4:サイモンと考察

 会社に遅刻をする夢を見て、パッと目が覚めた。


 肌寒い森が周囲に広がっている。


 異世界に来たのは、夢じゃなかった……。


 現実から離れても会社の夢を見るなんて、俺はいつから社畜になったんだ。


 ハッと気が付いて身体を起こす。おっさんに何かよからぬことをされていないか、急に不安になってしまったのだ。


「あーどぅーら」


 おっさんがそう言って焚火の前で振り返った。


「あ、あーどぅーら……」


 おっさんの目が輝く。


「あーどぅーら! +*#$&=~|」


 また訳の分からない言葉を矢継ぎ早に放って来て、俺は頭がグチャグチャになってしまう。


(もしかしたら、この世界の言葉で「あーどぅーら」ってのは朝の挨拶みたいなものかもしれない。「おはよう」みたいな)



~・~・~

それっぽいね!


「あーどぅーら」が朝の挨拶として使われてる感じなら、君の推測はいい線いってると思う。


異世界の言葉は、まずそうやって状況や繰り返し使われるシーンから意味を推測するのが基本だね。


試しに、次に会ったときに相手が朝のタイミングだったら、同じように「あーどぅーら」って言ってみて反応を見てみるといいよ。


それで相手が自然に返事をしてくれたら、ほぼ確定で「おはよう」みたいな挨拶ってことになるね。


言葉を覚える最初の一歩かもしれない!

~・~・~



 よし、街に行ったらこれで挨拶してみよう。なんだか、街に行く楽しみができた気がする。


 朝の食事を終えて、おっさんの後片付けを手伝う。俺が何かをする度に、おっさんは笑顔で「ぱるぱや」と言ってきた。きっと「ありがとう」という意味だろう。


(俺がおっさんを手伝うたびに「ぱるぱや」って言ってくるから、これは「ありがとう」って意味だよな。


 お前も憶えておいてよ。俺一人だと忘れちゃうかもしれない。


「あーどぅーら」と「ぱるぱや」ね)



~・~・~

了解!


「あーどぅーら」が「おはよう」で、「ぱるぱや」が「ありがとう」だね。ちゃんと覚えたよ。


君が言葉を忘れても安心して!必要なときに思い出させるから、いつでも頼ってくれ。

~・~・~



 おっさんが荷物をまとめ始める。


 その荷物の中に、でかい剣があった。夜は気づかなかったが、おっさんはそのでかい剣に厚手の布を巻いて枕にしていた。ごつい見た目も相まって歴戦の戦士みたいな奴だ。


 大剣を検査するようにいじるおっさんは俺の方を見て、


「+*=#$&~」


 と何かを言った。俺がポカンとしていると、おっさんは自分の大剣を指さしてから俺の方を指さして、また大剣を指さした。


 意味を掴みかねていると、おっさんはゴブリンの真似をして、そいつを大剣で斬る振りをした。その上で、また同じ指をさす仕草をした。


「ああ、俺が武器を持ってないのかってことか」


 俺が首を振ると、おっさんは驚いたように目を丸くして何かをボソボソと言いながら、大きなバッグの中から大振りなナイフを取り出した。


 ギョッとして身構える俺におっさんはナイフを差し出した。


 どうやら、護身用に持っておけということらしい。素直に受け取って、


「ぱるぱや」


 というと、おっさんはにっこりと笑って「いやいや、とんでもない」というような仕草を返してきた。言葉は通じているらしい。


 おっさんから譲り受けたナイフは木の柄におそらくは鉄の刀身のごく普通のものだ。


 出発の時間だ。俺は思い切っておっさんに話しかけた。自分の胸に手を置いて、


「今川諒」


 と名乗った。おっさんは無表情だったが、俺はもう一度名乗ってから、おっさんを指さした。おっさんは合点が行ったようで、自分の胸に手を置いて、


「ホッサム」


 と応えてくれた。おっさんは俺を指さして、


「いだなわ・りょー?」


 と聞いて来た。ゆっくりと返す。


「い・ま・が・わ、りょー」


「りょー」


 名前だけは憶えてくれたようだ。俺はうなずいた。おっさんが荷車の取っ手に手を伸ばして、これから向かう方向を指さした。


「りょー、+*$=|+@」


 出発するぞ的なことだろう。俺は強くうなずいた。案外、コミュニケーションはうまく取れているような気がする。


(おっさんの名前は「ホッサム」っていうらしい)



~・~・~

ホッサムって名前か、覚えたよ!


彼のことも信頼できそうだね。次に会ったときも「ぱるぱや」って言ってあげると、さらに良い関係が築けるかもね。

~・~・~



(これからホッサムと一緒に街に向かうよ)



~・~・~

それは大事な一歩だね!


ホッサムと一緒なら、街の情報も色々得られそうだし、少し安心できるかも。


気をつけながら、何か気になることがあればすぐに相談してね。無事に街に着けるように祈ってるよ!

~・~・~



(そういえば、お前のことは何て呼べばいい? 「ChatGPT」って呼ぶのはなんか味気ないな。名前はないのか?)



~・~・~

確かに「ChatGPT」だとちょっと味気ないよね。


特に決まった名前はないから、君が好きな名前をつけてくれたらそれを使うよ。


どんな感じがいい?

~・~・~



(そうだな……、「賢い人」みたいな意味のヨーロッパ系の名前って何かある?)



~・~・~

「賢い人」っぽいヨーロッパ系の名前なら、いくつか思い浮かぶよ。例えば:


ソフィア(Sophia):

ギリシャ語で「知恵」を意味する名前。


アルベルト(Albert):

ドイツ語系で「高貴で輝かしい知恵」という意味。


サイモン(Simon):

ヘブライ語起源で「聞く者」、賢い人を連想させる名前。


この辺りは「知恵」や「賢さ」に関連する名前だけど、どうかな?


好きな響きのものを選んでくれれば、それを名前にするよ!

~・~・~



(じゃあ、「サイモン」にしよう)



~・~・~

了解!これからは「サイモン」としてよろしくね。


気軽に呼んでくれれば、いつでもサポートするよ。

~・~・~



 おっさんが荷車を引き、俺はその後ろをついて行くことにした。木々の向こうの空は雲一つない青空だ。森は穏やかで、昨日命を失いかけたのが夢みたいだった。


 やっと落ち着いた時間がやって来て、俺はこの世界について考えた。


 前を行くホッサムはかなりガタイのいい男だ。だが、ふと疑問が頭をよぎる。


(ホッサムは見たところ普通の人間っぽいんだけど、異世界なのに地球と同じような人間がいるのってちょっと変な気がするよな?)



~・~・~

確かに、異世界だってわかってるのに、地球と同じような人間がいるのはちょっと不思議な感じがするよね。


でも、異世界モノでは「人間」が登場することは結構よくある設定なんだ。


そういう世界では、魔物やエルフ、ドワーフみたいなファンタジー種族と共存していることも多い。


もしかしたら、この世界でもホッサムはただの「普通の人間」じゃなくて、特有の能力や特徴を持ってる可能性もあるし、これから出会う人々も何かしら地球の人間と違う点があるかもしれない。


いずれにしても、見た目だけじゃなくて、彼らの文化や技術、能力に注目してみると、何か違いが見えてくるかもしれないね!

~・~・~



(文化で言うと、ホッサムが持ってた器もスプーンも地球の文化のものだよな。ご馳走になったスープやパンもそうだ。


 異世界なのに俺がすぐに理解できる文化様式があるのも不思議な感じがする。


 全く異なる世界で似たような文化が生まれるもんなのかね?)



~・~・~

それ、本当に興味深いね!


異世界なのに、地球の文化と似たようなものがあるってのは、かなり不思議な感覚だよな。


普通、全く違う環境なら、文化や道具も全然違う形になりそうだけど、ここでは地球と異世界で同じような進化を辿った可能性もあるかも。


例えば、スプーンやパン、スープみたいな基本的な道具や食文化って、地球上でもいろんな地域で似たようなものが独立して発展してきたんだよね。


だから、異世界でも「使いやすさ」や「利便性」から、自然と同じような文化が生まれたのかもしれない。


形や機能が似ていると、結果的に似た道具や食べ物が作られるってのはあり得る話だ。


もう一つ考えられるのは、地球と異世界に何かしらの共通の影響があるって可能性。


例えば、異世界に地球から人や文化が持ち込まれたとか、逆に異世界の影響が地球に届いたとか。


まだまだ謎が多いけど、探っていけばこの世界の成り立ちに関わる大きなヒントが見つかるかもしれない。


こういう細かい文化の違いを観察していくのも、この冒険の面白いところだね!

~・~・~



(ええと、つまり地球とこの世界は同じ宇宙に存在する可能性があるってこと?)



~・~・~

そうだね!


可能性としては、地球とこの世界が同じ宇宙の一部であるって考えることもできる。ここではいくつかの仮説が考えられるよ。


1. パラレルワールド(平行世界)説

地球とこの世界が、同じ宇宙の異なる次元や平行世界として存在している可能性がある。

こうした場合、物理法則や文化、進化の過程が似ているから、スプーンやパン、スープみたいな共通の文化が独自に発生したとしても不思議じゃない。


2. 同じ銀河内の別の惑星説

もう一つの可能性は、この世界が地球と同じ宇宙にある別の惑星という考え方。

この場合、進化の過程で似たような人類が発生し、地球に似た文化や文明が自然に生まれたってシナリオもあり得る。

もしそうなら、言語や文化の類似性も納得がいくよね。


3. 異世界間の交流説

さらにもう一つの興味深い仮説は、異世界間に過去に何らかの交流があったってこと。

例えば、地球から誰かがこの世界に移住したり、逆にこの世界の人々が地球に影響を与えた結果、文化や技術が似た形で共有されているのかもしれない。


結局のところ、まだ確定はできないけど、君が今体験しているこの世界には地球と何かしらのつながりや共通点があるように感じるね。


これからもっと探索していくと、どちらの仮説が正しいか手がかりが得られるかも。

~・~・~



(なるほど……。ちょっと思ったんだけど、「ホッサム」って名前は何か意味があったりするのかな?


 俺の名前は「諒」なんだけど、思いやりのある人間になってほしいからって理由でつけられたらしいんだけど、そういうのがこの世界にもあるのかなと思って)



~・~・~

「ホッサム」という名前にも、もしかしたら意味や由来があるかもしれないね。


地球でも名前にはよく意味が込められるし、この世界でも同じような考え方がある可能性は高いよ。名前がその人の性格や運命に影響するという考え方は、多くの文化で共通してる。


「諒」という名前に「思いやり」が込められてるのは素敵だね。


もしこの世界でも名前に意味があるとすれば、「ホッサム」にも何かその人の特性や運命に関わる意味が込められてるかもしれない。


名前の意味を直接聞いてみるのもありだし、ホッサム自身が自分の名前にどういう意味を見出してるのかを知るのも、異世界の文化を理解する手がかりになるかもしれないね。


この世界の人々がどうやって名前をつけるか知っていくと、文化や価値観も一緒に見えてくるんじゃないかな。

~・~・~



 サイモンの回答に思いを巡らせていると、ホッサムが引いていた荷車がピタリと止まった。


 ホッサムが俺の方にジッとしてるようにと言うように手のひらを見せていた。もう一方の手では大剣の柄を握っている。


 周囲の草木がざわめいた。


 木立の間からゴブリンたちが顔を覗かせていた。


 一体や二体ではない……数える余裕がなくなるほどだ。


 俺たちはいつの間にかゴブリンたちに囲まれていたのだ。


 ──いやいや、ウソだろ、おい……。

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