第53話

袋の中に箱が入っている。



そっと取り出すと箱に

「胸キュンぷりん」と書かれている。




「何これ」



箱を撫で回すように、顔の前で回転させて見る。




「千亜稀の好きなプリン、バラエティーセット」




ふぁっと欠伸をしながらソファーに腰掛け、背もたれに手を投げかける。



「うそっ?!」



「気まぐれに祖母さんが届けてくんの」



「いいなぁ…」



パカッと勝手に箱を開いて中を見る。




もちもちプリン

ごまごまプリン

めろめろプリン



2つずつの6個パック。



「…欲しい?」



横目でちらっとあたしを見る。


全くの無表情。


これが王子の本当の顔?



整っててかっこいいけど。


いつものにこやかさは0で凄く鋭い顔をしてる。




「そ…」


りゃ欲しいに決まってんじゃん!



と言いたいのを飲み込む。



そんな事言ったら


『あげる代わりにベッド直行』


とかいう条件を付けてきそう。




「…いらない」


「…本気?」


「いらないったらいらない」



グッと涙を呑んでプリンの箱にサヨナラを決める。



箱をぐいぐいと王子に押し付ける。




そんなあたしを見てニヤッと口角を上げ、箱を差し出すあたしの手を握った。



「千亜稀の考えてること分かったわ」



プリンの箱をテーブルに置いて、チュと音を立ててあたしの手にキスをする。



強い瞳があたしを見つめる。



「俺が引き換えになんかするとか思ってんじゃない?」



(…図星ッ)




「そゆとこが甘ちゃんだな。俺が有無言わせると思ってんの?」




ソファーに投げかけた方の手であたしを引き寄せる。



(こっこれならもらっとけば良かったぁッ)




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