第3話 酒場の新人剣士
「オレは魔法使いのラペット。で、コイツはハンマー使いのセロ。そしてこっちが回復担当イオリヴァ。よろしくな!カケル!」
ああ、流れに身を任せるんじゃなかった。
ヒョーゴさんの酒場で目を覚ました俺は、自分の家に帰ろうとするも、ヒョーゴさんの話す地名から察するに、どうやらここは自分の知っている世界ではない、ということを悟った。帰る場所を失った俺はヒョーゴさんの下で厨房の手伝いをすることに。それから数日後。ヒョーゴさんの口から衝撃的な言葉が発せられる。
「カケル、お前、モンスター退治しろや。」
若い労力を厨房の手伝いに費やすのはもったいない。
お前さんの素性は俺が隠そう。
若い男なら剣を持て。町を守れ。
俺が稽古をつけてやる。
それから俺は毎日ヒョーゴさんと剣の稽古をするようになった。逆らう度胸はなかった。何日も何日も練習を重ね、やっとまともに剣が振れるようになった。剣を重いと思わなくなった。お陰で、手には沢山のマメができ、軽く腱鞘炎になり、アンバランスに筋肉がついた結果、左腕よりも右腕の方が太い、間抜けな剣士が誕生した。
そして今、俺はヒョーゴさんの手配で、とあるパーティに加わることになってしまったのだが……
「剣士がいなくて困ってたんだ。スピードとパワーを兼ね備えた戦士!やっぱり一人は欲しくてさ。」
ラペットと名乗る魔法使いが目をキラキラさせて俺の目を覗き込んでくる。
「いや、俺なんてまだ、剣士になりたてで、戦いの経験もないし…」
謙遜じゃない。魂からの本音だ。
「大丈夫、ぶっちゃけオレらのパーティも、そんなに強くないし、だから安心していいよ!なあ、セロ!」
「ラペットの言う通りだ。最初は誰もが初心者。恐れることはないぜ。」
セロと呼ばれた筋肉質の男も彼に同調する。
「ちょっと待ってください。俺、モンスターが何なのかも良く分かってないんです。」
「え、そうなの!?」
ラペットが大きく口を開ける。
「はい、最近この町に来たばっかりなんです。まだまだ知らないことだらけで。」
「モンスターっていうのは、簡単に言えば獣のこと。人と一緒に生きる種族もいるけど、そうじゃない種族もいて、人を襲ったり、作物をダメにしたり、町を襲ったりする。そういうモンスターを退治するのが私たち戦士の仕事なの。」
そう教えてくれたのは背の高い女戦士、イオリヴァ。
「ま、モンスターにも強さの階級があって、オレたちは下の階級のモンスターの担当なんだ。畑を荒らすオオツメハナモグラとか、山の頂上から岩を転がすスロックとか。だからあんま難しく考えなくていいよ。」
ラペットが締める。
正直どのモンスターの名前もピンと来ない。俺にモンスター退治ができるのか。沢山の不安が脳によぎる。でも、ここで止まっちゃダメなんだと思う。
知らない世界に来て、知らない人と出会って、知らないことをさせられようとしている。
自分を変えられる絶好の機会と言ってもいい。
ここで何もしないことを選んだら、きっと将来後悔する。ベッドと漫画だけが友達のダメ人間になってしまう。嫌だ。一生変われないまま終わる人生は嫌だ。
俺も男だ。よっしゃ、やってやるよ。モンスター退治。
深く息を吐き、閉じていた目を開ける。
射し込んだ日差しが眩しい。
「分かりました。俺、やります。仲間に入れてください!」
「ああ、みんな大歓迎だ!よろしくな、カケル!」
何だか生まれ変わったみたいだ。俺だってまだ変われる。新しい自分に出会えるんだ。
ラペットが右手を差し出す。
鼓動で揺れる俺の右手がその手を掴む。
新たな冒険が幕を開けようとしていた。
モッキュルペッチョパス いと菜飯 @27days_ago
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