第34話「薔薇の間に挟まろうとする女は」
‐3人称視点‐
放課後。
クソゲー研究部にて、大倉さんは焦っていた。
「島田君って、普段はここでどんなゲームやってるの?」
「先輩や大倉さんと、4人対戦でレースゲームとかしたりしてますね」
普段は栄太郎、大倉さん、四谷、浜口の4人しかいない部活。
だが、最近は事あるごとに部外者が部室に来るようになったのだ。
原因は、鑑賞会で栄太郎が「オタクちゃんに優しいギャル男」としての立場を確立してしまったからである。
それだけならまだ良かったが、オタサーの殿四天王である花形が四天王から落ちた事により失脚。
花形の取り巻き女子は、新たな「オタクちゃんに優しいギャル男」を求め、栄太郎の元へ来るようになったのだ。
女子慣れしていない上に、前の世界の固定観念があるために、初々しく、それでいて真摯な対応をする栄太郎。
それが余計に女子たちの心を鷲掴みしていたりする。
女子たちは先輩のお客さんで、自分には気をつかって話しかけてる物だと思い込んでいる栄太郎。
だからこそ余計に気をつかってしまい、勝手に栄太郎株が上がっていく。
そして、栄太郎株が上がっていくたびに、大倉さんの焦りは増していく。
(島田君は私の物なのに)
何度も女子たちに「島田君が困ってるじゃない」と声をかけようとした大倉さん。
だが、声をかけれたことは一度もない。彼女はテンションが上がるか暴走していない限りは人見知りする性格なので。
(このままじゃ、島田君が浮気しちゃうかもしれない!)
いまだに仲良さげに話す栄太郎と女子たち。
ここは一発、栄太郎の本命が誰か分からせようとした大倉さんだが、輪の中に入る勇気はない。
なので、彼女が取った手は。
「あっ、四谷先輩」
「ん? どうした?」
「今週のガチバラ読みました?」
「あぁ、読んだ読んだ。今週は特に男たちの薔薇の花園って感じで良かったよね」
大倉さんに、どのキャラの絡みが良かったか力説する四谷。
そんな嬉しそうに語る四谷に相槌を打ちながら、大倉さんは口をキュッと一文字に締めると、心の中で気合を入れ、笑みを浮かべる。
「あっ、分かります。あの空間に挟まりたいですよね」
「はっはっは。大倉、お前面白い事を言うな。どうやら、教育が、必要な、ようだ、なッ!!」
現役学生レスラーである四谷が、笑顔のまま大倉さんに取っ組むと、ぬるりと綺麗にコブラツイストを決める。
「あぎゃー!!!!」
「薔薇の間に挟まろうとする女はその場で処刑と法律で決まっているんだ」
「おー、四谷。大倉には私の分も教育しといてくれ」
「オーケー浜口!」
部室どころか、廊下にまで響き渡る大倉さんの悲鳴。
男同士の空間である薔薇。貞操が逆転した世界において、その間に挟まろうとする者は容赦ない鉄槌が下される。
耳をつんざくよな悲鳴に、流石に無視できなくなった栄太郎。栄太郎と目が合ったタイミングで大倉さんが四谷を必死に叩く。
「あっ、タップタップ、冗談ですって。言ってみただけですから」
「良いか大倉。気持ちは分からないでもないが、それは今後二度と口にするなよ」
「あっはい。分かりました、ってなんで余計に力を入れるんですか。ギブギブッ!」
全くとため息を吐きながら、大倉さんを解放する四谷。
四谷に「もうちょっと懲らしめておくべきでは?」と相談を持ち掛ける浜口を無視して、大倉さんが栄太郎の元へ向かう。
「あっ、島田君。四谷先輩が酷いんだよ。なでなでして~」
白目を向きながら、ゾンビのようにふらふらしながら栄太郎に近づく大倉さん。
普段と比べて、大倉さんの顔から精気が抜けている気がするのは、きっと栄太郎の気のせいではないだろう。大倉さんはそれだけの大罪を口にしてしまったので。
だが、フラフラして死にそうな顔をしながらも、大倉さんの頭は冴えている。
「はいはい」
適当に、流すように頭を撫でる栄太郎。
そう、これこそが大倉さんの狙いであった。
以前どさくさ紛れで頭を撫でて貰った展開を、もう一度再現し、皆の前で頭を撫でて貰う。
これで栄太郎が誰の物か見せつける作戦である。
(ふふっ、島田君が私の事を好きだと理解し、諦めがついたはず)
勝利を確信し、周りにバレないようにほくそ笑む大倉さん。
(島田お兄ちゃんに私も撫でられたい!!)
(島田パパにあやかして貰いながら撫でられたい!!)
(はぁ~、マジでオタクちゃんに優しいギャル男じゃん!!)
その作戦が大失敗に終わった事に気づかない大倉さんであった。
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