解除すると……大き目の木はかなりしなり……最終的には小さい木の根っこが耐えきれずに根っこと地面ごと浮き上がって抜けてしまった。

これはアイディア次第ではかなりいろいろな事が出来そうだ。

ってか『伸びる』よりも必ず元のサイズにもどる『縮む』の方が力が強いのかもな……


二人で色々とアイディアを出しながら検証をする。


試しにどれだけ重いものを飛ばせるか…………と議論になってさっそく実践することになった。

ヤシの木の幹の上の方に固定した丸太を30メートルほどに伸ばし、両腕で抱えきれないほどの岩と固定してみる。余裕で100kg以上はあるかな? 持ち上げられなかったし。

『伸びる』を『解除』すると、ヤシの木がしなりながら岩を凄い勢いで持ち上げていく。タイミングよく『固定』を解除すると、まるでヤシの木が岩を放り投げたかのように飛んでいく。岩はそのまま海の方へと大きな水柱を立てて着水する。


 ドボーン!!


「すごい!! これなら色々な魔獣倒せそう!」

「大砲みたいだね、随分大きな音になっちゃったけど」

「……あ、一応大丈夫かな……周りに変な気配は近づいてこない」


「……これってさ、岩じゃなくて、魔獣とか、妖魔とか……プレイヤーも放り投げられるんじゃないの?」

「確かに……『固定』がしっかりとできるなら……妖魔を放り投げられるね」

「……移動手段に困ったら俺たちも飛んでいけそうだな」

「……うーん。水の上とか目指さないと……多分大怪我すると思う」

「あーそうか、着地の時とんでもない負荷がかかるか……」


俺は岩が目測で50メートルくらいの高さまで飛んでいったのを見て、50メートルの高さから飛び降りる以上の衝撃が来ると言う事を想像した。うん。飛行能力とか、地面を柔らかくするようなスキルが無いと無理だね。ハングライダーもどきでもつくればいいか?



それにしても、水がふんだんにあるだけでかなり余裕が出てきた感じだ。

問題は薪を思ったよりも使う事……くらいか。適当な乾いた木を大量に探さないと駄目っぽいな。

薪ってどうやって作ればいいんだろ?


【サバイバル本に載せておきましたよ】

ありがとう、アーゼさん。

内陸部に拠点を構えてからの作業になりそうだな。海岸は乾きにくいらしい……


夕暮れも近くなり洗濯物もだいぶ乾いてきたので回収していく。目立ちすぎるのも問題だったので、ロープや桶などは四次元収納ポーチに回収しておく。出しっぱなしにしておいても良い気もしたけど、いつ妖魔や魔獣がくるかわからないものね。いつでも逃げれる状態をキープだ。


いつもの探検家の服に戻って安心……なんだけど、服を着るナオエさんを見て……ちょっと残念な気持ちになった。



「ねぇ、私も漁してみたいんだけど……」

「あ、やってみる?」


漁師小屋にある投擲網を持って二人で岩場まで行く。相変わらず小魚がたくさんいる。ほんと良い漁場だよなぁ……


「すごいのね……魚だらけ……」

「だよなぁ……日本では見たこと無いもんね」

「観光地しか行った事がないからだろうけど……って、え? 逃げるよ!」


ナオエさんが俺の腕を抱えて後ろに走り出す。

俺も何事かと思いつつも真面目なナオエさんの表情を見て理解する。

大きな黒い影が水面に見えたと思ったら柱の様なものが俺らの方に向かって伸びてくる。


バァン!!


先ほど立っていた岩場に大きな白い柱が打ち付けられる。

なんだあれは? 触手か!?


海面から触手の主がぬっと姿を現す。

イカの様なタコのような生物だ。ただ……でかい。トラックなんてもんじゃないな……小さな家くらいあるぞ!


「ナオエさん! 漁師小屋じゃない方に逃げよう!」

「お、おっけ、大きいねぇ……」

「え、なんか陸に上がってくる??」

「え? この世界のタコは陸上OKなの???」


【陸上ではあまり動けませんが数分は動けます! 注意してください!】


「わ、わかった!」


俺たちは水の中にしか生息できないと勝手に思っていたので立ち止まってしまっていた。不意を突くように砂浜を高速移動してきて触手をとんでもない速度で放ってくる。

ナオエさんに抱きかかえられて横に高速移動をする。『伸びる』を使って移動を補助してくれたようだった。俺は慌てながらも俺たちを狙った触手の行き先を見る。

木の幹に絡まった触手を木の幹と『固定』する。巨大イカは木を引っ張るが抜けれない、今のうちに距離を……と思っていたらもう片方の触手が俺たちの近くの木に絡まる。

『固定』!!


SPがゴリゴリと減っている感覚がある。やっぱり生物相手に使うと減る速度が早い!!

ってか木がメキメキっていってるし!! 『固定』の力もすごいけど、あの巨大イカのパワーもすごい!

さすがに体重があるとパワーも桁違いだ。


「今のうちに!!」

「おっけ!!」


暫く二人で後ろを振り返りながら走って逃げる。ある程度の距離が開いたところで『固定』を解除する。

どうやら追っては来ないようだった。諦めて海の方へと帰っていく……


俺たちは安全な木の上に登り、太い枝の上に腰かけてひと段落する。


「あれがいたから……漁師小屋放棄したんだな……」

「そうみたいね……網が残ってる事を考えると……襲われて逃げたんだろうなぁ……」

「なるほど……ラッキーって思ってたくらいだったよ……」

「せっかくの拠点が……」

「……あれ、倒せないかな?」

「うーん。私たちの今のスキルレベルじゃ厳しいかも……」


「上げたらいけるか?」

「カタシ君が巨大イカを固めて崖の上に括り付けるとか? 岩を伸ばして相手に固定して重量で動けなくするとか……」

「……それだと相当先になるな……爆弾とか欲しいわ……」

「しばらくはあそこ戻れないね……」


「残念だ……」

「そうだね……」


割と気に入り始めていた漁師小屋生活だったが、根付く前に危険地帯になってしまった……新たな拠点を探さないとダメか……

さっきまでの順調な感じが一気に吹き飛んでしまった……


俺たちは気がつくと夕暮れになってしまった空を見上げ、これ以上の探索は危険と判断し、大き目の木の枝を探しその上で一晩過ごすことにした。

さすがに安全とは言えなかったので、交代で見張りをして夜を過ごすことにした。『固定』で空の樽を出して陣地にし、もたれかかって寝た。『固定』があれば平たい板とかがあればどこでも寝床を作れるな……今度はどこでも寝られるようにベッドみたいなのを作っておくか……

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