第7話「大倉さんは栄太郎の事、どう思う?」

‐3人称視点‐


 居たたまれなくなり、教室から逃げ出した栄太郎と大倉さん。

 2人が居なくなったのを確認すると、京はため息を吐きながら自分の右手を見つめる。


(なんでそこで逃げ出すのよ!!)


 大倉さんが栄太郎と手の平の大きさ比べをしたら、自然な流れで自分も栄太郎と手の平の大きさ比べが出来た。

 だというのに、いざ実践となったら2人ともヘタレて、まるで付き合い始めた思春期の男女のようなやりとりをし始めたのだ。

 栄太郎の事が好きな京の眉間にしわが寄ってしまうのは仕方がないというものである。

 まぁ、2人が逃げ出したのはそれが原因なのだから、彼女の自業自得でもあるのだが。


(でも、変ね……)


 栄太郎の行動を思い返し、京の頭に疑問が浮かぶ。

 最近の栄太郎は割と積極的だ。スケベな格好をして見せつけるようなポーズを取ってくることが多い。

 少し前までだったら、制服のボタンをキッチリ絞めて、不安そうにキョロキョロしていたというのに。


 もしかしたら、自分を変えようと頑張っているのかもしれない。最初の頃は栄太郎に対し京はそう考えていた。

 だが、そこに一つの疑惑に加わった。


 栄太郎は、何かと自分と話すときに大倉さんを挟んで話したがる。

 さっきだってそうだ。もし本当に女子の手の大きさに興味を持ったなら、大倉さんではなく、幼馴染の自分の方が言いやすいはず。

 なのに、わざわざ大倉さんに話を振り、そしてトドメにあの照れ方。

 そんな栄太郎に対し、京が下した結論。


(もしかして、栄太郎のヤツ、大倉さんの事が好きなの!?)


 勘違いである。


(栄太郎のスケベな格好をよく大倉さんがガン見してるけど、それって大倉さんの性癖に合わせてわざとやってるってことよね!?)


 勘違いである。


(ダメ。例え他の女子を選ぶとしても、大倉さんはダメ。絶対。大倉さんなんて栄太郎の事、スケベな目でしか見てないじゃない!)


 それは正解である。

 あんなのに栄太郎は渡さないと嫉妬の炎を燃やす京。

 だが、悲しいかな。彼女はとても聡明で理知的である。栄太郎以外には。


(でも、もしかしたら大倉さんには良いところがあって、栄太郎はそこに気づいて惚れてるのかもしれない)


 一方的に大倉さんを断罪するのは楽である。

 欠点を上げればキリがない。良いところをあげるとすれば、彼女が貸してくれる漫画はどれも面白いというところくらい。

 悪いところしかみえないのだが、それは自分が大倉さんの事を色眼鏡で見ているからそう見えるだけなのかもしれない。


(せめて、ちゃんと話をしてみよう)


 今までは苦手意識を持っていたので、向こうから話しかけて来ても、自分から話しかけることはあまりなかった。

 きっとそれがいけないのだ。こいつは変な奴だと思うから、何をしても悪い方向に考えてしまうだけで。

 もしかしたら、栄太郎の胸元をガン見しているのだって、危なくなったら注意するために気にしてるだけかもしれない。

 そう自分に言い聞かせ、大倉さんが戻ってくるのを待つ京。


「あっ、島田君もう教室に帰ったんだ」


「ええっ、大倉さんは友達との用事は済んだの?」


「あっ、うん。別に大した用事じゃなかったからね」


 そう言って、自分の席に戻ろうとする大倉さんを呼び止める京。


「あっ、ど、どうしたの?」


 少しどもりながら返事をする大倉さん。

 友達に用事があったというウソがばれたのかと思い、冷や汗が背中を伝っていく。

 残念だがそれはバレバレである。なんなら友達がいないとさえ思われているので。


「大倉さんは栄太郎の事、どう思う?」


「エロいよね!」


(いつもの『あっ』はどうした!?)


 元気よく、ハキハキと笑顔で答える大倉に対し、京の思考回路はショートである。

  

「オタクちゃんに優しいギャル男って、空想や漫画の世界の話だと思ったんだけど、本当に存在したんだね!」


「あぁ、そうなの」


「ねぇ、島田君ってコスプレとかに興味あったりしない? 『その着せ替え人形が恋をする』のコスプレとかして欲しいんだけど、お願いするのってダメかな?」


「さ、さぁ~……?」


 なおも早口口調で語り続ける大倉さん。


(ダメだコイツ。早くどうにかしないと)


 もしかしたら大倉さんに良いところがあるかもしれないと思い、話しかけた事を京は後悔するのだった。

 

「あっ、良かったら『その着せ替え人形が恋をする』貸そうか?」


「……お願いするわ」

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