黎安京あやかし異聞~見習い陰陽師、黒の少将と出逢うこと

古森真朝

序章




 ――ゆるさない

 ――ゆるさない


 月も星もない闇夜。その重たいくらさが凝ったような、一片の光もない黒。その色と同じか、あるいはそれ以上に陰鬱なものが満ちていく。

 くらい帳の向こう側、決して戻れぬ現世。誰もが当たり前に光にあいされて暮らす、只人の世が恋しい。

 ――それを己から、己たちから。永遠に奪い去った者たちが、憎くて仕方がない。

 この絶えず沸く怨みが、憤りが。天地のすべてに沁み通り、人の世を打ち壊すまで。


 ――ゆるせない


 降り積もり渦巻く、負の言霊。その只中に埋もれる何かが、がりりと強く地を掻いた。 

 



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