第73話
決してあたしには近づかず、でも逸らすこともなく、まだ落ち着ききらない呼吸に胸を上下させ、ゆっくりとあたしを見つめる。
その瞳は、前に見た、憂いに帯びた瞳よりも、はかなげで危うい。
そう…危ういんだ。
今まで王子の…
いや、他の誰でも、こんな瞳を見たことはない。
だからあたしは逸らせない。
周りの風景がだんだんと色味を亡くしていく。
この世界に王子しかいないかのような錯覚に陥ってあたしは王子を見つめ返した。
あたしにはこの人しかいないんだと…
この人にもあたししかいないんだと…
恋に似た、恋とも言えるこの感覚に溺れていた。
…あたし、王子に恋…
してる……?
「千亜稀…?」
その声にハッとしてあたしは現実世界に引き戻された。
前に立つ王子。
「はれっ?!ここどこ??!!」
キョロキョロと周りを見渡すと、いつの間にかホテルの部屋の前にたどり着いている。
「千亜稀…」
いつになく弱々しい声。
「…どッどうしたの…?」
恐る恐る、でも距離は保ちつつ王子に近づく。
ルームナンバー「2037」の扉の前、王子があたしの肩に綺麗な顔を埋めた。
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