第8話 初妖魔討伐
俺はしばらく廃村の周りを探索する。村があり、畑や田んぼ跡があれば水源があると推測していた。
(やった! あった!!)
俺は小さな小川を発見する。水はちょっと濁ってるな……飲めるのか??
【残念ながらそのままでは飲料に適していませんね。煮沸してからの飲料をお勧めします】
なるほど、って事は汲んでおいて損は無いか……
大量の空の一リットルペットボトルに川の水を汲んでいく。リストには「標準的な川の水」と出ている。……不透明だな、かなり……これが標準?微生物がたくさんいるんだろうなぁ。
鍋もゲットしたから煮沸して……ろ過したいところだな……砂利とか砂とかなんか使ってペットボトルでろ過ってやってた気がするなぁ……サバイバル本に書いてあったっけ?
【書いてあったはずですよ。図解で】
「アーゼさんありがとう、ってことは……このペットボトルを改良すればいけるか……」
この場にとどまるのは良くないか。川だから水場でもあるから魔獣や小妖魔も使うだろうしな……
!
やっぱり来たよ。妖魔が二人か……良かった離れた場所で……ゆっくりと隠れるか……気が付かれない様に……ってか、あの水を手ですくってがぶ飲みしてるな……アイツらの胃腸強いな……
ふと、突然アーゼさんからのアドバイスが飛んでくる。
【小妖魔もエーテルを保持しているのでステータスアップ・スキルアップの良いターゲットとなります】
(え? なにそれ? 遠回しにヤレってこと??)
【……い、いえ、軽く説明しただけです……】
俺は小妖魔二人から逃げながらも木に登って観察する。二人とも原始人の様な出立ちで、手作り感満載の原始的な槍を持っている。ただ穂先は石ではなく鉄製の何かに見える。鉄を生成する知識、文明はあるって事か? あれを奪いさえすれば……奪えるか?
狼みたいに木の上からの石の投擲……って躱されるか、人型だし。
槍を持っているから……投げてきたら危ないしなぁ……
うーん、ちゃんとした槍だけは欲しいんだよなぁ……あれば狩りも楽だろうし、今持ってる小型の魚狩猟用の銛だと陸上の生物を狩るにはつらいし……馬鍬を改良して作ろうとしたけど……
あ、ちょっとだけテストしてみるか……多分うまく行く。
俺は小妖魔の真上に来るように出来るだけ太い木の枝を伝って音を立て無いように、少しでも対象との距離が短くなるようにして近づく。
川岸の岩に立てかけて置いてある小妖魔の槍に『固定』をかけてみる。15メートルくらいの距離だったのでばっちりと固定した感覚だった。
さて、どうなる??
小妖魔はしばらく談笑(もちろん言葉は全く分からなかったが……)したあと槍を持って移動しようとする……
槍が岩に『固定』されてビクともしない。槍が取れないのに驚き、まるでコントのように二人とも槍を取ろうと本気を出していた。ちょっとおかしくなって笑いそうになったが頑張って耐えた。
しばらくすると何やら二匹が会話をした後キョロキョロと周りを警戒しだし、懐に装備してあった短剣を抜く。木の上にいる俺には気がついていない様だった。しばらくすると二匹は目を合わせた後、一目散にこの場から走って遠ざかっていった。
成功……だな……魔法か何かと思った? ってか不気味すぎて逃げたのだろうか?
短剣も持ってたんだ……そこまで考えが及ばなかった。衣服に溶け込みすぎてて相手が何持ってるかわからなかったよ……接近戦の時は注意だな。妖魔は短剣を標準装備って感じか。
俺は増援を呼ばれないうちに木を降りて二匹が持っていた槍を回収して、一本を四次元ポーチに入れる。若干匂う気がするが……まぁ、無いよりはかなりマシだ。
俺はその場から逃げる様に小走りで漁師小屋方面へと向かう。
あそこまで行けば安全だろう……
と思っていたら俺の直ぐ近くの木の幹に風切り音のあとに カンッ!! と鳴る音と共に矢が突き刺さっていた。
(え? 矢??)
俺は矢の方向を見る前に木の陰にダイビングして入る。
現地住民の襲撃?? ヤバいヤバい!!! どうしよう???
俺は収納ポーチからこの世界の粗末な服を取り出して木の陰からひらひらと相手から見える位置に振ってみる。見事に矢が飛んできて粗末な服に突き刺さる。矢の飛んでくる方向を確かめ、木の幹の逆方向から相手を見る。
弓矢を構えた小妖魔だった。腰に兎が括り付けられている……狩人ってやつか?? 相手の矢筒を見る。矢のストックは結構あるな。
俺は茂みをかき分けながら木の影を利用して逃げる。だが相手の足跡も追ってくる……どうやら獲物認定されたようだった。
くそっ!!
そうだよな。弓矢あるよな……盾になるモノを準備すればよかった!!
心臓をバグバクさせながらも追跡してくる足音から逃げ、木の影に入る。俺にとって登りやすそうな木を見つけると、相手から隠れた位置で『固定』を使って相手から見つからない様に木を急いで登っていく。
あ、登っても今度は弓矢で射られるのか??
追跡して来た小妖魔は弓矢を構えた状態で警戒しながら近づいてくる。丁度、俺の登った位置までくると、足跡を確認していた。
やるしかないな……
俺は意を決し、狩人妖魔の真上から先ほど拾った小妖魔の槍を構えながら木の枝から飛び降りる。
気配を感じた小妖魔が上を見ると同時に、俺の構えた槍が小妖魔の左肩から胴体を貫く。ブチブチと体験したことのない音を手から感じる。とても嫌な感触だ。
それと同時に俺の落下速度が足された体重が小妖魔にかかり、きれいに押しつぶす。足がものすごく痛いが俺も必死だ。槍から手を放さずに引き抜こうとするが、相手も腰の小刀を取ろうとする……体を貫いているのに!! なんて生命力だ!!
『固定』!!
俺のスキル指定が甘かったせいか、小妖魔の指と鞘全体を固めてしまう。何か急激に力が奪われている気がする。小刀を取ろうとした小妖魔は手元を見て小刀が抜けないのに焦っているようだったが……しばらくすると口から血を吹き出し、こちらを睨む目から光が消えていった……
「や、やったのか……やったんだな……」
目の片隅のログが表示されていく。
【小妖魔を討伐 HP+0.02 MP+0.01 STR +0.02 DEX +0.02 AGI +0.02 INT +0.03 MND +0.04 SP+0.02…… 】
【妖魔の初討伐おめでとうございます。ですが早めにこの場を立ち去るのをお勧めします。増援の気配がします】
ああ、そうか……俺は槍を引き抜く。
大量に血が吹き出てくる。
殺したんだなぁ……なんか人間を殺した気分だ……
俺は立ち去ろうとするが、小妖魔が持っていた、小ぶりな弓矢と短刀、それと鞘やベルト、腰にあった兎などを四次元収納ポーチにいれる。
掴んで入れるふりをするだけで入れられるので楽だな……
【冷静ですね】
「ああ、なんか現実感無いんだよね……変な興奮もしてるし……」
SPの残量を確認すると、85%になっていた。生物に使うと一気に減るのだろうか?
俺は足早にその場を後にした。これじゃ追いはぎだな……なんとなく死体を見るために振り返る。よくあるゲームや漫画の様に光となって消えるわけでも無く死体がそのままのこされていた。
ゲームみたいなルールばかりだが、そこはゲームじゃないんだな……現実的な異世界なんだなぁ……
俺は警戒しながらも漁師小屋の方へと向かう。魔獣を木に登りながらやり過ごす。
遠くの方でほら貝の様な音が聞こえる。小妖魔たちだろうか? 相手からすれば殺人があったんだからしばらくあの辺は警戒されるんだろうな……
俺は警戒しながら少しの回り道をして漁師小屋まで何とか辿り着いた。追跡はされていない様だ。
流石に火を焚くと居場所がバレるのでやめておいた。
漁師小屋の天井に多めに木材を『固定』し、なるべく外から見えないように囲ってその中に篭った。外から見たらミノムシみたいなんだろうな……
ここに来て手が震えてくる。緊張が解けたのか……
妖魔を刺した時の感触が蘇ってくる。あんなにゴリゴリぶちぶちとした感触だとは思わなかった。妙な興奮が続いて眠れそうになかった。
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