第16話 新たな拠点探し

8日目


俺は地図とにらめっこをしていた。


大きな木の枝の上で夜中にナオエさんと見張りを交代してからずっと起きていた。

なぜか木の上にいるが体調がすこぶる良い。精神状態もいい気がする……やはり初恋の人と一緒にいると精神的にいいのだろうか? 俺はいつの間に恋愛脳になっていたんだろう?


起きている間は暇だったので色々と戦略を練っていた。足元をたまに肉食獣らしきものがうろうろとした後にこちらを見上げていたが、登れないことを悟ると違うところにすぐに移動をしていた。

木を登れる猫型魔獣がいなくて良かった……

夜空を見上げると月も3つではなく4つあることに気が付く。何てファンタジーな世界なんだろうか。身の安全を確保出来てたらいい雰囲気になってたのではないだろうか?

ログをチェックしたり、樹上でもできるスキルの練習をしながら朝日が昇るのを待つ。

空が白んでくると隣で寝ていたナオエさんが目覚める。


「おはよう……」

「……おはよう……意外に寝られるものね……」

「そうだね。俺もぐっすりだったし」

「そうだったね、毎日運動してるからかな……」


ナオエさんがスキルを解除しながら、四次元収納ポーチに体を固定していた木の棒や樽などを入れていく。


「どう? 黒結晶を壊したーとか、プレイヤーが近くて死んだとか情報出たりしてた?」

「いや、そんな良い情報は無いかな……昨日も脱落者二人。どちらもプレイヤーが相手だね。そろそろバトルロワイヤルが本格化してきたのかな?」

「うーん。魔獣からは逃げられるようになった……けど、プレイヤーと妖魔からは逃げにくい……って感じじゃないかな? あ、私が寝ている間、妖魔いた?」

「いなかったね。小さい狼と、魔獣らしき狼と、巨大イノシシ……あと鹿か、これも魔獣なんだろうけど、それくらいしか動いてなかったかな」

「なるほど、私の時と同じか……夜は妖魔も動かない感じね。妖魔を相手にしたくなかったら夜に移動だけど……」

「暗がりはさすがに真っ暗で見えないから危なさそうだね」

「そうね……暗視カメラあればいんだけど……」

「それもスキルでありそうだね」

【ありますが、夜の移動はあまりお勧めしません】

「あるのか……ってなんで?」

【この世界には目に見えるものだけが敵とは限らないからです】

「……ゾンビとか幽霊がいるって事か」

【 あ、これ以上は……ダメみたいです。頑張って逃げてください 】

「ありがとう……」


ナオエさんが俺の方を見て物凄くいやそうな顔をしていた。


「ね、ねぇ、今のって」

「どうやら夜のモンスターがいるみたいだね。どんなのかは教えてもらえなかったけど」

「……いるんだ……お約束的な……魔法とか御守り無いと……だめ……とか?」

「それも分からないなぁ……」


そんなことを話していると、遠くの方で巨大な黒い影がのそのそと歩いていた。

思わず思考が停止してしまう……あれがお化け?? それ系の敵??

ナオエさんが俺の視線の先に気が付いたのか体が硬直する。

「……あれって……」

「見た事も無い化け物だな……」


巨大な黒い影はのそのそと歩き続け、視界から消えていく……

「……あんなのもいるのね、中央では見なかったかも……」

「……なるほど……まぁ、いなくなったから……大丈夫だよな?」

「多分……」


不安になりながらも準備を進める。アーゼさんはこの事に対してはあまり答えてくれなかった。

取り敢えず地図の埋まっていない川辺を探索する事になった。鬼人族がいた方向寄りだ。船を出してたって事はこっちの方の海が安全じゃないのか? と言う話の流れになっていた。


俺たちは警戒しながら森を進むと、新たな廃屋を見つける。村にしては規則正しい家の並びだ。商店だったのか?

周囲に人らしき気配を感じなかったので家屋を物色しはじめる。やはり昔は商店だったようで、普通の家とは全く作りが違っていた。だが、肝心の商品はほとんど無かった。壁にポスターのようなものが貼られていてどれも色褪せていた。物資はどれも空……というか、棚しかないくらいだった。


「うーん。お土産屋さんかな?」

「お、地図あるね……全然精密じゃないけど」

「特産品みたいのがわかるやつかしら?」

「お? 帆船に海賊が!?」

「海の竜みたいのもあるわね。本当にいるのかな?」


地図というか……これは観光ガイドみたいなものだろうか……色々なイラストが添えられており、海賊らしきもの、神殿の神様らしきもの……などが描かれており、中央の大きな山に向かって参道が伸びている……そんな感じだな。

色々なところに遺跡や名所が描かれているけど……これ、何年前の話なんだろう?


「写真撮りたいね……」

「これは……ちょっとはがせないかな……ん、持ってけそうだな」

「いいのかしら……」

「大丈夫でしょ?」

「あ、そうか……なんか文化遺産を見に来た気分になってた」

「まぁ、誰も見て無いしね……」


俺たちは他の数軒も回ってみるが、荒らされて持ち出された形跡しかなかった。

メインストリートすぎて略奪対象になっちゃったんだろうなぁ……

売り場に木の箱が並べて置いてある。恐らくこの上に商品が並んでたんだろうな……持ち上げて……お、いけそうだな。収納……っと、入った。「古い木の箱」か……俺はそこにある箱全部を収納に入れておいた。 

これを固定すれば木の上でも平らな足場……寝る場所が作れる。これで樹上生活が改善されるな。


「大きな成果無しね……大通りとか目立つ場所はあらかた持ってかれちゃうのね」

「木の箱と、この島ガイドくらいだね」

「……木の箱……不動君のスキルだったら便利ね……普通はいらないよね……詳細な地図が欲しかったね。でも、遺跡の場所と、町があったと思われる場所の見当はつきやすくなったのかな……」


二人でガイドを見ながら自分たちが各々マッピングして来た地図と見比べる。次の行く先を話し合っていると、ナオエさんの表情が一瞬にしてきりっとした表情になる。どうやら何かが近づいてきているようだ。ほんと音に敏感なんだな……俺はちっともわからなかった。

ナオエさんは音を立てない様にゆっくりと壁沿いに近づく。直視してないから音を聞いているんだろうか?


「……一人ね。……人間タイプっぽいね」

「おけ……やりすごせそう?」

「うーん、どうだろ? 警戒しながら近づいてきてる」

「プレイヤー?」

「おそらく……足音が大きい……」


俺はナオエさんに導かれるまま裏口の方へとついていく。そうするとこの廃屋からはかなり遠い位置から怒鳴り声が聞こえる。

「おい! いるのはわかってるんだ! 出てこい!」


ん? いるのはバレてるけど場所がわからんって事は……


「あの感じだと……遠くで俺たちを見たくらいか……」

「……どうしよう? やっちゃう?」

「え? やっちゃうって……」

「敵対的な人っぽいでしょ?」

「……うーん。相手のスキル分からないからなぁ……逃げとかない?」

「……わかった」


俺は机や空の本棚を持ち上げて壁と『固定』する。これで逃げるときに時間差で落とせばそっちに意識が向くだろう。それにしても『固定』って重量無視なんだな、全然SP減らないし……使いどころが良ければかなり使い勝手がいいな。

俺たちは裏口からこっそりと出て、茂みに隠れながら森へと向かう。

道中に丁度良い丘があったので、そちらの方に身をかがめながら移動をする。


「……動いてない。壁に張り付いてるみたいね……完全に私たちを見失ってるみたい」

「わかった。『固定』解除っと」


ゴン、ガンガラン! ドゴン!


想像以上の音が先ほどまでいた廃屋に鳴り響く。色々と連鎖して倒れたのか?


「うおっ、な、なんだ?? そっちか!! 待て、話し合おう……」


ナオエさんが俺に顔を近づけて小さい声で囁く。


「なんか言ってるみたいだけど……」

「槍をいつでも投げらる姿勢のまま移動してるね……いつだかみた槍投げスキルの人かな?」

「……なんかあれだったら……倒せそうね……」

「……できなくはないけど……殺せる?」

「……」

「俺はちょっと無理かも……」

「……」


ナオエさんとは二人のスキルを駆使した色々な戦略を話し合っているから、その中の何パターンかでは手玉に取るように殺せる可能性はある。だけど、結局のところ殺人だ。

小妖魔ですら忌避感があれだけあったんだ……殺したらトラウマになりそうだ。

ナオエさんもどうするか迷っている……って感じだな。

槍投げスキルは……ぶっちゃげ欲しいな。相当狩りが楽になる。


警戒しながらも俺たちはその場を後にする。


「そうか、ほかのプレイヤー達もスキルが上がってきたから活動範囲が広くなるんだね」

「そうね、最初と比べると、体が疲れなくなったものね」

「たしかに」


最近移動をしても足の裏が痛くなることが少なくなったし、かなりのペースで移動を続けられるようになっていた。慣れもあるけど、なんだかんだでログでステータスが上がったって出てたから、そのおかげだろうなぁ。


「残念ながらこの宿場町みたいなのは拠点にできなさそうね」

「そうだね。目立つし、井戸も枯れてたし……」


俺たちは気配を消しながらさらに下流方向の探索を続けることにした。

遠くの方でヒステリックに叫ぶ声が聞こえた気がした。

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