第87話

小さく沈黙が流れる。



受話器の向こうで、ガザガザと音が聞こえる。




ねぇなんて言おうとしたの?






「聞きたい?」



少し間を置いて返ってきた王子の声。




「…聞きたい」




あたしは、光たちを見つめながら静かにそう呟いた。










「「これ・・・」」




声が二つに重なる。



ゆっくりと振り向くと、王子が携帯を持つ手をゆっくりと下ろしていた。




「なん…!?」



腕を引かれて、ぶつかる唇。



「ンふ!?」




「これの反対」




光が王子の顔を照らして、長いまつげが頬を隠す。



光を浴びて潤む瞳は、足元を照らすライトよりも、ずっとずっと綺麗だった。




「これ…?



 反対…?」

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