集計不一致
小狸
短編
鏡を見るのは嫌いである。
世の中で一番醜い物が映るからだ。
私の顔である。
私の顔は、醜く、気持ち悪く、気色悪く――とか、そんな端的な言葉では表現できないほどに整っていない。不細工という言葉すら申し訳なくなるほどに、醜悪である。
私の一家は、皆容姿が整っている。
私だけが、外れているのだ。
一度母に相談したことがある。
容姿の醜い私が嫌いで嫌いで仕方ないのだが、どうすれば良いのか、と。
すると母はこう言った。
「顔の醜い人は、心も醜いんだよ」
確かこれを言われたのは、小学5年生の頃だったように記憶している。
大人になった今でも、この言葉は忘れることはできない。
瞬間、私は理解した。
理解してしまった。
そうか。生まれ持ったものは、もう変えることはできないのだ。
どうしようもないのだ。
私は、持たずに生まれてきてしまったのだ。
整形するしか、方法がないのだ。
そう思って、お小遣いを溜めた。高校でのバイトも、整形のための貯蓄として回した。皆が楽しく遊んでいる間に、シフトを入れまくった。
そして大学に入学した。
大学は片田舎の私立大学に合格したので、一人暮らしをすることになった。
お金が溜まったので、私は整形した。
一か所整形するだけでは、まだ生来の醜さは取り除くことはできなかった。何か所も整形した。
私は、別に可愛くなりたいとか、綺麗になりたいとか、そういうことは思ったことはない。
皆と同じように、普通になりたいだけだった。
醜い自分じゃない、普通の自分になりたかったのだ。
そのために必死に努力した。
努力を積み重ねた。
それが、正しいことだと思ったから。
久方ぶりに実家に帰ったのは、大学三年生の頃だった。
父方の祖母が心臓の病気で亡くなり、葬式をすることになったのである。
妹も、父も、母も、変わった私を見て、喜んでくれると信じていた。
心が綺麗な人だと、思ってくれると。
しかし。
実家に帰って、鍵を開け、リビングに行って。
開口一番、彼らから出た言葉は。
果たして。
――誰。
――気持ち悪い。
――醜い。
――整形したの。
――なんで。
――どうしてそんなことしたの。
――親からもらった顔に傷をつけるな。
――金を無駄遣いするな。
――気色悪い。
――こっち来ないで。
――不細工。
「っざけんなよっ!!!!」
私は、叫んでいた。
「初めから恵まれた顔持ってるくせに、調子乗ってんじゃねぇっ!! 醜い醜いって言ったのは、お前らじゃないかっ!!! これは私が、自分で決めたんだっ!!!!!」
それは、ずっと来ていなかった、ずっと良い子だった私の、反抗期だった。
リュックとスーツケースを投げ出して、その場から逃げ出した。
誰も分かってくれない。
ここには私の味方は居ない。
もう、葬式なんてどうでもいいや。
行こう。
ここではないどこかへ。
「っ…………!」
そう思ったら、足が勝手に動いていた。
玄関から出る途中。
私は、そこに置かれた丸い鏡に映る、私の顔を見た。
それは、醜かった。
(了)
集計不一致 小狸 @segen_gen
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