第2話 異世界の空中に放り出された

§  §  §  §


俺は落ちていた。


「う、うおおおおおおおおお!!!! これは夢じゃないぃぃぃぃ!!!」


テレビとかYoutubeでしか見れないような大空、飛行機が飛ぶような高さを「落下」していた。


周りは海と山に包まれたもの凄い絶景だった。たが数分後には地面にたたきつけられて死亡のイメージが浮かぶ。

俺はフリーフォールの時よりも股のあたりが「ヒュン」となる落下感に包まれながらも、慌てて何とかならないかと全身をまさぐる。

いつの間にか、スーツじゃない、何やら山登りみたいな服になっていた。

ハーネス?? リュック??? ってかどうなってんの???

(って死ぬ!! これは死ぬ!! パラシュートとかないのか????)


【パラシュート展開まで後60秒です】


風を切るすさまじい音のせいで聞き取りにくい音声と共に、目の端に光る文字のガイドが表示される。


パラシュート! ……あるのか! ……助かるのか……


俺は現状を理解すると少しだけ安心し。スカイダイビングの動作をイメージして見よう見まねでやってみて体勢を立て直す。あまりの速さで落下する感覚が無くなっている。風の音がすごい!


落ちながらも周囲を見渡すと目下には綺麗な島……というより地平線まで続く大陸が見えた。

陸地の中央に小さな富士山が見えるな……あれが黒結晶のある場所だろうか? 海もとてもきれいだ……なんか巨大なクジラがいるような魚影も見えるな……翼竜みたいなのも飛んでるし……ドラゴンか?

俺のゲーム的な思考回路が出来るだけ情報を集めておいた方が良いと告げる。

大陸とも思えるその巨大な「島」をくまなく観察する。

遠くに建物らしき塊……集落らしき小さなものから、小規模な町があるのを確認し、遠くの海に船が浮かんでいるのも確認した。漁船? ヨットか? 

文明はそれなりにあるようだが……巨大なビルは無い。近代ではなさそうだな。定番の中世だろうか??


すると、雲を突き抜けた後、突然色々な場所で白い塊が花のように咲いて出現する。

落下傘? 白いパラシュート?? 他のプレイヤーか??


ボンッ!!!!


そう思っていると突然大きな音と共に体が上に引っ張られるような感覚になる。

上を見上げると俺の体の上にも白いパラシュートが展開されていた。


俺は慌てて周囲を見渡す。

至る所に白いパラシュートが展開されている。かなり等間隔だな……近くのプレイヤーまで1KMくらいか?? パラシュートの数が多いな? 100以上はある……水平線までびっしりと展開されていて……これはこれで壮観で凄いけど参加人数何人なんだ??? 何百人いるんだ? 千人はいるんじゃないか??

これ……最後の一人になんてなれるの?? バトロワしないで協力して黒結晶とやらを壊しに行った方がいいんじゃないのか?


落下地点辺りを見ると、海岸の近くのかなり端っこの位置取りの様だった。海の上にはさすがに落とさないか……ジャングルじゃないか? ここ? 生きて行けるのか??? 近隣に水場を発見できなかった……海の方が近いな……海水は飲めないよな? 探さないと駄目なやつか。あれ? 熊とか、狼とかいたらどうするんだ??


頭の中で色々と考えている間にも、パラシュートはかなりの速度で落下していき、あっという間に地表に近づいていった。


§  §  §  §


パラシュートが木々を貫通していく。引っかからないかと疑問に思ったが、何かしらの不思議な力が機能しているようだった。

まるで夢のようなふんわりとした感覚の速度になり地面に降り立つ。よくスカイダイビングの動画で見る不時着的なものでは無く、ふつうに立って降りれた。不思議な力が凄いな、魔法なのか?


俺が着地した先は木々に囲まれた大自然そのものだった。

パラシュートが粉になり空気に溶けこむように消えていく。それと同時に水色に光る何かが周囲に発せられる。直径三十メートルくらいの光輝く何かに包み込まれる。

すると頭の片隅に文字の様なものが表示され、同時に音声が流れる。


【セーフティーゾーン解除まで、残り24時間です。時間以内に最終準備を完了させてください。この世界の詳しい情報などはマニュアルに記載されています】


準備……最終準備か、とりあえずマニュアル読んで、持ち物チェックだな……あとスキル『固定』の検証……24時間以内に終えろってことか。睡眠時間込みだよな? この世界に来てもブラックな気分になれるな。


「あれ? マニュアル?? あんのか?」


俺は服などを触ったりするが……本らしきものは無い……というよりなんもないぞ?


【それでしたら、腰のポーチに入っております。マニュアルをイメージして腰のポーチに手を入れてください】

「え? 腰のポーチ……あ、これはご親切に……」


俺は音声ガイドに従って腰のポーチのふたを開ける。中が黒い……光が届かないのか??

とりあえず手を入れてマニュアルをイメージすると頭の中に持ち物のリストが表示されマニュアルがハイライトされる。WindowsのUIみたいだな……ブラウザってやつか。

腰のポーチの中の手の先で「本の様な感触」が生まれたので掴んで引き出すと、魔法の様に形状が変化しながら大きくなる。この世界の分厚いマニュアル本が飛び出て来た。ポーチの取り出し口のサイズより明らかにマニュアル本が大きい。

(すごいなこれ……アイテムストレージってやつか……使い勝手は四次元ポケットの方が近いか??)

気になったので腰のポーチに手を突っ込み、他の持ち物リストを確認する。水や携帯食料、サバイバルグッズなどいろいろと入っているようだった。これが支給品ってやつか?


【2週間分の食糧と水、最低限生きていける様にサバイバルグッズを支給しています。出来るだけ早く現地の食料と水を確保することをお勧めします】


俺は音声が頭の上から聞こえた気がするので思わずそちらの方を見る。そこには空中に音も無く浮くドローン……光る目がついた球体の何かがいた。

呆然としていると球体のドローンが話しかけてくる。


【私に気が付いた様ですね。私はあなたをサポートするナビNAV-SYS02ARZEです。宜しくお願いします】

「……ああ、どうも、ご丁寧に……宜しくお願いします。凄いな。AI……ドローンか?? 音も無く浮いてるし……」

【AIではありませんが、質問していただければ最低限のサポートをします。あなただけに見えていますのでご注意ください】

「……ナビに四次元ポケット……これだけでなんとかなりそうだな」

【プレイヤーの皆様全員への共通至急品となりますので、アドバンテージにはならないかと思います】

「ああ、そうか……これを現代に持って帰れたらすごいんだけどな……空飛ぶナビ……名前ながいな……綴はこれか……アーゼさんでいい?」

【……はい、ご自由にお呼びください】


ガンッ!!!


ナビのアーゼさんに質問をしようとすると、俺の後方で突然、何かの衝突音と共に犬のヘタレる鳴き声が聞こえる。


「キャウンンーン!!!」

「キャィンーン!!」

「ガウッ!ガウッ!!」


振り返ると、三匹の犬、いや、結構大きい狼がセーフティーゾーンの光の壁に遮られて激突した様で、一匹が痛みで悶絶していた。本当に「セーフティー」な場所になっているみたいだな。

しばらく狼を観察する。相手もその場をうろうろしこちらに入れないかの確認をしているようだった。こちらを襲う気満々のようだな……そりゃ獲物がすぐ近くにいれば……

俺は光の壁の中には入ってこられないのを確認すると同時に、急いでマニュアルを広げ、情報を頭の中に叩き込み始めた。これは時間勝負だな……セーフティーゾーン終了と同時にあいつらから逃げないと……



俺は分厚いマニュアルをざっと流し読みで30分ほど見た後、このゲームの概要を理解する。

マニュアルの最初に、「マニュアルは随時更新」とかふざけたことが書いてあったが、まぁ、気にすることはないだろう……多分。

とりあえずお約束のあれやってみよう。マニュアルにはなかった気がするが……


「ステータス・オープン」


【 ……なにをやっているのですか?】

「出ないな……自分の状況を知りたいだけなんだが……やっぱりだめか」

【スキルの状況を知りたいのでしたら、頭の中で必要な情報を表示と念じれば出るはずですが……】

「え? そんな簡単に??」

【見辛かったようですね。マニュアルを更新しておきます】

「えっ!?」


俺は少し動揺しながらもスキルの状況と説明を表示……と念じると、視界に光るウィンドウが表示される。

ARの世界だなこれ……感動しながらも表示された文字を読む。


**********************

スキル:『固定』 

スキルレベル:1  

使用可能容量:1.000㎤

**********************


とだけ表示される。少なくない?

って、1立方センチメートル?? サイコロくらいか? 小さすぎじゃない??


「……情報これだけ?」

【はい、まだ何もやっておりませんので情報ログが溜まっていません】

「……なるほど、ログが見れるだけなのか……スキル使ったりすれば増えるのかな?」

【そのはずですが、試してみてはどうでしょう?】


俺は『固定』できそうなものがないか周囲を見回す。

木の棒と石があったのでとりあえず『固定』を使用してみる。

頭の中で説明できない何ともいえない不思議な感覚が流れる。

(ん? ワールド座標とローカル座標?? なんだこれ? 世界と地方?? くっつけるだけだから、ローカル……地方、手元だよな?)


とりあえず意味が分からなかったのでローカル座標を指定して木の棒と石を固定してみる。俺の目には1㎤の立方体のイメージがわき、木の棒と石の間に『固定』のスキルを出してみる。


くっついた……な……


『固定』のスキルが木の棒と石をくっつけていると理解した。

見事な石斧……原始的な石のハンマーが出来た。とりあえず地面をたたいてみたり、そこら辺の岩を殴ってみる。結構な衝撃が腕全体に伝わってくる……だが壊れない。 

……かなりの接着強度の様だ。スキルを使っていても疲れないし……どういう原理なんだこれ?

試しに足元の砂を固めようとするがエラーログが出るな……スキル容量が足りません??

スキル解除をしないと駄目な感じか?? 石のハンマーの『固定』を解除して足元の砂を『固め』てみる。

うん。小さな一立方センチメートルのサイコロが出来たな。形状の変化は出来ないな……ん? ちょっと伸びたか??

刃物みたいなものは出来ないか?? マニュアルによるとスキルは成長すると書いてあったけど……

俺はしばらく色々なものをくっつけてみたり、スキル『固定』の検証を始めていた。

スキルで固めた砂のサイコロ石を遠くに投げても解除されずそのままで、意思をもって解除をしないと永続的にかかり続ける仕様だった。

形状が変化できないか、複数分割できないかといろいろと試してみたが、

【現在のスキルレベルでは足りません】

のエラーログが頻発していた。流石に最初からは無理か?

十分程、色々やってみるが、全然疲れていないことに気が付く。


「アーゼさん、これスキルって使い放題なのか?」

【いえ、影響範囲、持続時間などに応じてスキルパワーを消費していくはずです。使いすぎるといざというとき使えませんのでご注意ください】

「スキルパワーの残量って見れないのかい?」

【……念じれば見られるかもしれません】


俺は言われるがままに試してみる。


**********************

スキル 『固定』 

スキルレベル:1.41  

使用可能容量:1.072㎤

SP:99.99%

**********************


これだけでスキルレベルも最大容量も上がってるな。最初は上がりやすいのかな?


「アーゼさん、SP99.99% って出てるんだけど、これって消費した方? それとも残っている方?」

【ええっと……この場合は……少々お待ちを……わかりました。頭が痛くないのなら残り99.99%ですね】

「なるほど……」


使いすぎると頭が痛くなるからわかるのか……って事は、うすうす気が付いてたけど、俺がもらったこの『固定』というスキル……


貧弱……外れスキルってやつじゃ……こんなスキルじゃ……狼達に食い殺される……火炎とかだったら焼き殺せるのに……


俺はセーフティーゾーンの外をグルグルと回っている狼の目を見て、ペットの犬とは違う捕食者の視線を感じ血の気が引いていった……


「これでどうやって生き残れっていうんだ???」


俺は先ほど固定した石のハンマーを外にいる狼の一群に力いっぱい投げつけた。体がものすごくキレてる! そうだった、十八歳になってるんだった。さすが若い体だ! 軽快だ!


「キャイン!」


完全に無警戒だった狼の顔面に綺麗に石のハンマーが直撃し、驚いた狼の群れはその場を去っていった。


「おっ!! やりぃ!」


俺はやってみるもんだなと、学生時代はそれなりの運動神経だったと思っている自分を褒めてみた。


§  §  §  §

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「バトロワ」無視して異世界サバイバルライフ! ~ 逃げちゃダメなんて誰が言ったんですか? 藤 明 @hujiakira

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