第6話 『固定』スキル検証
3日目
ゴンっ!!
朝起きると、天井に頭をぶつける。い、いてぇ……。
そうだった、寝袋を天井に『固定』してたんだった。
冷静になって『固定』を足元から順に解除して下に降りる。特に小屋の周囲に何かの知的な生物が来たような跡はなかった。即席のかまどの周りを4本足の動物が複数うろうろしてるのだけはわかった。昨日食べた魚の骨と頭が無いから……まぁ食べたんだろうな。ってか気が付かなかった……それだけぐっすり寝てたのか……
ああ、しっかし、夢じゃないのかぁ……痛かったしなぁ……
俺は寝ぼけながらも、自動スキル上げの結果に期待しながらスキルの状態を確認する。
(よっしゃ。予想通り増えてる!)
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スキル:『固定』
スキルレベル:2.6
使用可能容量:10.6/20.8㎤
SP:99.99%
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やはり寝ている間にスキルの体積を全部使っておいた方が良いみたいだな。初日と比べたらスキルの使用容量が20倍? うーん、どれくらいスキル容量が上がるか検証が必要だな。
レベルが上がってきたらレベルが上がりにくくなる仕様だったら困るものな。
昨日、漁で取った魚を四次元収納ポーチから取り出す。匂いを嗅ぐが、やや匂いが強い気がしたが腐ってはいなかった。気温12度で半日……2日持てばいい方か? 空気が無いんだっけ、そうすると酸化しないのか? うーん。残った10匹の魚どうしよう、焼いておいた方が腐らないか…… 焼き魚系の弁当とかスーパーに一日中置いてあるもんな……あれって一日は経ってるだろうし……
俺はかまどに火をくべて、周囲を取り囲むように魚を串刺しにして焼いておく。昨日やっておいた方が良かったか?
ってか狼の肉は……あれ? 腐ってる感じ無いな。やっぱりポーチの中の空気が無いのはアドバンテージだなこれ。真空パックみたいなものか?
俺は魚と狼の肉を焼きながらログを確認する。
相変わらずプレイヤーが死んでる……今日は5人。魔獣とプレイヤーと……妖魔??
妖魔なんているのか?
「……アーゼさん。妖魔なんているの??」
【はい、人間と同じような形をした、別の種族ですね】
「言葉が通じたり……とかは?」
【頑張れば覚えられると思いますが、妖魔とカテゴライズされた種族は基本的に人間を食料と思っております】
「な、なるほど、肉食獣的な……見分け方はあったりするのでございましょうか?」
【変な言葉遣いですね。昨日やり過ごした時の中にいた「原始的な格好をした一団」ですね。目を見ればわかるらしいです。よくわかりませんが……】
「さ、左様で……ははっ……あれが人食い種族ってことか……凄い世界だな……やり過ごしてよかった……」
こちらを獲物としか見ない人類的な何か。死にゲーレベルに理不尽な強さの相手だったらどうしよう……想像しただけでちょっと背筋が冷える。
食事を終えると心が落ち着いてきた。そろそろ『固定』の検証をはじめないとな……
砂の地面に色々な形状を試して作ってみる。砂を固めた箱と球は簡単に作れたが、ドーナツとか、円錐とかは作れなかった。
試しに箱を作った後形状を変化させてみるが……前よりは平たいものを作れるな……3ミリくらいまでは圧縮できた気がする。その分体積は広がった。このスキルは『固定』だけど粘土みたいなものなんだな。体積を圧縮……ではない様だ。
試しにイメージしやすい星型なども作ろうとしたが、角がかなりスムーズな星……というよりも金平糖が出来た。イメージ力が足りないのかスキルが足りないのか……修練の必要あるな。
次にどれだけ離れた距離を『固定』が維持できるかを試してみた。
ゴルフボールくらいの大きさの砂の塊をつくり、力の限り投げてみた……あ、あれ、なんかすごい飛んでくんだけど……身体がキレッキレだな……50メートルは飛んだけど、特に変化は……無い……あれ、SPのパーセンテージが減っている……98%と言う数字を始めてみた。
しばらく観察する。1分で1%減っている? 形状が球だから?
とりあえず『固定』した球から少しずつ離れて行く。ああ、なんか離れて行くと消費が大きいみたいだな力が抜けていく感じがする。……94%……と100メートルほど離れたらログが表示されていた。
【離れすぎたため『固定』は解除されました。スキルレベルが足りません】
……なるほど、有効射程は100メートルってことね。消費も離れれば増えるかぁ……近くのものを『固定』してなんとかすればいいのかなぁ……
【マニュアルにも書いてありますが、スキルは術者から離れれば離れる程威力が落ち、消費するSPも高くなります】
「あ、書いてあったの? ありがとう。アーゼさん」
【どういたしまして】
あとは固さかぁ……新たに砂で固めたゴルフボールをその辺に落ちていた木の枝で野球のボールように打ってみる。うん。壊れず飛んでったな……
試しに掴みやすい石に『固定』をかけて木の幹にぶら下がってみる。ビクともしない。強力接着剤真っ青な『接着力』だな。
『固定』のサイズをどんどん小さくしていくが、出せる最低サイズの1㎤でも余裕で『固定』してビクともしなかった。ただ、身体全体を揺らしていたら石の方が耐えられずに割れてしまった。『固定』していた場所はそのままだった……石よりも固いのは確定だな。
『固定』はとんでもない超強力接着剤……ってイメージで良さそうだな。
スキルの分割も6分割くらいまでは出来るようになっていた。ただ、分割するときはあまり変化が付けられない……ログを見ても 【スキルレベルが足りません】 を連発している。もっとスキルレベルを上げてからまたテストだね。
最初の疑問だった、ローカル『固定』とワールド『固定』の意味も検証したお陰で理解できた。ローカル『固定』したものは動かせ、ワールド『固定』したものは動かせなかった。
ローカル『固定』は持ちたい、投げたいもの。ワールド『固定』は建物に使うと良いのか?
ワールド『固定』をすると、凄い力を込めても動かせない……これも場合によっては有効活用が出来そうだ。
『固定』を発動させる距離なども測ってみたが、30メートルくらいが限界だった。遠くなるとなんかずれるし、SP消費も多いようだった。この時の検証で、SPが85%まで落ちているのを見て、なるべく10メートル以内の運用をした方が良いと判断した。
足元を歩くアリに『固定』をかけてみる。
『固定』をかけている間は固まってしまうみたいだな……ってか、周囲に『固定』の膜があるみたいで直に触れない……なんだこりゃ?
試しに『固定』を解除してみるが、ふつうに動く……な。SPも減ってないし……うーん。どう判断すればいいんだろ? 身体全部を固定したら壊死とかは無いのか?
後はやっておかないといけないんだけど……
自分の体にかけたらどうなるか……なんだよね。
靴と手に持った石にかけて木登りしてたけど、身体にかけたら……身体の一部分だけ固まったら血の循環悪くなって壊死したり……そう考えると自分にかけるのをためらってしまう。
それなりに大きい動物でためしてみるか……セーフティーゾーンの時に狼で試せればよかったんだけど、あの時は必死だったからなぁ……
ん?
ふと、目の片隅に動くものを発見する。兎???
よし。あれで試して……え?
すごい速さで逃げる……まるで『固定』のスキルを感知しているみたいだ。これじゃ捕まえられない……
【スキルはエーテルを利用していますので、なんとなく感知されるはずです】
「なるほど……たまに感じる嫌な感覚もそれなんだね……」
【小さい動物ほど敏感だと考えてください】
ってことは、兎でテストは難しい……というか、あれは食料だな。狩るか。
俺は漁師小屋に戻り、銛を拝借してくる。網を使うのも考えたが、小動物だと破れそうだったので止めておいた。
早速『固定』をつかってスイスイと木に登る。大分なれた気がする。
先ほど兎がいた頭上当たりの木の枝に陣取る。たしか真上って動物から見えにくい位置だったような記憶があるのでしばらく待ってみる。
木の真下に来た時に思い切って銛をもって飛び降りる。何の気配も感じなかった様で易々と兎の胴体を串刺しにする。感触がグロかったが、狼の時よりはマシだな……こっちも慣れたのかな?
ってか、この手法いいな。兎狩り放題か? 食糧問題解決??
ふと、視界の隅に出しっぱなしだったログ表示に気が付く。
【HP+0.001 MP+0.001 STR +0.002 DEX +0.002 AGI +0.002 INT +0.003 MND +0.004 SP+0.002……】
なんか……物凄く微妙に何かのステータスが上がってる……
兎も1000匹狩ればステータスが1上がるんだね。狼だったら100匹か?……ってか、こんな小数点表示うざいんだけど……狩りに集中できなくなるよ。
【小数点第二位以下は非表示にしますか?】
「おお、さすがアーゼさん。それでお願いします!」
【表示したいときはいつでもご連絡ください】
俺は兎をさばきながら考える。肉ばっかりで大丈夫かなと……野菜は……
【ビタミン不足はこの世界にもありますので野菜や木の実、野草、果物などの摂取をお勧めします。生肉で補えますか、食中毒の可能性があるのでおすすめ出来ません】
「やっぱりそうですかぁ……野菜は無理でも果物とか木の実はゲットしたいなぁ」
俺はとりあえず、水の確保をメイン目標にして、ついでにビタミン確保も追加しておいた。
塩は海水を摂取すれば大丈夫だからよかった。
俺は森の探索中に大発見をしていた。
【ズルいかと思いますが……他のプレイヤーでも気が付いた方がおられるので良しとするそうです】
「ふふふっ……よかった」
漁師小屋を離れ、周辺を探索していた。その際に食べれそうな果物があったので食べようとすると、アーゼさんが焦って俺を止める。
【カタシ!! それは猛毒です!! やめてっ!!】
「え?? そうなの??」
俺は持っていた果物を手から思わず落とす。こんなに美味しそうな桃なのに……どおりで沢山実っている訳だ。
……ってか、教えてくれるのか。ってことは……
俺は目についた食べられそうな色々な草花木の実、果物などをいったん食べる物まねをする。
毒がある時だけアーゼさんが止めてくれるので、アーゼさんが毒発見器と化していた。
それにしても、不味い草や木の実ばっかりだな……どう見てもアスパラガスなのに渋いとは。
「アーゼさんありがとう、良い成果だった……」
【はぁ、なんかずるいです。……確かにサポートするのが仕事ですが、これじゃ探検ガイドですよ……】
「そう言いなさんなって。ありがとう。アーゼさん」
【むぅ……】
美味しい実があんまりないな……草も食べれそうな山菜っぽいのをゲットしたけど……焼いたり煮たりすればいいか? 火を通せば大体食べれるものな。海水を足せば塩味も足せるし調味料が無くても行けるだろう。あ、そうだ。海水から塩を作らないとな……
あ……
……フライパン……鍋も無い……マグカップとコーヒーメーカーのガラス瓶だけじゃさすがに無理だよな。
探さないと駄目なやつか。
粘土をこねて焼いて土器を作るとか?? ってか粘土ってどこにあるんだ??
【粘土は至る所にあるますが……】
なるほど、粘土層的なものはあるのか、土を掘る何かが必要だね……スコップとかあるのかなぁ……
とりあえず日も暮れてきたから漁師小屋に戻るか……
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