第7話 鍋を求めて……廃村を漁る
4日目
目覚めると、薄暗い木の小屋の隙間から明るい空が見えた。
ああ、そうだった、漁師小屋の屋根に『固定』を使って寝てたんだった……
直前まで現実世界でいつもどおりに出勤する夢を見ていたので違和感がものすごい……トンデモナイところに来ちゃったよね……
今日も熟睡中に魔獣に食われたり他のプレイヤーに襲われたりすることは無かったようだ。
思ったより過疎ってるのかなここ? 一攫千金狙いたいならバトロワの中心っぽい山に向かって、大量にいるであろう他のプレイヤーを狩るんだろうか?
それか、魔獣に殺されたプレイヤーが落としたスキルオーブを探しに行くよなぁ……今はこっちがメインか?
……一つ一千万円はデカいよね。どうやって一千万円支給されるんだろ? 口座に振り込まれるのか? 突然増えたら税金どうすんだろ?
そんな事を考えながらも『固定』を解除して寝袋を四次元収納ポーチに入れ、昨日出しっぱなしにしておいたスキルの状態を確認する。
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スキル:『固定』
スキルレベル:2.7
使用可能容量:25.3/50.6㎤
SP:99.99%
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SPが全然減ってない……スキル容量も物凄い上がってる。これだけ接着面が増えれば色々とできそうだな。明日は100㎤を超えるのか? 順調に増えると良いなぁ……
俺は周囲を警戒しながらもストックしておいた魚と肉を焼き始める。四次元収納ポーチ内の「真空」が利いている様で全然腐った気配を感じない。四次元収納ポーチ様のおかげだね。真空パックポーチと言っていいかも。
今日も寝ている間に起きた事をログを見て状況を確認する。
昨日も5人ほど脱落した様だ。転落死、妖魔に一人、魔獣に二人、プレイヤーに一人殺された……場所は相変わらず遠く回収は不可……やっぱり僻地だよな、ここ。
とりあえず妖魔と魔獣はなるべく避けないと駄目だな……プレイヤーに対しては交渉ができると良いけど、今の貧弱な状態じゃ交渉にならないよなぁ……家一軒くらい『固定』出来れば役に立てそうだけど……塩を作れれば交渉できるか? 内陸部に岩塩が無ければ……だけど。
俺は四次元収納ポーチに荷物をしまうと、漁師小屋にあった銛を一本拝借して森へと向かった。
とりあえず水源か……最悪のケースだけど海水を蒸留して水を確保しようと思っていた。鍋かそれに代わる水を高温で貯められる何かを探さないと2週間後には水不足で、3週間もすれば干からびて死んでしまう。
四次元収納ポーチの中に空のペットボトルが徐々に増えていくのを見て焦りを感じていた。
森の中を探索する。周囲に嫌な感覚があるたびに『固定』を使用して木に登ってやり過ごしていた。行動している間も割と汗をかいているので水分の消耗が激しい。少し焦る。
巨大イノシシ型の魔獣、2人組の原始人の様な槍をもった小妖魔、狼の5匹くらいの群れ……うーん。スキルレベルが上がれば『固定』で長めの梯子作って木の上を移動するんだけどなぁ……いちいち木に登らないと駄目なのがつらい。
俺は木の上で狼たちをやり過ごしながら遠くの海岸の方を見る。
二人くらいの人影……ん? 角が生えてる? 着ているものなんか原始的ではなく文明を感じるな……腰に山刀みたいのを差してる……帆がついた木の船を押してるから漁に出かける?
【あれは鬼人族と言われる文明を持った種族になります。残念ながら標準語は話せないかと思いますよ】
「なるほど……あれ? 気が付いた?」
鬼人族の一人がこちらに気が付き、もう一人の肩をたたいて俺の方を指さす。一瞬警戒するが害意が無いと判断したのか動きはそのままだった。何やら話し合った後、一人はその場を足早に去り、一人はそのまま漁をつづけていた。
俺は残った一人に何とも言えない危険な気配を感じたので迂回する。
って、この距離の視線に気が付くのか……五百メートルくらいはありそうなのに……しかも俺は茂みの中にいるのに。
「アーゼさん? あの人たち強いよね?」
【そうでしょうね。この森で普通に暮らせるくらいなので強いと思った方が良いですね】
「……小妖魔も巨大イノシシも余裕……ってやつですか……」
俺は鬼人族が去った方向じゃない方を探索する事を決める。
とりあえず強くなるまでは接触をしない方が良いと思った。
それからも地面を歩き危険を察知したら木に登る……を繰り返し地道に探索するエリアを広げていく。
所々に人工的な崩れた構造物を見つける。何となくだが、ここは滅びた街だったんじゃないかと思い始めていた。
警戒しながら調べてみるが、石積みの建物が崩れているだけで、遺跡状態。古すぎて中には何もなかった。調べながらも投げやすそうな石を四次元収納ポーチに回収するのは忘れない。遺跡は投げるに丁度良い石の宝庫だな。
「アーゼさん、この遺跡って何年前のもの?」
【答える事は出来ませんが、今の文明とは違うものになりますね】
「まぁ、文明があったて事は、この辺に水源があるはずだけど……」
【『探知』スキル系か『水』系のスキルがあればすぐにみつけられるんですけどね】
「なるほど……どこかに落ちてないかなぁ……」
【割と落ちてるみたいですけどね……不慮の事故の場合はまだ回収されてない場合が多いそうですが】
「こんなちょっと移動するだけで大変なんだよ? 他の人も同じじゃないの?」
【そうですねぇ……スキルと、その人の行動力次第ですが……】
「残念ながその二つ、俺には無いよ……さてっと……水を探さないと……」
【そんなことは無いかと思いますが……】
「ビビりの俺を励ましてくれるの? ありがとう、アーゼさん」
【……】
俺はそれからも探索を続ける。
少し歩くと嫌な気配が頻発するのにうんざりしながらも木の上に登ってやり過ごしていく。
小妖魔と呼ばれるものが多くなってきた。彼らのテリトリーなのだろうか? 武器を奪えないかなぁ……がっつり構えながら歩いてるから無理だよなぁ……小妖魔にとっても危険な森なんだろうな。
生物以外にも、たまに魔獣の血の跡が残っているのが気になった……小妖魔の狩りの跡なんだろうか? それとも小妖魔のもの? 死体は持ち去られているので、血だけでは判別できないな……
探索を続けると、遺跡ではない、割と建物がしっかりと残っている廃村の様な場所にたどり着く。壊れ方を見ると割と最近までは人が生活をしていた感がある。
村の中央あたりには皮鎧を着た日本人らしき男性がサバイバルナイフを片手に大型の獲物を悩みながらさばいているところだった。彼の近くには槍が数本立てかけられていた。アレで狩ったのかな?
「ねぇ、アーゼさん、あれって……プレイヤーだよね?」
【そうですね。皮鎧を着ていますが、この島には日本人的な種族はいませんのでそうでしょうね】
「……なんのスキル持ってるかとはかわからないよね?」
【はい。『鑑定』『解析』などのスキルが無いとわかりませんね】
「うーん。獲物を見る限り……あのでかいイノシシは俺では倒せないし、なんか鎧や山刀……槍までゲットしてるから……強いよね。集中して捌いているから……こっそりと周りの家を漁らせてもらうか……」
【……漁る……】
俺はこの村にいるプレイヤーに気が付かれない様に、捌いている場所から離れた家屋に入る。中世くらいの文明度だろうか、当たり前だが電化製品の様なものは無く、木と石でできた室内だった。
何かの襲撃にあった村らしく、いろいろなモノが散在していた。それか小妖魔が入って中を荒らしてめぼしい物を持って行ったのかもしれない。ガラガラな印象だった。
そんな中でもラッキーな事に錆びた鉄ナベ、木の食器、錆びた鉄ヤカン、錆びた包丁などをゲットできた。ベッドにはシーツと毛布らしきものもあったが、汚れすぎてて本来の用途では使えなさそうだった。加工すれば天幕とか帆とかにできるか?
服などもあったが、着る気にはなれないな……歴史博物館にある麻の服的なものでゴワゴワしそうだった。何かの素材として使えるか……とりあえず使えそうなものを片っ端から四次元収納ポーチに入れた。めぼしいものを回収後、その家を後にした。
【……盗賊の様ですね……】
「使えるものは全部使う……だよ。オープンワールドゲームみたいだよね」
【何ですか? それは?】
「あ~ 強くなるためには侵入した家から根こそぎ持っていく的な?」
【盗賊になれるゲームなんですね】
「……なるほど、そういう見方もあるか……」
家を出ると、イノシシを捌いていた皮鎧プレイヤーはまだ作業をしている様だった。悪戦苦闘している印象だな。
それにしても、あのプレイヤーは無警戒、無防備だな……俺が以前見た遠距離攻撃できる『槍投げ』プレイヤーだったらざっくりと胸を貫いてるぞ?? 簡単に追加で一千万円ゲットだよ?
そんなことを思いながら隣の家も覗いてみるが、同じようなモノしかなかった。地図とか水場の情報を得たかったが、家の中に紙類がほぼないのを見て諦める事にした。印刷するような文明は無いのか? それとも持ち去られたあとなのか?
一応手にもてるサイズのものをなるべく四次元収納ポーチに入れて持ち出す。
村長が住むような大きな屋敷の前に陣取るように皮鎧プレイヤーがいるのでこれ以上の家の探索は断念し、周囲を調べてみることにする。
家の裏手に薪の保管所を見つけ、四次元収納ポーチに放り込みまくる。これで火を長時間確保できるね。乾燥した木を探すのってとても面倒なんだ、すごいラッキーだ。
農機具置き場らしき場所も漁ってみるが、逃げだすときにあらかた持ち出した様であまり道具は残っていなかった。猪八戒が使うような器具が残っていたのでそれだけを頂戴する。柄だけはつかえるのか?
あとは脱穀機みたいなのもあったけど……大きすぎて持てないな……
村はずれにある井戸も発見したが、使えない状況になっていた。鶴瓶も壊れてるね……のぞき込むと岩が詰まってるし……
よく見ると村の周囲に広場……じゃないな、これ、畑とか田んぼの跡だね、木が無い草原だと思ってた。たまに見る樹木がない広いエリアは耕作地だったのかもな……
俺はこの廃村を離れる事を決意した。
幸いなことに、皮鎧のプレイヤーには最後まで気が付かれなかった様だった。
狩っているイノシシを見る限りは良いスキルを持っているはずなんだけどな……
食器類が木製とは言えそろったのと、鍋とヤカンを二つずつ、フライパンまでゲットできたのは大きかった。ただ、錆びているので……使えるかどうかはわからないが……
それよりも薪を得られたのが一番大きいかもなぁ……
俺は安全な木の上に登り落ち着いたところで四次元収納ポーチのリストを見てみる。
・錆びた古い鉄製の鍋X2
・錆びた古いフライパンX1
・錆びた古いヤカンX 2
・錆びた古い包丁X1
・薄汚れた古いシーツX6
・薄汚れた古い布団X6
・薄汚れた麻の服上下、男性用?X2
・薄汚れた麻の服上下、女性用?X1
・薪 X400本
・薄汚れた古い木製の食器 X10
・薄汚れた古い木製のスプーン X10
・古い錆びた馬鍬(猪八戒の持ってる農機具)X1
馬鍬っていうんだ、この大人の砂場遊びの道具みたいの……何に使うんだろ? 地ならし? まぁ、先っぽを交換しないと武器としては厳しいよなぁ……
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