第14話 洗濯したいサバイバー……
7日目
俺はいつものように漁師小屋の屋根裏ともいえる場所で目を覚ます。
今日はかわいい小鳥のさえずりと、聞いた事も無いような叫び声の様な鳴き声のする何かに起こされる。
可愛くない鳴き声だとなんか……爽やかさは無いな……
なんだか無茶苦茶体調がいい気がする。人と一緒にいるからだろうか?
隣で熟睡しているナオエさんの寝息を聞いて今日も襲われずに過ごせたことに安堵する。
考えてみたら、見張りを交代でやれば完全に安全なんだろうけど……まぁ、この『伸びる』と『固定』を駆使して、下からはでほぼ見えなくなった屋根裏に気が付く者もそうそういないだろう……
俺はいつも日課のスキルチェックとログチェックを行う。
スキル 『固定』
スキルレベル 2.9
現在の使用可能容量 321/625㎤
SP 99%
順調に上がってるな……まだ容量が倍々で上がってる。この容量だったらペットボトル一本分はいける。あとでどれくらい形状を変えられるかテストしないとな。
ログを見ると昨日も二人ほど魔獣にやられたみたいだ。相変わらずスキルオーブが近くに落ちることは無いようだ……
『固定』を解除し、いつも通りに外のかまどに火をくべる。生ごみ処理もしっかりとするようにしたので獣が来た形跡も無かった。
手慣れたものでファイアスターターと道中で拾った乾いた草を利用して火をつけるのもかなり早くなってきた。3分くらいで点けられるようになった。最初は1時間くらいかかったっけ……
俺は四次元収納ポーチから初日に狩った狼の焼いた肉を取り出し火にくべる。毒が無いと判定された山菜と海水と貝を鍋に入れて朝ごはんの作成を開始する。味は食べてからのお楽しみ……なのかな、変な味なのは入れて無いから大丈夫だよな?
……ってか、ナオエさん起きてこないが……大丈夫か?
ナオエさんを起こしに行く。肩をゆするとびくっとした後に飛び起きて天井に盛大に頭をぶつける。
「あぐっ!! い、いたい……お、お早う……」
「おはよう。朝ごはんが出来てるよ。とはいえ納豆も米はないけどね」
「……そ、そうね、ありがとう……」
「大丈夫? 寝不足」
「い、いやぁ……あはは……ちょっと寝つきが悪くて……」
「タフなんだな……あれだけ動いたのに」
「い、いやぁ……あの状況で寝られる不動くんの肝が据わってるんだよ……たぶん」
「え? 褒めてくれたの? 照れるなぁ……」
「……」
【……】
ナオエさんが起きると、『伸びる』を解除して、木で張ったバリケードを元の長さに戻す。『伸びる』と『固定』を駆使すると以前よりはるかに強固なバリケードと簡易ベッドが作れるのでとても楽になった。
「あ、SPどうだった?」
「うん……少しだけ減ってるけど問題ないかな……こんな方法でスキルレベル上げられたんだね……」
「使った分だけ増えるみたいだしね。流石に逃亡中はやらなかったか」
「……そうね、考える暇なかったかも」
ナオエさんにも寝ている間に、SPが減らないくらいの加減でスキルを使用したまま寝てもらった。
やはり思っていた通りに、違うスキルでもこの手法は使えるようだ。
これでスキルオーブを拾っても、この手法でスキルレベルを上げればいいね。
まぁ、まだ拾えてないけど……
ナオエさんが準備をしている間に、腹が減りすぎたので狼の肉を食べようとすると……
【カタシ!! それは食べては駄目です!!】
「え?」
【どうやら食中毒になる何かが入っているみたいです……】
「え? だって真空パックした狼の肉……昨日は大丈夫だったでしょ?」
【真空でも中にいる何かしらの菌が増えてしまったようです。初日の狼の肉は破棄することをお勧めします】
「そ、そんな……それじゃ魚もだめか??」
【……焼いてあるモノはある程度は大丈夫ですが……狼の肉は焼くまで時間がかなり空いたと記憶しています。そのせいかもしれませんね】
「な、なるほど……次からは処理したらすぐに焼いた方がいいか……」
【ええ、「誰でもできるサバイバル・キャンプ生活」にあるように、獲った肉は一旦水で冷やしてから収納することをお勧めします】
「ありがとう。なるほど……あ、ほんとだ、直ぐに冷水に浸すって書いてあるね……あ、肉はすぐにダメになるから早めに食べよう! って書いてある……時間も書いておいてほしかったな……ってなんか……記述が増えてく……」
【え、ええ、随時更新らしく……更新してます】
……更新してるのアーゼさんっぽいんだけど……
何やら異変を感じたナオエさんが慌てて小屋の寝床から降りてくる。
「どうしたの?」
「狼の肉、もうダメらしい……残念だ……」
「四次元収納ポーチって、時間止まらないのね……」
「時間は止まらずに、気温が12度だって、真空って聞いてたからもっと持つものかと……」
「うーん、真空で12度かぁ……確か肉は0度くらいじゃないと駄目になった気がするよ。凍らせるスキル欲しいね……」
「そうだねぇ……冷蔵庫が欲しい……せめてフリーザーボックス……」
「だとしても氷が必要じゃない?」
「確かに」
俺は二日目に獲った兎の肉や、焼いた魚を食べるふりをしてアーゼさんチェックをしてみるが、まだ大丈夫なようだった。一週間くらいが悪くなるラインなんだろうか?
って考えてみたら、今日で1週間経ってた!! 1週間生き延びたよ!!
【おめでとうございます! ポジティブでよいですね】
「ありがとう、アーゼさん!」
「またナビと話してるの?」
「あ、ごめん……今日で1週間だったからさ」
「あ、そうか、もうそんなに……」
朝ごはんを食べながら今日の予定を立てる。スキルの練習と、昨日手に入れた樽や瓶への水の確保。それと肉と山菜集め……やることは山積みの様だな……自給自足生活だ。
今日の山菜はゆでると渋くなるやつだったみたいで微妙な味だったが、魚を食べながら無理やり食べた。
「あと、サバイバル本に載ってた、この洗濯に使えるという木の実と草、あとは洗濯できる水を……」
「……あ、やっぱり匂う?」
「う、うん。多分私も匂ってるんだろうなと、さすがに思うよ、川で汗拭いただけだし」
「海水では洗濯できないよね……」
「服が傷むと思う……それと聞いたこと無いかも……海水で洗濯」
「乾いたらベタベタになりそうだね」
やることが増えた。やっぱり水場の確保が最初の目標の様だ……中央でバトロワしている皆さんはどうしてるんだろうか? みんな臭いまま戦ってるのか?
二人で話し合い、一番近い川に行くことにした。小妖魔の集団だったら二人で何とかできるだろう……と、武闘派な方向に話が転がっていた。どうやら洗濯と水浴びが第一優先になっているみたいだ。女性とは恐ろしい……
サバイバル本の情報をもとに洗濯に使える木の実や草などを探しつつも、警戒と迂回を繰り返しながら川へとたどり着く。最初に見つけた川よりもやや上流だった。地図のUIを見ると違う川なのかもしれないな……水も少し綺麗な感じがする。小妖魔テリトリーか?
二人で周囲を警戒しながら、水を組んでいく。なるべく泥が入らない様にワイン瓶や、樽、それと桶に水を入れていく。
「ね、ねぇ、カタシ君、いつの間に桶なんて……」
「ああ、ワイン蔵にあったから拾っておいたよ」
「それがあれば拠点でも洗濯できるかも」
「ん、ああ、そうか……出来なくないな……」
とりあえず目的の水は汲んだ。全部で200リットルは汲んだんじゃなかろうか……四次元収納ポーチの残量も増えてない……ってことは、重量でも体積でもなく、単純に物の大きさっぽいな……
「あ、私からでいい?」
「ん? 洗濯??」
「あ、それと水浴び的な……」
「危険じゃないか?」
「上半身だけよ。下半身は桶使って拠点で……かな?」
「わかった……えっと、あっち行ってた方が良い?」
「危険だから見張ってて。ガン見しなければいいから……」
「……お、おう」
ナオエさんはおもむろに上半身の服を脱ぎ、服を川に入れて濡らす。ちょっとこすっただけでもきれいになった気もするな……道中で拾った木の実をこすり合わせていく。なんかちょっとだけ泡が出るな……ってか、すぐに泥の色になる……
「大分綺麗になるっぽいね……」
「うん。匂いも少しいい感じね、爽やかな感じがする」
最初こそ汚れの取れっぷりに感動をしていたが、上半身スポブラだけのナオエさんを見ていると……むらむらと……くそっ……身体が若いせいだな……俺は視線をそらし周囲を警戒する。が思わず見てしまう……
ナオエさんが何かを考え、収納ポーチから新たな実を取り出す。頭を川の水で豪快に濡らした後、わしゃわしゃとその実をつける。こちらも何かしらの洗浄作用があるのか泡がたつみたいだな……しばらく洗うと髪を手で絞るようにして水気を切っていた。
「タオル無いと不便ね……」
「そ、そうだね……」
「乾かすのは拠点もどってからかな……」
ナオエさんは洗った服を四次元収納ポーチに入れる。
ってか、スポブラが濡れて体にぴたっとまとわりついて……物凄く刺激的なんだけど……
ナオエさんが視線に気が付いたのが軽くにやけていた。
「カタシ君も洗ったら?」
「お、お、おう」
俺は彼女に見守られながらシャツと体と髪をあらった……若干前かがみになっているのは……バレていたと思う。
洗い終えると、俺たちは拠点にまっすぐ帰っていった。
帰りはお互いに無言だった。
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