第80話

「……ッはぁ」



あたしは大きく息を漏らした。



ガクガクと震える脚で、この身体を支えるには強すぎる愛撫。



ただ唇があたしの唇を包み込んだだけ。



ただそれだけなのに、震える脚に、壁に腰を付けないと立っていられない。




(早く…早く1階に着いて!!!)




「…もうギブ?」



エレベーターの階表示を目で追うあたしに気付いて、口元で笑うあの笑い。




悔しい…


悔しいィ!!!




キッと睨むように、瞳だけで見上げると、フッと瞳だけで見下ろされる。





(……ぐはッッッ)




結局負けて視線を逸らすのはあたし。




「…頑張った俺にご褒美とかないの?」



耳元で囁いて、ついでに外耳に舌を入れてチュパっと音を荒らげる。




「ゥヒィ!!!」



ぴょんと飛び上がるあたしに満足そうに首を傾げた。




「俺、発熱ながら頑張ったんすけど」




両手があたしの両脇に伸びて、軸にしている右足の後ろに左足を軽く掛けて立っている。




にっこりとあの意地悪そうな笑顔。




(そんなん言われたって…あたしこれだけでもドキドキしてるのに…)




求めてくるキスに、あたしは伏せ目がちに応える。



外国映画のような濃厚なキス。



呼吸を置く事に、吐息の漏れるキス。




…どうしよう…あたし…




もっと王子を感じたい…





クチュ


クチュ


小さな二人の愛の音が、小さな鉄の箱の中で漏れて落ちていく。




…あたし…




.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る