第4話「男を落とすテクニック」

‐3人称視点‐


「なぜだ、これだけアピールしているのに、なぜ京は俺に興味を持たない!?」


 自室の机で頭を抱える栄太郎。


「まさか、本当に俺に興味がないのか?」


 思春期の少年がエロい事に興味津々なように、こちらの世界の思春期の少女も当然エロい事に興味は津々である。

 事実、栄太郎が肌を見せびらかすたびに女子達はガン見しているのだから、その効果は絶大。


 ではなぜ京は栄太郎を見ないのか?

 本当に栄太郎の事が嫌いだからか?

 京はスケベな事に興味がないからか?

 答えは否である。


‐京視点‐


「あーもう、今日も栄太郎の奴スケベ過ぎでしょ!!!」


 枕に顔を思い切りうずめ叫ぶ私!


 頭に浮かぶのは栄太郎の姿。

 開け広げられた胸元。

 太陽光を反射させながら滴る汗。


「なにあれ、私に見せてるでしょ? どう考えても私に見せびらかしてるでしょ!?」


 本当は私に見せびらかしてるんでしょ?

 分かってるんだからね!!


「ハッ!! つまり、見ない方が失礼なのでは?」


 据え膳食わぬはなんとやら。

 せっかく栄太郎が見せてくれてるんだから、ちゃんと見なきゃ!


「ふぅ……んなわけねぇだろ!!!!!!」


 そんなのはどう考えても都合の良い妄想だ。

 どこの世界に肌を見せたがる男子なんているのよ。

 そんなのはエロ本の世界でしかない。


 いや、でも昔のように仲が良くなればワンチャンあるんじゃない?

 そう、昔のように仲が良くなれば……ね。


 はぁ、今日も栄太郎に上手く話しかけられなかった。

 本当は好きなのに、どう接すれば良いか分からなくて、つい不愛想な返事をしてしまう。

 最近ではスケベな格好してるから、尚更気を取られて余計にだし。


 よく幼馴染は異性として見れないなんて話を聞くが、私はそうは思わない。

 むしろ長い間一緒に居るからこそ、これが恋なのだと実感できる。

 栄太郎は確かに平凡な顔立ちだし、勉学もスポーツも普通だ。

 それなのに恋心を抱いているのは、本当に好きだという証拠なんだと思う。 

 見た目や中身のスペックが良いから好きなのでなく、栄太郎だから好きなのだと。


 机の上にある、古ぼけたおもちゃの指輪を見る。昔は結婚ごっことか栄太郎とやってたけど、覚えてるかな。

 ……そんな昔の事を持ち出されても、重すぎて引かれるだけだよね。 


 栄太郎のおじさまに「最近は物騒だから息子を頼むよ」と言われ、栄太郎と登下校を一緒にするようになったのはつい最近だ。

 今までの栄太郎に対する態度を考えると、私は嫌われている可能性が高い。もしここで「好きです」と言っても断られるのは目に見えている。

 なので、少しでも栄太郎の気を引きたい。その為のとっておきが私にはある。

 そう、モテのモテによるモテのための本、『月刊モテる女になるには』だ!


 とはいえ、本に書いてあった『男性は、女が胸元を見ているのに気付いている』『下心が丸見えの女は相手にされない』を実践してるのに、まるで上手くいかない。

 本当は栄太郎の胸元を見たいのを我慢してるのに。

 はぁ……ため息が出る。いっそ私も大倉さんのように欲望に素直になった方が良いのかな。

 遠回しにエッチな目で見られてるよと栄太郎に伝えても「別に見られて、減るもんじゃねぇし」って言うくらいなんだから……。


 思い出すのは今日の体育の時間。

 栄太郎が体操服を伸ばして顔を拭いてたら、大倉さんがその近くで疲れたから屈伸している振りしながら栄太郎の事をガン見していた事。

 思わず「うわっ」て声が出るくらいに引いたわ。自分に素直になったら周りからあんな風に見えちゃうのよね。

 大倉さんと一緒に栄太郎をスケベな目で見てる自分を想像してみる。うわキッツ!!!!!!!!!


 はぁ、何か栄太郎の気を引く方法は無いかな。

 そう思い、今日出た新刊の『月刊モテる女になるには』を開いた。


「こ、これは!」


 そこには、男を落とすテクニックが書かれていた。

 思わず口角が上がるのを感じる。


「これならいける!」

 

 翌日。


「栄太郎はまだ出て来ないな。ヨシ」


 栄太郎の家に着くと、思わず顔がにやけそうになる。

 私の完璧な作戦で栄太郎を落としてやるわ!



(※京の妄想シーンです)


「栄太郎遅い、何やってたのよ」


「ごめんごめん、支度に時間がかかっちゃってさ」


「ったく、待たせ過ぎじゃない」


「……うん……ごめんね」


「全く。こんなに待っててくれるのなんて、私くらいなんだからね!」 


「ポッ。京、好きだ! 抱いて!」


 抱き合う二人。拍手をしながら出てくる栄太郎の両親。

 そのまま一気に栄太郎と教会をバックに結婚式へ。



 ヤバイ! 完璧じゃん!! 私栄太郎と結婚しちゃったよ!!!

 うふふ、早速栄太郎が出てきたわ!


「栄太郎遅い、何やってたのよ」


「いつも通りの時間だと思ったけど?」


「ったく、待たせ過ぎじゃない」


「悪い。次からはもっと早く出るよ」


「全く。こんなに待っててくれるのなんて私くらいなんだからね!」 


「おう、サンキューな!」

 

 あるぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?

 なんか普通に会話しただけで終わっちゃったんですけど!?

 なんなら、私がいつも通りの時間なのに遅いってキレてるだけの嫌な奴みたいじゃん!?  


 教室に着くなり、栄太郎は大倉さんと仲良く話し始めた。

 ふふっ、ここまでは計算通りよ!

 さっきは栄太郎の鈍感さを考慮してなかった。

 だから次は直接行動に移して見せるわ。



(※京の妄想シーンです)


「ねぇ」


 壁に手を当て、栄太郎に顔を近づける。そう壁ドン!


「私がいる事、忘れてない」


「えっ……」


「栄太郎。私だけを見てよ」 


「ポッ。京、好きだ! 抱いて!」


 そして抱き合う二人。ハンカチを噛み締めながら悔しそうな顔で私達を見る大倉さん。拍手をするクラスメイトや教師たち。

 そのまま一気に妊娠した私と、そのお腹を撫でる栄太郎。



 ヤバイ! 私、栄太郎の子供出来ちゃった!! 完璧じゃん!!!

 今度こそイケルわ!


「ねぇ(ドンッ)」


 壁に手を当て、栄太郎に顔を近づける。


「私がいる事、忘れてない」


「あっ、西原さんも会話に混ざりたかったんですね!」


 ハアァァァァァァァァァァァァ!?!?!?

 いやいやいや、どう考えてもそうはならないでしょ!?


「そういやいつも俺ばかり大倉さんと話してたからな。京も話したかったのに気づかなかったわ、ごめんな」 


 栄太郎も栄太郎でなんでそんな結論になるの?

 ここは私に抱かれる場面でしょ! 素直に抱かれなさいよ!?


「たまには女同士で気にせず大倉さんとも話したいよな。俺は教室に戻るから。じゃ」


「えっ、ちょっと」


 手を伸ばし栄太郎を捕まえようとするが、既に私の肩が掴まれていた。


「あっ、さっき栄太郎さんにお勧めしてた漫画の話なんですけどね」


 隣で大倉さんが早口言葉で漫画の話をしてくれるが、彼女に目もむけず、私はただ栄太郎が出て行ったドアを見つめていた。

 いや、ってかあなた本当に大倉さん? 教室の隅で大人しくしてるキャラだったじゃない? こんなグイグイ来るキャラじゃなかったはずじゃない?


「あっ、今日持ってきたのは魔法陣くるくるってタイトルで、異世界物のギャグ漫画なんですよ。あっ、この漫画ね、コイコイばばあってキャラが凄く面白くて……」


 マジでそのテンションと早口言葉なによ!? 思わず真顔になるわ。 


「あっ、読み終わったら感想聞かせてね!」


 そう言って、大倉さんに半ば強引に漫画を渡された。

 大倉さんから借りた魔法陣くるくるは面白かった。

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