第31話「今日の髪型も、幸を真似てツインテールにしたらしいぞ」
室内の電気を消し、窓は暗幕カーテンで閉められ、真っ暗の部屋の中、プロジェクターによる大画面でラブアイドルのライブ映像が流れ始める。
音楽に合わせ、アイドルたちが自己紹介を始める。
『皆大好き、葛谷(くずや)だよ! 今日も元気にくずやんって呼んでね。せーのっ!」
「「「「クズー!!!!」」」」
『クズじゃない! くずやんだ!』
視聴覚室でどっと笑いが巻き起こる。
そんな中、西原は冷や汗を流しながら画面を食い入るように見ていた。
コール&レスポンスの内容や、曲に合わせたコールはある程度調べたので知っている。もし栄太郎に「一緒にライブに行こう」と誘われた時のために調べたので。
だが、実際にやったわけではない。もしかしたらタイミングを間違えてしまうかもしれない。コールを間違えてしまうかもしれない。
別に格式ばった物でもなく、好きに楽しめばいい。
しかし、初めての鑑賞会の西原にはそれが分からなかった。もし間違えたら周りから変な目で見られたりしてしまうのではないかと不安になるばかり。
(あっ……この曲は!!)
下調べの甲斐もあり、不安になりながらもなんとかライブ曲のコールをこなしていく西原。
だが、とある曲のイントロが流れた瞬間にその不安が一気に吹き飛ぶ。
何度も聞き返し、完璧になるまで何度もコールを覚えた曲。
栄太郎が好きなアイドル、白星幸の曲である。
力強いコール。
そして、最後に流れる誓いの口上。
「一つ、世界は可愛いで出来ている」
「二つ、可愛いは誰にでも平等」
「三つ、可愛くなるのは権利だ」
「四つ、可愛い努力は裏切らない」
「五つ、その笑顔は可愛くある為に」
「六つ、全ては可愛いのために」
「これら六つの誓いを元、白星幸に最上の可愛いを!」
完璧なコールを決めた西原が栄太郎を見る。
好きなアイドルのコールを完璧に決めたのだ。考えていた予定とは違うが、これで栄太郎が「一緒にライブを観に行こう」と誘ってくると確信を込め。
(ちょっと、栄太郎ったら、ライブ会場の中だってのにそんな事までして、ほんと大胆なんだから)
脳内で一緒にライブに行った栄太郎と、スケベな事をする妄想フルスロットル状態の西原。
だが、西原の予想は裏切られる事になる。
「へぇ、京は幸の方が好きなんだ」
「うん……うん?」
(今京『は』って言ったよね? 京『も』じゃなくて)
栄太郎も好きじゃないの?
そう聞こうとしたタイミングで、次の曲のイントロが流れ始める。
イントロが流れ始めた瞬間に、テンションが上がる栄太郎。
「俺は妹の方の玲々が好きなんだ」
「……はっ?」
そして、プロジェクターから映し出された画面には、腰まで伸びた黒髪をたなびかせて歩くアイドルの姿が。
堂々とした出で立ちはカッコいい系で、どことなく京に似た空気を漂わせている。
キメポーズと共に画面にはアイドルの名前がでかでかと表示された。白星玲々と。
栄太郎が好きなアイドルは、白星姉妹の妹の方である白星玲々。それを京は姉の幸の方が好きだと勘違いしていたのだ。
その勘違いにやっと気づき、京は曲が終わるまであんぐりと口を開け、あっけにとられたまま完全に固まっていた。
(あっ、西原さん感動のあまり声を失っちゃってるんだ)
同じ感動を分かち合えたと思い、大倉さんが興奮気味に西原へと声をかける。
「あっ、今回のライブ良かったよね」
「え、えぇ。そうね」
「あっ、口上も完璧だったし、西原さんってめっちゃさっちゃんが好きなんだ!」
西原に早口言葉で話しかける大倉さん。
そんな二人の会話が弾むようにと、話のタネを提供する栄太郎。
「今日の髪型も、幸を真似てツインテールにしたらしいぞ」
だが、それはやらかしである。
貞操が逆転する前の世界であれば、女の子が可愛い系のキャラを真似してもまだファッションの域で収まっただろう。
残念ながら、貞操が逆転した世界ではそうはならない。
「あっ、うん、そうなんだ……ははっ」
何故なら、こちらの世界では着飾ったりするのは男性が多く、ツインテールも長髪男性が可愛く見せるためにする髪型のイメージが強い。
そのため、女性のツインテールはあまりメジャーではない。
しかも、アイドルのマネをして同じ髪型にしましたというのだ。
(やめて栄太郎。それ以上はもうやめて!!)
この場に居る女子の大体が、差異はあれど似たような事をした黒歴史を持つ。
なので、誰もが上手い返しをする事が出来ず、ただただ「そうなんだ、ははっ」と苦笑いを浮かべるのが精いっぱいである。
この日以降、西原がツインテールにする事はなかった。
だがラブアイドルにはハマったようで、たまに鑑賞会に参加しているようだが。推しは変わらず白星幸である。
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