第3話 狼の包囲網
§ § § §
俺は困っていた。
石のハンマーが当たって逃げ出したと思った狼達は仲間を引き連れて、セーフティーゾーンの周りにいすわっていた。3匹が10匹になったな……
ハハハ……これじゃ逃げれないじゃないか……さっさと場所を引き払った方が良かったのだろうか?
明らかに準備時間が足りない……仕方ないか……
俺はセーフティーゾーンの中でマニュアルを読み返していた。スキル以外にも、この場を切り抜けられそうな、生存できそうな方法を探していた。めぼしいものは何も無かった。ナビのアーゼさんに切り抜けられる方法を聞いてみても
【方法などはご自分で考えてください】
との冷たい一言で終わった。雑談には付き合ってくれるのに……
俺は支給品の事を思い出し、武器が無いか持ち物のリストを調べる。
あった。
サバイバルナイフ
・獲物の解体用にお使いください。プレイヤーには刃が通らないので注意してください。
直接的なモノはこれだけか……プレイヤーには刃が通らない……って不思議だ……
俺は早速取り出す。試しに自分に軽く押し付けてみるがすり抜ける。適当な草に向かって振ると普通に切れた。凄い切れ味だ。
これって超安全なナイフだな……プレイヤーじゃない狼には通用するよな……でも一斉に襲われたらこれだけじゃ……一匹だけでも噛んだり引っ掻いてくるだろうし、組みつかれてる間に大怪我……アレだけの数だと一匹に傷を負わせている間に他の狼に噛みつかれまくって……おそらく死ぬな……
俺はどこかで見た狼達の狩りの映像を思い返していた。周囲を囲んでガブガブと……
想像するとぞわっとしてきた……やられるわけにはいかないな……
俺は、その他にも使えそうな備品をとりあえず出してみる。取り出したら大きくなる仕組みはやっていて面白かった。魔法使いになった気分になる。
・サブリュック 20L
・10メートルのロープ
・釣り糸 30メートル
・釣り針 10個
・固形食糧14日分
・水のペットボトル 一リットル 28本
・ファイアスターター
・コーヒーセット 豆一袋つき プラスチックっぽい上部のパーツと、フィルター 耐熱ガラス600mlの入れ物。
・ステンレスっぽいコップ
・獲物解体用吊るし具 滑車つき
・寝袋
・LEDランタン 燃料残量不明 太陽電池つき?
・ハンモック
・折り畳み式椅子
・折り畳み式テーブル
・救急キット(包帯と傷テープ。よくわからない薬が二本。ケガをしたときにお飲みくださいと書いてある)
・本「誰でもできるサバイバル・キャンプ生活」
(……何であっちの世界のキャンプグッズ??? 何で釣り糸あって竿無いし!!?)
収納ポーチから出してみると分かったのだが、かなりの容量が入るポーチだったようだ。ほんとに四次元ポケットだなこれ。
収納ポーチの方が気になったので、思わずその辺のものを入れてみる。とりあえず手でつかんで入り口に少しでも入れない限りは入らないのが分かった。
土とかは握った分しか入れられなかったし、粉状のものを全部残らず取り出すときはポーチをさかさまにして、手を入れた状態にしないと出なかった。
念じれば入ったり出たりするとか、そこまで親切な仕様ではない様だった。そこ等の石を詰め込んで上からまとめて落とす……とかはやれなさそうか……一つずつ投げればいけるか?
取り出すときも意識して、握って引っ張らない限りは取り出せない様だった。
すぐに取り出したいなら支給品の「サブリュック」に入れておけって事だろうか?
「誰でもできるサバイバル・キャンプ生活」にヒントが無いか開いてみてみると、あちらの世界と、この世界でのキャンプの方法、火のつけ方やら何やらが載っていた。
何故か獲物のさばき方まで画像付きで載っていて若干グロかった……が今後はこれをやらないと駄目なんだよなぁ……血抜きって……そうだよな。やるよなぁ……吊るすのかぁ、支給品のこれか?
俺は収納ポーチに出したものをしまいながら色々と考える。折りたたみ式テーブルの角がポーチの入り口に来るとするっと小さくなって入っていくのには若干の感動を覚えた。
うーん……生活必需品は探さないと駄目ってことだよなぁ……ってか、コーヒーセットはあるのに、鍋とか包丁が無いのはなんで??
アイテムの選別に偏りがあるな……何を参考にしたんだろう?
ショッピングモールにあるキャンプ用品売り場の展示場みたいだな……ってか、まさかあれをそのまま参考にしたのか?
思考に入り込んでいると、突然頭の中に音声が流れ、視界の片隅のログウィンドウに文字が表示される。
【スキル『固定』が レベル 2 に上がりました】
「え?」
スキル使ってないはずだよな……俺は慌てて自分の現在のスキルを確認してみる。
**********************
スキル:『固定』
スキルレベル:2.000
使用可能容量:1.128/2.025㎤
SP:99.99%
**********************
あ、さっき狼に投げた石のハンマーくっつけたままだったか。
俺は解除しようと意識すると、スッと何かが戻ってきた印象だった。これがスキルパワーと言うやつか?
表示を見てみると、現在の使用可能容量 0.000/2.005㎤ となっていた。知りたい情報を思い浮かべると表示されるシステムなのか??
なるほど……解除しなければ永続的に効果が続くし、使えば使うほどスキルが上がるシステムなのね……ってことは、消費SPも少ない今なら出しっぱなしの方が良いって事だな。
でも……2㎤かぁ……
俺はいろいろと考えながらも、支給品のロープの先にサイバルナイフを固定して振り回してみたりした。
行けそうかなと思って、寝ている狼に向かって振り回してみたら見事に外れて、相手を驚かせて警戒心を強めさせるだけだった。
セーフティーゾーンの中から攻撃し放題なのか……良い作戦考えれば何とかなるか??? 遠距離攻撃の手段があれば……
【セーフティーゾーンの残り時間18時間となりました】
げっ……時間が思ったより減ってる……俺は振り回していたロープで頭上にある大木の枝に突き刺さらないかテストをしてみる……が、重さが全然足りないのでうまく飛ばない。
ああっ、もう!! 重さ、重さが足りないなら……
ロープの先にそれなりの大きさの石を『固定』して遠心力を利用して振り回してぶん投げる。上手いこといった! 大きな木の枝にひっかかった。
「よっしゃ! 届いた!!」
俺は『固定』の範囲を少しだけ広げるイメージでロープと木の枝を『固定』する。引っ張ってみてもビクともしない。これで大木を伝って……逃げるだけ逃げれば……逃げれるのか??
木と木を伝うにも同じようにロープを固定させれば……出来るのかほんとに?
少し冷静になりながらも、とりあえず上に登ってみようとしたが……
……出来なかった。
運動神経はそれなりにあったはずなのに……垂らされたロープを登るのって難しいんだな……身体がすぐ傾いて……くそっ! なんか狼たちも興味深そうにこっちを見て喜んでやがる!! 「サスケ」のロープ登りってすごいんだな……どうやって登ってたか……あまり思い出せないな……
俺は幼児がロープで遊んでいるかのようにぶらぶらと揺れながらこれからの事を考えていた。
木の上から伝って逃げるのはほぼ無理。木と木と間が予想以上に広いのと、俺が映画とかの主人公とか、レンジャーみたいにロープをするすると登れないからな……ロープ登りも練習必要なんだな……肉体が18歳に戻ったおかげで出ていたお腹はかなりへっこんだけど、それでもだめなんだよね……
俺は揺れるロープから飛び降り、次の作戦を考え始めようとすると、頭の片隅にログが表示される。
【Player:YokosukaTomato が魔獣によって殺された。Pos<40253. 2850. 24437>】
……え? 殺された?? セーフティーゾーンから出たのか?? ハンドルネーム表示出るのか? Pos って場所か??
「アーゼさん! 地図って出せるの?」
【はい。出せますよ。地図とイメージしながらUIを開くようなイメージで……】
「わ、わかった。とりあえずやってみます……」
俺は言われるがままにイメージすると視界に光る地図が表示される。……あれ? なんかいろいろと虫食いだな……座標は表示されてるな……俺の座標からは……遠いのか、さっきのプレイヤーの場所は表示されてないな……
「アーゼさん、座標ってわからないのか?」
【座標に関しては、行った事のない場所、至近距離で視認していない場所に関しては詳細には表示されません】
「なるほど……地図が虫食いなのはそのせいか……島の輪郭が何と無く表示されてるのは落ちる時に見たからか」
俺は試しに自分の座標を調べてみる。先ほどのプレイヤーが殺された座標の表示と大分数字が違い、かなり離れた位置の出来事だった。虫食い地図で表示されている場所ではなく、欄外だった。
「プレイヤーが魔獣に殺されたときはスキルオーブとやらはどうなるの?」
【スキルオーブはプレイヤーが死んだ位置に出現します。消えませんので回収すると有利になるかと思いますよ】
「ってことは、近くでプレイヤーが死んだら……ラッキーって感じなのかぁ……落ちてきたときに見た感じだと隣のプレイヤーまで1KMは離れてるから……」
思考していると、目の片隅に狼達の姿が映る。とりあえずは他のプレイヤーよりも自分の今の状況を何とかするのが先だな。YokosukaTomatoさんも魔獣に殺されたみたいだし……
狼10匹を相手に戦えるようなスキルじゃないし、追い払えばいいんだよな……
狼を観察していると、一匹の狼の片目がつぶれている感じだった。もしかして石のハンマー投げてあたったやつか?
かなり全力で投げたハンマーだったが、あれに当たれば怪我はするのか……よくわからない魔法のシールドみたいなのは無いみたいだな。
俺は周囲にある投げられそうな石と、一応ギリギリ持って落とせそうな大きさの石を収納ポーチに入れていく。殆ど岩だな……
今のところ容量に問題はなさそうだ。重さが全くなくなるのが凄い。さすが四次元収納ポーチ。何でこんなチートを「カミ」は全員に渡したんだろう?
【それはプレイヤー同士の活動を活発にする目的らしいです。以前行った小規模テストでは移動がリスクになりすぎて中々移動せずにプレイヤー同士の戦いも、魔獣の討伐なども積極的に行われませんでした。殆どのプレイヤーが最終目標である黒結晶にたどり着く気配すらなかった……とのことなので】
「な、なるほど……心の声が聞こえてらっしゃるのですね……」
【す、すみません。大変興味深い行動をしているので思わず……】
……気恥ずかしいが、相手はカミみたいなもんだろ……開き直らなきゃ……
……音声は中世的だけど、なんか女性っぽいんだよなぁ……やっぱり恥ずかしいな。あんまり変な事を考えない様にしよう。
俺は黙々と石を拾っては四次元ポーチに入れていく。石以外にも、手で持つに丁度良い木の枝などを拾ったり、かなり全力を出さないと持てない殆ど岩と言っていいものなども入れていった。
【スキル『固定』がの最大容量が 3.000に上がりました】
よし! 思った通りだ。先ほどから出しっぱなしにしていた『固定』スキルが上がった。スキルの状態を確認しても SP 99.99% は変わらない。疲労感も無い。コスパのいいスキルの様だ。
【セーフティーゾーンの残り時間15時間となりました】
空が暗くなってきたな……夜は明りが無いから暗いよな?
俺は「誰でもできるサバイバル・キャンプ生活」の情報をもとに、生木を避け、落ちてから時間が経過した枯れた木を集める。それと枯れた葉と燃えそうなものをまとめて集める……季節が夏の様で非常に少ないな……仕方がない……
マニュアル通りに石で囲み、サバイバルナイフで燃えやすいように削った枝のカスにファイアスターターなるもので火をつける……つかないぞ?? 煙が……うへっ……もっと乾燥したものを……枝をもっと割かないとだめか?
小1時間くらい試行錯誤して何とか火をつける。気が付くと周囲はもう日が落ち暗くなってきていた。しまった、火をつけるのは目的じゃなかった……途中から楽しんでしまった……
狼たちは火が付いたことに驚きはしていたが、この場を退散はしてくれなかった……残念。動物は火を避けるとか聞いてたから期待していたのに。
§ § § §
俺はせっかくなので支給されたコーヒーセットを利用してコーヒーを……鍋が無いな……お湯はこのマグカップで温めるか……スチール製のものを直接火であぶっていいのか? 多分やり方としては邪道だろうが、木の枝を取っ手部分に通して一杯分のコーヒーの湯を沸かす。中学生のキャンプ以来だな、こんなことをやるのは……
支給品の折り畳みテーブルの上でコーヒーセットでコーヒーを抽出する。なんでヤカンを用意してくれなかったんだろう「カミ」よ……
折り畳み椅子に座りながら支給品の食糧……カロリーメイトもどきを食べる。暖かいコーヒーでリラックスする……
こうしていると地球で元彼女とキャンプに行ったのを思い出すなぁ……
俺は空を見上げながら覚悟をしていた。
恐らくこれが最後の安全な休息になると。
セーフティーゾーンが解除される12時間後からは厳しいサバイバル生活になると……
俺はアーゼさんに目覚ましを頼むと寝袋に入ってしばしの仮眠をとった。
疲れ過ぎていたようで途中から意識がなくなっていた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます