第3話「オタクちゃんに優しいギャル男」

‐大倉視点‐


 あああああああああああああああああああああああ。

 帰宅早々、私は自分のベッドに飛び込みバタバタし始めた。そうしないと死んでしまいそうだからだ。

 やらかしたよ。今日のは絶対にやらかしたよ。 


「何が『私ので良かったら見せようか?』だよ。絶対にドン引きされたじゃん!」


 あの時の島田君の顔を思い出す。

 めちゃくちゃ真顔で「いや、いい」と言っていた、これは嫌われた可能性があるし。


「島田君は、クラスの男子から「いつも半裸の男の子が出る漫画読んでるオタクキモイ」とか言われてた私に対し、唯一優しくしてくれる存在だったのに」



‐3人称視点‐


 西原京のクラスメイト、大倉。

 彼女は元の世界ではただの陰キャであった。

 どこにでも居るような、王子様が自分を迎えに来てくれる事を夢見るだけの女子。

 だが、貞操が逆転した世界では、自分が迎える側で夢見ていたのだ。

 半裸の男性が出てる漫画を読んでいる西原に対し、「ねぇ、それって面白い?」と言った島田。

 見せびらかすように胸元を開け広げ、ギャル男のくせに漫画に興味を持つ島田は、大倉にとっては「オタクに優しいギャル男」だった。

 

 まるでファンタジーのような存在に、思わず話しかけてしまった大倉。

 だが、そんな大倉を邪険に扱うわけでもなく、なんなら親しくしてくれるまでになっていた。

 漫画を貸せば、ちゃんと読まないと分からないような細かい部分まで指摘した感想をくれる。

 そんな反応をされれば、惚れてしまうのは当然である。


「男子に『私のパンツ見たい?』とか聞くの完全にセクハラじゃん。キモイ奴じゃん。しかも『フヒ』とか言っちゃって完璧ヤバい奴じゃん!」


「大体いつも話すとき『あっ』をつけるの何だよ。やめろって昔から言ってるじゃん私ぃ!!」


 思い出したら次々と余計な事を思い出し、更にドツボにハマっていく。

 島田の胸元とかを見てるのバレてたらどうしようと考える大倉、残念だがその辺りは既にバレバレである。


(明日会わせる顔がないなぁ……)




 翌朝、少し遅めに教室に入る大倉。

 普段なら、この時間はもう島田君は自分の教室に戻ってるはず。大倉はそう思い教室のドアを開けると、今日に限ってまだ西原と大倉の教室に居残っている島田。


 挨拶した方が良いか、でもウザがられるかもしれない。

 本心では友達と思われたくないとか思ってる可能性もある。

 一度そう思うと、どんどん悪い方向へ思考が向かってしまう負のスパイラルである。


(ここは、何気なく素通り!)


 ちょっと挙動不審な行動をしてしまった気がするが、大丈夫だろうと自分に言い聞かせる大倉。

 残念だが、島田は大倉が変な事に既に気が付いていた。

 教室に入って来た時に目が合ったのに、目を逸らしてぎこちなく素通りしようとする。

 そんな大倉の行動を、島田はよく知っている。同じ陰キャだから。

 話しかけたら迷惑かもと思って、つい話しかけるタイミングを逃したというやつだ。


(少し仲良くなったと思い始めた初期が一番なるんだよな。俺も良くなるし。特に異性に対しては)


 それで段々と話しかけづらくなって疎遠になっていく。陰キャあるあるである。

 大倉に対し恋愛感情はない島田だが、彼女が貸してくれる本は島田に刺さる物ばかり。


 それと西原は無口だったりそっけない返事が多いので、大倉をクッションに挟まないと間が持たない事が多い。

 なんなら今この瞬間も、島田は会話に困っていたところだ。なので、このまま疎遠になるには惜しい存在である。

 なので、縁が切れることを回避するために話かける島田。


「大倉さんおはよう」


「あっ、島田君に西原さん。あっ、おはよう」


(向こうから声をかけてくれたんだから、セーフだよね? 私、まだ嫌われてないよね?)


「あっ、二人とも何の話してたの?」


「この前大倉さんに借りた漫画面白かったねって話をしてたところだよ」


「うん」


「あっ、この前貸した漫画ね。あれ良いよね。コスプレを通じてお互いの関係が進んでいくけど無自覚な恋なのが見てて尊くて良いんですよね。フヒッ。あっ、今日続き持ってきてるから良かったら読んで後で感想聞かせて!」


 もしかしたら嫌われたかもという不安と、そんな事はなかったという安堵から、いつもの2割増しの早口言葉で漫画の紹介をしていく大倉。


(あああああああああああああああああああああああ)


 帰宅早々、自分のベッドに飛び込みバタバタし始める大倉。そうしないと死んでしまいそうだからである。


(舞い上がって聞かれてもいないのに一生一人で喋ってたよ。絶対二人にドン引きされたよ)


 今日の自分の行動を思い出したら、次々と余計な事まで思い出し、更にドツボにハマっていく大倉。

 彼女は翌日も島田と目が合ったのに、声をかけられない陰キャムーブをかました。

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