第24話「大倉さんの事が好きなのかい?」
‐3人称視点‐
思春期、それは恋に恋するお年頃。
好きな人を想い、好きな相手とちょっとしたことで一喜一憂し、恋愛感情をこじらせてしまう。
そして、ここに拗らせたものが一人。
「どうしよう……」
ベッドに顔をうずめ、うんうん唸る少女。西原京。
彼女は今、島田栄太郎の事で頭を抱えていた。
「最近、栄太郎が困った時は、いつも大倉さんが助けに入ってる気がする」
思い出されるのは、先日栄太郎が小鳥遊に校則違反で注意を受けた時の事だ。
自分は栄太郎の隣に居たのに、小鳥遊に何も反論が出来なかった。
確かに小鳥遊の言っている事は正論。だが、それでも自分は栄太郎の味方になるべきだったのではないかといまだに悩んでいた。
何も言えずにいた自分と違い、大倉さんは即座に栄太郎を守るように小鳥遊に対峙し「七三吊り目細メガネえっろ!!!!!!!!!!」と言い放った。
それはまるで、ヒロインのピンチに駆けつけるヒーローのように。
大倉さんの発言はさておき、栄太郎を守るために出てきた彼女を見て、内心「カッコいい」と思ってしまった。
それだけではない。不良らしき女生徒に栄太郎が絡まれていた時も、自分はただ隠れて見ているだけだった。
不甲斐ない自分に対し、泣きたくなる西原。
一度ネガティブに向かってしまった思考は、ドンドンと悪い方向へと考えてしまうドツボである。
普段から栄太郎は、自分と話すときに大倉さんをクッションにして話す事が多い。
一緒に登下校をしても、あまり話さない栄太郎が、大倉さんと居る時だけ饒舌になる。
本当は、西原と喋るために栄太郎は大倉をクッションにしているだけだが、それに気づけない京。
彼女は文武両道、運動も勉学も右に並ぶものはそうそう居ないほどに優秀である。
しかし、天は二物を与えずという。
そう、運動と勉学に能力を割り振られた分、こと恋愛に関してはポンコツになっているのだ。
(もしかして、栄太郎は大倉さんの事が好きなのかもしれない)
結果、勘違いは加速していく。
(でも、栄太郎と大倉さんは、まだ付き合ってるようには見えない……大倉さんには悪いけど、栄太郎に関しては遠慮しないから!)
心の中で宣戦布告を決める西原。
そんな彼女が取った作戦は。
「京ちゃんおはよう」
「あっ、えー君おはよう」
大倉さんの真似をする作戦だった。
大倉さんの事が好きなら、大倉さんのマネをすれば自分を好きになってくれるかもしれない。ポンコツ、ここに極まりである。
朝、家から出てきた栄太郎に、「あっ」をつけて大倉さんっぽく挨拶をする京。
「なんか『あっ』が付くと大倉さんっぽく感じるね」
「あっ、そうかな?」
西原の反応がツボに入ったのか、「大倉さんっぽい」と言って笑う栄太郎。
そんな栄太郎に「あっ、そうかな?」を連呼する京。
「あっ、そういえば」
「あっ、どうしたの?」
「あっ、この前、小鳥遊君に『大倉さんの事が好きなのかい?』と聞かれたことがあってさ」
(はっ? それで栄太郎が大倉さんに告白するキッカケになったらどうするつもりよ、あの七三)
「ふ、ふーん。それで栄太郎はどう答えたの?」
ついさっきまで栄太郎と笑って話していた西原だが、今は恐ろしいほどに凍てついた空気を漂わせている。
そんな空気に気づかない栄太郎が話を続ける。
「流石に大倉さんはないって。確かに友達としては良いけど、恋人は無理かな」
「そうなんだ」
栄太郎の言葉を聞き、安堵のため息を吐く西原。
少し、というかかなり機嫌が良くなった西原が、「あっ」をつけて大倉さんのマネをする事はなくなった。
何故か西原の機嫌が急に良くなったのを感じる栄太郎だが、なぜ機嫌が良くなったのか分からないために、あえて指摘をしない。
この場合どこに地雷が隠されているか分からないので。
思わず踊りだしそうなステップで歩く西原。
教室に着いた彼女が、小鳥遊に対し「今日も良い七三ね」と上機嫌に声をかける。
先日大倉さんに皆の前でいわれた「七三吊り目細メガネえっろ!!!!!!!!!!」を引きずっている小鳥遊。
(もしかして、西原さんも僕の事エロイ目で見てたりしないよね?)
別に西原は小鳥遊をエロい目で見てはいない。
とはいえ、彼がその発言を素直に受け止められるようになるには、まだ時間がかかるだろう。
そもそも、小鳥遊が興味半分で栄太郎に大倉さんの事が好きか聞いたせいで、西原が凹みかけたのだ。
それが自分に返ってきただけなので、因果応報お互い様である。しらんけど。
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