第35話

それから放課後まで、動物園の新入り動物のようになっていたあたし。




廊下に溢れんばかりの人、人。




王子を見に来る人が半分。


あたしを見に来る人が半分。

いや、3割ッ


…そう願いたい…。




同じクラスの王子のおかげか、大々的な悪口や嫌がらせはなかった。








『大丈夫?』



魂の抜けかけたあたしを覗き込むように背を屈めて、頭を優しく撫でた王子。




(そんな事したらまた周りがうるさいって…!)




ぐっと瞳を閉じると(本当は耳を閉じてしまいたい)

「きゃぁ」の一つも聞こえない。




(…?)




恐る恐る右目を開ける。




今度は手の平に頬を埋めて悶えて震えている観衆。



目の前、近距離にある王子の顔にあたしも息を呑んだ。




くるんと上がったまつげの奥に映る、憂いの瞳。



心配そうな眼差しは、頭に置かれた優しい手の平と共鳴してる。



上から見下ろすのではなく、あたしに合わせるように背中を曲げて視線の高さを合わせてくれている。




「本性」を、知らなければどれだけ幸せだっただろう…



きっと偽王子にメロメロだっただろう…





その憂いに帯びた瞳を信じてしまいそうだった。




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