第4話 セーフティーゾーンの終了
2日目
月明かりがすごいな……3つあるのか……しかも大きい。
俺は半ば強引に、いや、アーゼさんなりにやさしく起こされ、真夜中に目覚めた。
焚火の火も消えて暗いはずが、巨大な複数の月のために、地球と比べるとかなりの明るさを保っているのに驚きを隠せなかった。夜の新宿とまではいわないが、見ようと思えば暗がり以外は見える。街灯のない、田舎の真っ暗な状態を想像していたので拍子抜けだった。
俺が目覚める反応と共に、休んでいた狼たちも立ち上がる。
やっぱり夢の中にいるように思えるけど……リアルすぎるよね。犬の行動が……ああ、吠えたよ……もう……なんで吠えるの??
違う猛獣もきちゃうじゃん??
俺はキャンプの後片付けをしながら、寝ている間に起きた出来事を確認するためにログを確認する。予想通りにスキルレベルが上がっていた。新たなプレイヤーの脱落者はいない様だった。そりゃ死亡ログ出れば、ギリギリまでセーフティーゾーンにいるよね……
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スキル:『固定』
スキルレベル:2.5
使用可能容量:5.2/10.5㎤
SP:99.99%
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寝ている間にも『固定』を出しっぱなしにしておいたら、やはりスキルが上がってた。SPがほとんど減らないね……
まぁ、スキルも5㎤以上あればなんとかなると思っていたので、さっそく実験を始める。
試しに『固定』を左右に二つ分けて発動させてみる。半分半分の5㎤の直方体だ……二つの両手に持った石に発動……成功……半分別々に動かせる……次は四分割……成功……6分割……
【現在のスキルレベルでは対応出来ません】
なるほど……やはりスキルレベルか……上げれば上げただけ有利になりそうだな。
俺はしばらく検証を続け、形態変化などもしてみる。今までと違い角を軽く丸みをつけたり、直方体を半分つぶして平べったくして展開……などが出来るようになっていた。
残念ながら鋭利な刃物の様な形状の実現は出来なかった。これが出来れば槍とかを砂から生成できちゃうんだよね……『固定』がどれだけ固いかの検証は出来てないけど、まぁ、それは先の楽しみとしてとっておこう。今はここからの脱出を考えないと。
【セーフティーゾーンの残り時間6時間となりました】
遠くの空が少し明るくなっている。俺はセーフティーゾーンで一番大きい木の幹の脇に立って上を見上げる。間近で見ると高いなぁ……四十メートル以上はあると思う。
考えてもしょうがないな……さて、やるか!
俺は支給された登山靴の靴底の側面を木の幹と『固定』してみる。それと同時に両手に持った、持ちやすい石と木の幹を『固定』する。
うん。やっぱりうまく行きそうだ。
俺は手足の『固定』と解除を繰り返し、木の幹を少しだけ登っていく。若いからだのおかげかかなり楽に登れるな……お腹の出た身体のままだったら多分無理だっただろう……「カミ」に感謝だな。
俺が『固定』を活用したロッククライミングの要領で木の幹を本格的に登り出すと、狼たちが騒がしくなる。そりゃ獲物が逃げて行けばそうなるか……木の幹をかなり登り、休めそうな大きな木の枝までたどり着く。身体はあまり疲れて無いな……学生時代は運動神経はそこそこよかった記憶があるからかな?
それにしてもお腹がへっこむだけですごいものだ。現実社会じゃ運動する機会ないもんなぁ……
【すごいものです。そっちを『固定』するとは……うまく行きましたね】
「ありがとう。まぁ、うまくやれば……木を伝って……」
俺は木の枝から繋がる先を見る。確かに大木が多く、頑張れば伝っていけるが、今いる枝の高さは20メートルはあるか……落下したら死んでしまう高さだ。命綱も無いのでそちらは最後の手段だな。
俺は狼の真上まで移動する。目下で吠えてまくしたてる狼を観察する。あまりこちらを見ていない数匹に向かって四次元収納ポーチから大き目の石を次々と取り出して狙いを定めて全力で投げて落としまくる。
こちらを見ていた狼たちは一瞬呆けた後、外れた石の鈍い落下音と衝撃に驚きすぐに逃げ出したが、こちらを見ていなかった狼の頭にいくつかの石が直撃をしフラフラとした後に倒れる。20メートルの高さからの投石はかなり有効だったようだ。
(よっしゃ! うまくいった!! どんどん投げるぞ!!)
俺は両手を使ってポーチから石を次々に取り出して投げまくる。俺の方を見ていなかった狼達は何が起きているかわかっていないようだった。とり残された狼達は混乱して立ち止まり、良い的になっていた。
暗がりでこっちの事をあまり見えて無いのか?? まぁいいや、どんどん行くぞ!!
【「魔獣フォレストウルフ」の討伐をしました】
【「魔獣フォレストウルフ」の討伐をしました】
「え?」
狼が2匹ほど倒れた後、起き上がらずにぐったりしているが……あれ死んだのか??
【ええ、この高さから岩ともいえる大きさの石が頭に当たれば死ぬでしょうね】
【HP+0.02 MP+0.01 STR +0.02 DEX +0.02 AGI +0.02 INT +0.03 MND +0.04 SP+0.02】
ん? なんだこれ? ステータスか?? 魔獣を倒すと増えるのか??
【ええ、そういうシステムですね。魔獣のエーテルを吸収すると生物的に強くなる世界と書いてあったでしょう?】
書いてあったけど、書いてあったけど、あれってそう言う意味なの?? 経験値的なものだったのか! エーテルじゃなくて経験値って書いてよ!!
【……その件に関しては上に持っていきます】
俺は特に恨み……いや、先程までは俺が捕食対象だったので恨みはあるか……石が直撃し、気絶状態の残りの2匹にもついでと言わんばかりに持っていた石を全弾投擲しておいた。
残り二匹分のエーテルによる能力の上昇を確認した。
「アーゼさん!! これってステータス見れるんでしょ?」
【念じれば見られる……あ、いえ、見れないらしいです。『鑑定』『解析』などの情報スキルを頑張ってゲットしてください】
「え、そんな……他のプレイヤーから奪えって事か……うーん……」
俺は木の下にできた狼の死骸を人間に置き換えたシーンを想像する。軽く吐き気を覚えた。
殺して奪うは……ゲームだと抵抗ないけど現実的なこの世界だと精神的につらそうだな……
ほかの狼が遠巻きにこちらを見た後、去っていくのを確認し大木を降りて行った。『固定』の安心感が半端なかった。困ったら『固定』すれば落ちないものね。慣れてきたらどこかの忍者みたいに垂直に歩いて降りれるんだろうか? 体を支えるために相当な筋力が必要そうだな。
俺は狼の死骸を前に着くと、軽く罪悪感を感じる。だが、こいつらは俺を襲おうとした……そう思って自分を正当化しておいた。一応手を合わせて拝んでおく。
狼を撲殺した石だったが、この手ごろなサイズの石は今の俺にとって最強の武器になるのでなるべく全部回収をしておいた。若干血がついているものもあったが、気にせずに入れておく。
「アーゼさん、もしかして、この狼……魔獣の肉って食べられる?」
【はい、食べられますよ。魔獣といってもエーテルが強いだけの生物ですので体に害はありません むしろ強くなれるかもしれませんね】
「なるほど……これも四次元ポーチに入れておくか……」
狼を持ち上げ、頭を四次元ポーチの中に入れるとするっと入っていく。
「あれ? このポーチの中って、時間経過どうなってるの?」
【少々お待ちを……時間経過はこの世界より少し遅いくらいの速度だそうです。腐らないうちに食べるのをお勧めします】
少し遅い……嫌な予感がするな……
「温度は何度なの?」
【……えっ? 少々お待ちを……おそらく12度前後とのことです】
「ちょうど腐りそうな温度だなぁ……冷蔵庫って何度だっけ? ……冷蔵機能欲しいね」
【温度操作系のスキルの獲得を推奨します】
「やっぱりあるのね……」
俺はアーゼさんと雑談をしながらセーフティゾーンに戻り「誰でもできるサバイバル・キャンプ生活」を片手に、この世界に来て初めて獲物をさばいた。血抜きは想像以上の匂いだし、内臓も湯気が出てグロイし匂うし……あ、ここ切っちゃだめだったのか? アーゼさん、アドバイスありがとう。強すぎる匂いは俺のナイフ捌きのせいだった。
獲物を頑張って2匹分捌き、一匹は大失敗で廃棄。残り一匹は時間的に無理かな……『固定』を駆使して助手代わりにしていたので、かなり楽にさばけた気もする。たまに勢いのついたサバイバルナイフが自分の指を貫通していたが、プレイヤーは切れない安全機能に感謝をしていた。
捌いた肉も乱雑に切り分けてとりあえず四次元ポーチに入れておく。
残った内臓とか、解体に失敗した肉は他の魔獣や肉食獣が食べるのかなやっぱり……土を掘って中に入れましょうって書いてあったけど……時間的に無理だな。
【セーフティーゾーンの残り時間30分となりました】
俺は狼の仲間が帰ってこない事を確認し、セーフティーゾーンの効果が切れる前にその場を後にした。
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