第二話「大事な相棒なんだから」




 TCGアニメと聞いて、真っ先に何が思い浮かぶだろうか。


 特殊な髪型の主人公。個性溢れる仲間たち。少年誌的な展開。コメディ多めかと思いきや、やけにシリアスで重いストーリー。


 それぞれ浮かぶものは違うだろうが、その中で俺は──真っ先にドラゴンを挙げたい。


 龍、竜。ドラグーン、ワイバーン。種類は色々あるが、共通するのは、間違いなくカッコイイということだ。


 西洋風の、ガタイがよくて装飾も多い、ゴテゴテしたドラゴンとか。逆に東洋風の、線が細くて蛇チックだけど、美しさと神々しさがえぐい奴とか。千差万別だけど、もう全部カッコいいし、大抵強い。TCGアニメにおいては概ね主人公かライバルかのどちらかのエースはドラゴンと相場が決まっており、常に視聴者の心をくすぐるのだ。


 俺も、例に漏れずそのドラゴンに魅了された一人だった。

 どのカードゲームに触れても必ず一つはドラゴン中心のデッキを組んだし、なんだったら特別ハイレートなドラゴンで揃えることもあった。

 家庭科の道具も習字セットもドラゴン、そんなドラゴンオタクが、TCGの世界でドラゴン使いを志すのは必然だった。


 幸い、ドラゴンデッキは組むことができた。無数の強力なドラゴンと、絆を育むこともできた。できたのだけれど──




「うむ、やはり店長のごはんは美味いな! おかわり!」


「はいはい、喜んでくれて何よりだぜ」


 相変わらず似合わない柄物のエプロンを付けて、ご飯やおかずを盛りつけていく店長──もとい、うちのおじさん。

 耀と草汰は先程帰ったため、フェルの復活記念ということで、とりあえず夜ご飯になった。

 説明すると長くなるので省くが、俺はいま親戚の虎次とらじおじさんと二人暮らししている。おじさんは小さなカードショップを経営していて、そこの二階の居住スペースで、狭いながらも仲良く生活している。


「今日も悪いね、定休日なのに店を使わせてもらって」


「はは、いいんだよ。どうせオレ一人でも作業してるんだから、それなら賑やかな方が嬉しいってモンだ」


 俺たちは特に、定休日に店を使わせてもらうことが多い。

 まあシンプルに貸切状態で気持ちいいっていうのもあるが──最近までは、に巻き込まれていたから、というのも大きい。


 まあでも、たぶんしばらくは大丈夫。だって組織は壊滅したから。当面は精々、二期序盤の日常パート──のはず。


「たくさん食べるフェルちゃんが久しぶりに見れて嬉しいよ。もう六人分の量に慣れてたから、急に龍一と二人になっちゃって、飯作りすぎるわ寂しいわ気まずいわで大変だったんだから」


「おい」


 気まずくはなかっただろ、おじさんめちゃくちゃ饒舌なんだから。基本適当なことしか言わないけど。


「それに男二人だと華が無えからな。フェルちゃん達がいねえとコイツもつまんなさそうだしよ〜」


「ほう、そうなのか主?」


「や、別にそんなことないけど」


 ついぶっきらぼうな声でそう返すと、目と口を開けてアホみたいな顔でショックを受けるフェルが視界に入ってしまい。「まあでも──やっぱり、賑やかな方が楽しいのは確かだよな」とフォローしてしまった。


「素直じゃねえなあ。誰に似たんだか」


 やれやれと胡散臭いジェスチャーをして、おじさんは食器の片づけと、皿洗いを始めた。

 水の流れる音を聞きながらぼーっとしていると、フェルが牙を見せて、にぱーと笑っていることに気づいた。


「むふふ、嬉しいぞ」


「何が?」


「主が、しっかり寂しがってくれていたことが、だ」


「そりゃあ……当たり前だろ」


 フェルを含め、うちのビーストカードたちと共に過ごす日々が、すっかり日常になっていた。そこから急に四人もいなくなったんだから、寂しくなかったといえば、嘘になる。


 先日の決戦の余波で、うちのカードたちは力を使い果たし、休眠状態になっていた。

 TCGアニメの洗礼というべきか、しっかりハードな戦いであり、プレイヤーである俺たち自身の傷も深い。普通に命とか魂とかが懸かってたし、人質取られたりとか精神攻撃もあったし。


 そんな中、常に俺の盾となり、矛となってくれたのが。


「大事な相棒なんだから。おまえらがいなかったら、俺なんていつ死んでもおかしくなかったし──俺が至らなかった分のしわ寄せが、みんなにいってしまった」


「むう、そんなに気に病むことはないというのに……主は謙虚、というか最早卑屈よのう」


「うるせえやい」


 にやにやと、からかうみたいにフェルは笑った。図星過ぎて、ムカつくとかそういう感情は微塵も湧いてこなかった。


「くふふ、それにしてもよかったぞ。てっきり最近の主は、我らのことを避けておるものだとばかり思っていたから」


「や、そんなことは……ないけど」


「ほう、それは誠か〜?」


 つんつん、とネイルも塗ってないのに真紅な爪先でつつかれ、「ま、マジだから!!」と慌てて弁明する。

 マジで避けているわけではない。ただ、恥ずかしがっているだけなので。


 そう──恥ずかしいのだ。うちのドラゴン達は強いし頼もしいんだけど、何分なのだ。盤面に並ぶ度になんか、周りの生温かい視線が突き刺さって仕方がない。

 違うんです! 俺は美少女を侍らせたいわけじゃないんです! 結果的にそうなってるけど!! 


「主はまだ、先の戦いの傷が癒えていないのよな?」


「ああ、残念ながら万全じゃない。少し心も休めたいし、みんなもいないから、悪いけどしばらくスピストから離れたいな」


「……ならば」


 と、少し悩んでいた様子のフェルが口を開いた。しかし続く言葉は言い倦ねているようで、普段の偉そうな雰囲気が嘘みたいにもじもじしたのち「わ、我と──」と続ける。


「我と──デート、せぬか?」


「……ハイ?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る