第35話「見てから騙されたかどうか判断して!」
「あっ、島田君、西原さん。騙されたと思って付き合って欲しい事があるんだけど」
教室に着くなり、真剣な顔で両手を合わせ、拝むようにお願いをしてくる大倉さん。
俺は知っている。彼女はこんな真剣な顔で、とてつもなくくだらない事に付き合わせてくる人間だって事を。
以前もそんなお願いをされて、休日に部室に呼び出されてみたら、お伽話のキャラと鉄道を題材にしたボードゲームの99年縛りをやろうとか言い始めて、一ヶ月間毎週土日に付き合わされた事がある。
だから、そんなお願いの仕方をされても、俺は動かないぞ。
両手を合わせ、お願いと言って前かがみになった大倉さんの胸元とブラが見えるからって、動かないからな。
だらしなく眉を下げた困り顔で俺を上目遣いで見ながらブラチラさせた程度で動くと思ったら大間違いだ!
というわけで、迎えた日曜日の朝。
俺と京はモールに居た。大倉さんに付き合う形で。
困り顔で胸元見せながら上目遣いってズルイよな。今度俺も京にやってみよ。
「それで、モールに来てどうするんだろ?」
「さぁ? 服を買いに行きたいとかかな?」
別に服を買いに行く程度なら、あんなに必死にお願いしなくても付き合うのにな。
待ち合わせ場所で大倉さんを待つ間、京とそんな感じで適当に話をしながら、待ち合わせ場所の近くにある店を眺めたりしている。
そろそろ待ち合わせ時間だというのに、大倉さんはまだ来ない。
「大倉さん、遅いね」
「アニメでも見て遅れてるとかじゃない?」
京と一緒に、大倉さんらしき人が居ないか探すが、ちょっと人が多すぎて分からないな、これは。
何かあったのかもしれないと、スマホを取り出し連絡を入れようとした時だった。
「あっ、ごめーん。待ったー?」
小走りで俺と京の元へやってきた大倉さん。
全身黒ずくめの厨2病全開や、フルグラアニメTシャツの私服を期待したのだが、予想外に大倉さんはジャンパスカートとまともな格好だった。
むしろ、ちょっとお洒落で可愛い感じだ。あとおっぱいが大きい。制服じゃ分かりづらかったけど、ジャンパスカートのショルダーに挟まれ、そのデカさが強調されている。
ショルダーに挟まれ抑圧されたそれは、小走りのたびにブルンブルン揺れ動く。クソッ、思わず目が釘付けになってしまう。
おいおい、それなのに、道行く男たちはそんな立派な物が揺れ動いてるのに、見向きもせずスルーって、どういうことだ?
貞操が逆転した世界だからですね。はい。
このままでは大倉さんの注視し続ければ、京から変な誤解を生みかねないので名残惜しいが目を逸らしながら大倉さんに話しかける。
「いや、そんなに待ってないから大丈夫だぞ」
「あっ、アニメが終わったらすぐに行こうとしたんだけど、劇場版の予告が始まっちゃって」
大倉さんらしい理由でホッとした。
京も呆れてため息を吐きながらジト目で大倉さんを見ているが、何もなかったのだから良いかといった感じだ。
そんな俺たちに「あははー、ごめんね」と言って両手を合わせて謝るポーズを決める大倉さん。うわっでっか。
京のジト目が俺に向いた気がするが、気のせいだ。きっと気のせいだ。気のせいという事にして話題を変えよう。
「それで、今日は何の用事なの?」
「あっ、うん。二人ともこっちについて来て」
そう言ってスマホを取り出し、時間を確認して少しだけ早歩きをする大倉さん。
そしてたどり着いた先は、モール内に設営されているイベントスペース。
そこの建てつけられた看板。看板に書かれている内容は要約すると。
『ヒーローショー』
なるほどね。騙されたと思って付き合ってと言われ、付き合ったら本当に騙されてたパターンか。
よし、京。帰ろうぜ。
「あっ、ちょちょっ、ちょっと待って。これちゃんと大人向けだから」
「いや、大人向けのヒーローショーって何だよ」
「あっ、この時間はお子様はニチアサアニメを見てるから来なくて、おっきいお友達ばかりなの!」
「そうか。じゃあな」
大倉さんが帰ろうとする俺の手を引こうとするが、流石に男子の手を引くのは恥ずかしいのか京の手を引いていた。
「あっ、西原さん島田君お願い。私一人じゃ恥ずかしくて今まで来れなかったから!」
「いやいや、3人居ても恥ずかしい物は恥ずかしいだろ!」
「騙されたと思って付き合ってと言われたけど、本当に騙されたわ!」
「あっ、せめて見てから、見てから騙されたかどうか判断して! ねっ? ねっ?」
特撮好きならともかく、そうでない人間が見ても騙されたってなるだけだろ。
数分の押し問答の後、京が折れてなぁなぁでヒーローショーを見る事になった俺たち。なんだかんだで京は付き合いが良いやつなんだよな。前の世界の俺以外には。
そして始まるヒーローショー。
周りは女性の大きいお友達ばかり。ちびっ子が居ないから、一人ならともかく、三人居れば確かにそこまで恥ずかしさは感じないな。
戦隊モノのヒーローショーらしく、司会のお兄さんが怪人に襲われるとよくある5色の戦隊が現れた。
前の世界の違いがあるとすれば、女性4人に男1人の構成ってところか。もちろん男がピンク役で。
いや、よく見たらかなり違うな。
全員ピッチピチのレザーっぽい全身タイツだから体の線がもろに出る。その中でピンクが明らかにヤバイ。
ピッチピチのタイツの股間から、思い切り形が出ている。
もしかして、大倉さんがヒーローショーを見に来た理由って、これを見たかったからか?
「フ、フヒッ」
俺の隣で必死に真顔を装うとしているが、だらしない笑みがどうしても浮かんでしまう大倉さんがその答えだな。
周りの女性も、大倉さんほどじゃないが、明らかに目線がピンクの股間に行っている。勿論京も、恥ずかしそうにしながらもチラチラと見ている。
大人向けってそういう……。
とはいえ、内容自体は子供の頃に見たヒーローショーを思い出して面白い、というか懐かしさを感じる。
まぁ、大倉さんがどうしてもって言うなら、たまに、本当に極稀になら付き合ってあげても良いかもしれないな。普段から色々してくれているし。
「怪人ども、観客から人質を攫ってくるのだ」
「イーッ!!」
あっ、なんか嫌な予感がする。
周りは女性ばかり、しかもそんな女性たちが、わざわざ俺を見てくる。
そして、嫌な予感というのは当たってしまうものである。
「さぁ、大きな声で自己紹介をしてみようか」
「あ、はい。島田栄太郎です」
ステージの上に上げられ、自己紹介をされる羞恥プレイをさせられたあげく、怪人から救出された後に司会のお兄さんとピンクに挟まれ薔薇営業をさせられた。
客席の男性を挟んで即席の薔薇営業をするのが、どうやらこのヒーローショーが一番人気な理由らしい。
前言撤回。頼まれてももう二度と来ない。
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