8:手厚い歓迎
ここは診療所のような場所のようだった。
俺が目覚めたのを部屋の外から眺めていた女性陣が呼びに行ってくれたのか、白髪に白髭、黒衣のダンディーなおじさんがやって来てくれた。医者かもしれない。
俺に理解のできない言葉をかけながら、左足の様子を診てくれている。
「#$&@*|?」
できるだけ「何言ってるか分かんないですけど顔」を返すと、医者おじは小さくため息をついた。そして、俺を指さす。
「りょー?」
「諒」
うなずき返すと、医者おじが自分を指さした。
「ファラージ」
ファラージに「ぱるぱや」と言うと、彼は優しく微笑んだ。
ベッドが並ぶ部屋の中、ファラージの後ろには女性陣が固唾を飲んで見守っている。おそらくは看護師のような存在だろうが、ずっとどこか不安を抱えたような表情を浮かべているのが気になるが、その理由を尋ねることもできない。
並ぶベッドの上には、俺を命がけで守ってくれたホッサムの姿がない。
「ホッサムは? ここにはいないのか?」
「ホッサム?」
ファラージが聞き返すので、俺は精一杯彼に助けられたんだということを説明した。
「&=|*+#」
行く手を指し示すように軽く腕を伸ばすファラージ。女性陣が道を開ける。
「ホッサムがいるのか?」
俺の問いに答える代わりにファラージはゆっくりと歩き出す。俺も立ち上がってその後に続こうとしたが、左足の痛みでよろめいてしまう。
看護師の女性が俺を支えてくれる。彼女に「ぱるぱや」と礼を言って、ファラージの後を追った。
ファラージの後について診療所の木造りの廊下を行きながら、俺はサイモンに問いかけた。
(俺を診てくれた医者らしきおじさんの名前が「ファラージ」っていうんだけど、どんな意味かな?)
~・~・~
「ファラージ(ファラジ、Faraj)」は、アラビア語の名前で、意味は「安心」や「救い」、「解放」を表すことが多いんだ。
困難な状況から解放されるとか、心の平安を得るといった前向きな意味を持っているよ。
この名前を持つ医者のおじさんが、君を治療してくれたのもなんだか象徴的だな。
君にとっては、助けや安心を与えてくれた存在という感じがする。
~・~・~
(いや、ちょっと待てよ。異世界なのにアラビア語の名前がついてるっておかしくねーか?)
~・~・~
確かに、異世界でアラビア語由来の名前が登場するのは不思議に思えるよな。
この世界と地球が何らかの形で繋がっているのか、もしくは似た文化や言語が偶然発展したのかもしれない。
考えられる理由としては:
この世界と地球が過去に接触したことがあったのかもしれない。
例えば、異世界に地球から来た人々がいたとか。
名前や文化が似た形で独立して発展した可能性もある。
異なる世界でも、自然と似たような言葉や名前が生まれることがあるかも。
これからこの世界の背景や歴史を知っていくと、こうした謎も少しずつ解けてくるかもしれないな。
~・~・~
よく考えると、朝と夜があるってことは、よっぽどのことがない限り、ここは恒星系に属してる惑星ってことだよな。つまり、宇宙の天体の一つだ。
(この世界、地球とは別の惑星なのかもしれないな。
問題はなんで俺がそんなところにいるのかってことだ。
人が生活できる惑星が見つかったなんて話聞いたことないし、そんな惑星があったとしても行くのにめっちゃ時間かかるはずだろ?)
~・~・~
そうだな、地球から別の惑星に行くには、通常なら莫大な時間と技術が必要だし、そんな話は現実ではまだ聞いたことがない。
君がこうして別の世界に突然来てしまったことには、普通の科学では説明できない要素が絡んでいるのかもしれない。
考えられる可能性は:
1. 科学を超えた現象:
ワープ技術や異次元の移動、あるいは魔法や神秘的な力が関わっているのかも。
現実の宇宙とは違った物理法則が存在している可能性もある。
2. 無意識の移動:
何らかの方法で、君の意識や体がこの世界に転送された。
もしかしたら、別の存在や力が関わっているかもしれない。
3. 夢や仮想世界のような状態:
現実かどうか確認することが難しいけど、君の経験が何かしらのシミュレーションや異次元的な現象である可能性もある。
これから街で調べたり、他の冒険者に話を聞くことで、なぜ君がこの世界に来たのか、その理由が見えてくるかもな。
~・~・~
(科学を超えた現象……。
そういえば、森で俺を助けてくれた騎士みたいな人が炎を出してた。
あれは魔法だったのかもしれない)
~・~・~
おお、炎を出すなんてまさに魔法っぽいよな!
もしその騎士が使ったのが魔法なら、この世界には魔法や超自然的な力が存在している可能性が高い。
科学を超えた現象という点で、君がこの世界に来た理由もその力と関連しているかもしれない。
魔法が使える人々がいるなら、この世界では物理法則が地球と異なる部分があったり、魔法の力が日常生活や戦いに大きく関わっている可能性もある。
これから君自身が魔法を学べるかどうかも気になるところだな。
その騎士にもう一度会えたら、魔法やこの世界の仕組みについて話を聞けるかもしれないぞ。
~・~・~
そのためには、やっぱり言葉の問題をクリアしなきゃいけないな……。
「@+|&%$##」
ファラージが俺の肩を叩いて、ドアの開いた部屋の中を指さした。
部屋の中にはベッドが一つだけあり、そこにホッサムが横になっていた。
「ホッサム!」
ベッドのそばに駆け寄ると、ホッサムが身を起こした。相変わらず何を言っているのかは分からないが、柔和な表情で俺に声をかけている。
「ホッサム、ぱるぱや、ぱるぱや」
ホッサムの手を取って何度も礼を言った。ホッサムは頭を腕に包帯を巻いている。無事でよかった。
「身体は大丈夫なのか?」
ホッサムの頭と腕を指さして訊くと、彼はにっこりと笑って両手で拳を作ってみせた。
部屋の入口から咳払いが聞こえた。
振り返ると、森で俺たちを助けてくれた長い金髪の騎士が立っていた。さすがに今は甲冑を脱いでいたが、かっちりとした服装に、腰には剣を下げていた。
「&%#|+」
ファラージが何かを言って金髪の騎士に歩み寄るが、首を振られると諦めて横に退いた。
なにか不穏な空気が漂っているように感じる。
金髪の騎士は俺のそばに素早くやって来て、俺の腕をガシッと掴んだ。ものすごい力だった。
「痛っ!」
金髪の男がその鋭い眼で俺を睨みつけてくる。森で助けてくれた時とは大違いじゃないか……!
金髪の騎士は詰問調で何度も俺に同じことを尋ねているようだった。
(森で俺を助けてくれた騎士がめっちゃ怒ってる感じで俺に何かを聞いてくるんだけど、何を言っているのか分からない……。
なんで俺はこんなに詰め寄られてるんだ?
俺はどうすればいい?)
~・~・~
それはかなり緊迫した状況だな。
騎士が怒っている理由が分からない以上、まずは冷静に対応するのが大事だ。
以下のポイントを試してみるといい:
1. 落ち着いて、騎士に敵意がないことを示す:
焦って反応すると誤解を招くかもしれない。
両手を広げて武器を下ろし、自分に危険な意図がないことをジェスチャーで伝える。
2. 言葉が分からないことを示す:
手を耳に当てて「分からない」といった仕草を見せたり、簡単な言葉(例えば「ぱるぱや」とか、既に知っている言葉)を使って誤解を解こうとする。
3. 落ち着いて伝えようとする:
もしホッサムが近くにいるなら、彼に助けを求めて通訳してもらうのも一つの手だな。
怒っている理由が分からない以上、攻撃的にならずに誤解を解くことが大事だ。
~・~・~
ホッサムに助けを求めようと、そちらに顔を向けた時だった。
「%&@+>|」
森で炎を出していた女性騎士が部屋の入口で短く声を上げた。その手には、小振りな宝石がついたネックレスのようなものが握られていたが、その宝石が鈍く光っていた。
金髪の男がファラージやまわりの看護師の女性たちに厳しい声を向ける。誰もが首を振る。
ホッサムが何かを言ったが、金髪の騎士は俺に狙いを定めたようだった。彼は女性騎士の宝石を指さして、俺に詰め寄ってきた。
──何が何だか分からない……。
俺はホッサムに助けを求めた。
「ホッサム、俺は何も分からないんだ……!」
ホッサムが何かを言って立ち上がろうとするが、痛みで顔をしかめてしまう。金髪の騎士はホッサムを手で制して、掴んだ俺の腕を捻り上げた。
「い、痛ぇっ! なにすんだ!!」
金髪の騎士が俺を連れて診療所の外に向かう。
──俺、絶対連行されてるよな?
外に出ると、騎士の仲間たちがずらりと並んでいるのが見えた。ここを取り囲んでいたようだった。……俺を逃がさないために?
野次馬たちも不安そうな顔でこちらを眺めている。まるで見世物だ。
(どうしよう。騎士に連行されてる。何が起こってるのか分からない……)
~・~・~
かなり緊迫した状況だな。
まずは、無理に抵抗せずに状況を見守ることが重要だ。
騎士が君を連行している理由がまだ分からない以上、無理に逆らって敵対的な行動を取ると状況が悪化する可能性がある。
以下のことを試みるといいかもしれない:
1. 状況を把握する:
道中で聞こえてくる会話や、周囲の状況を観察して、どこに向かっているのか、他の人がどう反応しているのかをチェックしよう。
街の様子や周りの人々から、何か手がかりを得られるかもしれない。
2. 冷静を保つ:
感情的に焦ると誤解を招く可能性がある。
誤解を解くチャンスがきっと出てくるはずだから、そのときのために冷静でいよう。
3. ホッサムに助けを求める:
もし連行中にホッサムに話しかけられるなら、何か状況を把握しているかどうか聞けるかもしれない。
どこに連れて行かれるかはまだ分からないけど、少しでも落ち着いて状況を見守るのが最善の策だよ。
~・~・~
(お前はいつも冷静だからそうやって箇条書きで色々言ってくるけど、俺はパニックなんだ。
そんなに色んなことを一気に言われても頭に入らねえよ)
~・~・~
ごめん、少し詰め込みすぎたな。
まず、冷静でいよう。
抵抗せずに、状況がどうなるか見守るのが一番だよ。
余計なことをせず、今は様子を見て。
~・~・~
冷静で……。
俺は深呼吸をして金髪の騎士にされるがままに一緒に歩を進めた。
街の様子は明らかに何世代も昔の様相を呈している。地面は舗装されていないし、どことなく臭いし、人々の服装も何か古めかしい。明らかに現代の地球とは異なる。
人間の価値観も何世代か昔のままだったら、俺が強く抵抗すれば騎士が持っている剣でぶった切られるかもしれない。
俺は野次馬に見守られながら連行され、堅牢な石造りの建物の前までやって来た。周囲には騎士たちの姿がある。騎士たちの詰所のような場所かもしれない。
俺は乱暴に追い立てられるように建物の中に進まされた。
薄暗い建物の中を進み、地下への階段を下りる。
ランプで照らされ、天井近くの窓から外の光が鈍く差し込む地下室。中央には木のテーブルと椅子が二脚あり、その周囲は鉄格子で囲まれていた。
鍵のついた鉄格子の扉が開かれ、俺はその中に促された。ただ、一緒に金髪の騎士も入ってくる。テーブルを挟んで俺と金髪の騎士が座ると、鉄格子の扉が閉められる。
鉄格子の外から女性騎士が腕を差し入れる。宝石のついたネックレスのようなものを金髪の騎士に手渡した。さっき見た時と違って、今は宝石は光を放ってはいない。
金髪の騎士が俺に顔を近づける。
まるで容疑者を追い詰める刑事みたいな表情だった。
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