第6話「スケベじゃないけど、興奮する行動」
「さて、どうやって京を落とすか」
京相手にスケベ作戦が効果があるのは分かったが、よく考えてみればスケベ作戦が有効前提でやっていたのだから何も前進していない気がする。
「もっと露骨に行くべきだろうか?」
いや、待て。
露骨に行った結果どうだったか思い出せ。
体育の時に「うわっ」ってドン引きされただけだ。だから露骨なスケベは逆効果だろう。
前の世界でもスケベに興味深々だけど、露骨なスケベはNGってやつは何人か見たことがある。多分京はこの手のタイプだろう。
拗らせ思春期というのは、どこの世界にも居るって事か。
いっそ京が大倉さんみたいに自分に素直なタイプだったら良かったのにと思うが、京がスケベ親父みたいな顔をしながら俺の胸をガン見してる姿を想像したらそれはそれで嫌だな。
拗らせてるやつは、周りが強引に行けば行くほど拗らせてしまう。
なので、京の口から「スケベが好き」と言わせなければいけない。
ふむ。少しづつだが、どうすれば良いか分かってきた気がする。
スケベじゃないけど、興奮する行動……となると、あれだな!!
翌日。
いつも通りに起きて、いつも通り京と登校。
シャツの胸元を締めるかどうか悩んだが、今まで開けてたのに急に締めたら何か変に思われそうなので開けたままだ。そもそも暑いし。
京の教室につくと、どこぞの神隠し映画に出てくるキャラみたいに「あっ」と言いながら、俺と京に大倉さんが話しかけてきた。いつものオタク会話で。
今日はどんな漫画を勧めてくれるのか楽しみではあるのだが……悪いがそれは後回しにさせてもらう。
「そういえば、大倉さんの手って小さいね」
「あっ、そうかな。女子の中では普通だと思うよ。あっ、島田君の手が大きいだけじゃないかな。男子だし」
そう言って、そわそわしながら手を出して宙を彷徨わせる大倉さん。
俺と手の大きさ比べをしたいが、自分から「比べっこしよう」と言い出せないんだろうな。陰キャだから。
ここで大倉さんと手の大きさ比べをした後に、自然な流れで京とも手の大きさ比べをするのが今回の作戦だ。
思春期の、いや、思春期を超えたとしても、男というのは女の子からのボディタッチで「こいつ、実は俺に気があるんじゃないか?」と勘違いしてしまう悲しい生き物である。
貞操が逆転したこの世界では、それが男女逆なのをインターネットで調査済みだ。
手と手を合わせるくらいなら露骨なスケベにはならない。
ならないが、異性と手を合わせると言うだけで興奮する。俺も今、京と手を合わせると考えただけでちょっとだけ興奮してるし。
ヘッヘッヘ、それじゃあ京と手の大きさ比べをする口実作りのために、悪いが大倉さんを利用させていただく。
「……」
利用しようとして、固まったように手が動かない。
「フ、フヒッ」
あげく大倉さんのような気持ち悪い笑みが自然と出てしまった。
流石に不審に思ったのか、京が眉間にしわを寄せ俺を見ているし、大倉さんは視線を宙に浮かせて気まずそうにしている。
ただ手を上げて、大倉さんと手のひらを合わせるだけだというのに、それが出来ない。
何故か?
何故なら俺も、大倉さん側の人間、陰キャだからだ。
俺陰キャだよ? いくら相手が大倉さんだといっても、女の子の手を自分から触りに行けると思う? 無理!!
俺が触る分には何も問題ない。
なんなら喜ばれる。それは分かっている。分かっているが体が動かない。
心の中の俺が「女の子に馴れ馴れしく触るとか、うわっ、キッショwww」と騒ぐせいで。
「あっ、そうだ。友達に用事があるんだった」
誰も聞いていないのに、用事の内容を早口で説明すると、そそくさと教室から出ていく大倉さん。
俺が手のひらを合わせてくれると思ってスタンバっていたのに、一向に来てくれず、まるで催促するような自分の右手に耐え切れなくなったからだろう。
陰キャ特有の、失敗した時の誤魔化せてると思い込んで全く誤魔化せていない行動だ。
「そろそろ予鈴なるし俺も教室に戻るかな」
大倉さんが居なくった後の空気に耐え切れなくなり、俺は適当な言い訳を口にしながら教室を後にした。
陰キャ特有の、失敗した時の誤魔化せてると思い込んで全く誤魔化せていない行動だ。
ごめん大倉さん。
散々陰キャだとか心の中でバカにしたけど、俺も同じ陰キャでした。
女の子の手を自分から触るとか無理!!
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