王都到着
「一撃か」
「へえ」と言っているのを横目に、魔石を回収する。傷がある近くにちょうど魔石があったので取りやすかった。
「魔石はあとで換金して、皆で分けるのですよね」
「ああ。馬車を守っている連中がいるからな」
私は主にリュークとしかパーティーを組んでいなかったので確認する。こういうことは疎い。
「待っているだろうし、さっさと戻るか」
別れていた二人の冒険者と合流して馬車まで戻る。不安がっていた子どもとリュークは仲良くしていたようで、楽しそうにしていた。私はリュークをそのまま預けることにし、馬車を守るようにして歩いた。夕方が近づいてきたところで村に到着する。
日が暮れると危険で進行できないので、村で一泊することになっている。この馬車の目的地は王都までだ。
セスティームの街から王都はそれほど離れている訳ではないので、明日のお昼過ぎに到着できる。
村にいる間は護衛任務はない契約となっているのて、自由な時間となった。夕食まで少しだけ時間があるので、ぶらぶらと村を見て回る。一泊するような遠出はしたことはなかったので、初めてきた村だ。どうやら蜂蜜が名産であるようだ。
興味を抱いていると「試しに蜂蜜を食べてみるか?」と言われた。
スプーン一匙分を口に含むと、濃密な甘さが口に広がった。甘いものは好きなので、後味をじっくりと味わっていると「ああ!」と声が聞こえた。
蜂蜜を勧めてくれた人からである。なんだろうと見ると、リュークが蜂蜜の入った瓶から直接食べていた。
直ぐに止めさせたが、手遅れだった。半分ぐらいの量にまで減っている。
責任をとり、その一瓶買うことになった。
美味しいからいいが、明日は特に気をつけるようにさせなくては。王都に行くのだから、美味しいものや見たことがないものが沢山あるだろう。
リュークの気を引くものばかりなので、今夜念入りに言うことを決めた。
客人用の家は少ない。私を含む護衛の冒険者は部屋を男女で分かれて、寝ることとなった。明日は最初から歩かなければならない。
どこからか風が入ってくるのを毛布でくるまって防ぎ、落ち着かないまま眠った。同じ毛布内で眠るリュークが時々動くのが、安心する要素となった。
人が動く気配で起きた。日が出始めていて、出発の準備をしなければならなかったが体がだるかった。
体が休まらなかったといっても、依頼を引き受けたからにはやらなければ。あくびを噛み殺しながら、「起きてー」とリュークを叩き起こす。
慣れていないので準備し終えるのに時間がかかったが、集合には遅れなかった。「今日も宜しくお願いします」という依頼人からの言葉を受け取り、出発する。
王都から近いこともあって、魔物から襲撃されることはなかった。遠目で魔物が見ていることは一度あったが、勝機が低いと分かると去っていった。
「このまま何事もなく到着しそうだな」
太古の龍がいる森のときと同じぐらいリラックスした状態で進む。冒険者の一人が言ったその言葉通りにならないことになるのは、それから一時間も経たないときであった。
後方から盗賊が来るという報告を見張りから聞いた。目を凝らずとも見える距離にその姿が確認できた。すぐさま魔力探知で確認し、十の人の数があることを伝える。
言われてから盗賊がいることを気付いたことを謝ると「初めての護衛任務なんだから大丈夫よ」と優しく言われた。
盗賊の方が数で勝っている。先制攻撃とて一本の矢が飛んできたのを、冒険者の男が剣で斬る。
「荷物だけが狙いじゃないのかっ。話し合いもない」
盗賊でも多少の良心があれば、荷物を置いていくなら人を殺しはしないが、この相手はそんな良心はないようだ。
簡単に矢を防がれたのが気にさわったようで、どんどんと矢を放ってくる。届くのには時間があるので詠唱をするふりをして、風魔法で叩き落とす。
「嬢ちゃんはそのまま魔法で馬車を守れ!」
冒険者のリーダーはそう言い、盗賊の方へ向かっていく。その後を魔法使いと獣人が追いかけていった。
今日も馬車の方で男の子と仲良くしているリュークに注意をするように伝える。
男の子は昨日以上に不安がっているはずだ。向かっていった場所以外に盗賊がいないかを残った者で注意しながら、始まった戦闘を見守る。
盗賊達は人数を生かした連携を取っていた。だが三人の冒険者の護衛の方が練度は高い。もうすぐBランクに昇格しそうだという噂があるパーティーなので、個々の剣技や魔法も優れている。
矢を打たせないよう接近戦を展開し、魔法使いが炎で牽制する。その戦法もあって、既に二人盗賊が地面に倒れることとなっていた。
より劣勢になる状況を、盗賊の頭は逃げるという選択肢をした。「撤退だ!」と告げるだけで、その仲間は潔く従う。
地面に倒れている盗賊二人は逃げることはできなかった。その二人はずるずると引きずって馬車の近くまで連れて来られる。
気は失っていないようだったが、受けた傷のせいで動けはしない。
「どうします? 殺しますか」
「……いや、やめておこう。王都から近く、連れて引き渡せる距離だ。何より息子が見ている」
依頼人が近くにリュークがいる男の子を見る。その子は依頼人の息子だった。
盗賊二人は縄で両手をきつく縛られ、馬車に繋げられた。
その状態で王都まで歩かせるのである。 傷は歩ける程度には治されているので、これまでの進む速度と変わっていない。
盗賊を見張る役目が増えた護衛の仕事は、それ以外には今度こそ何事もなく到着しそうであった。
すれ違う人が出始め、そして高くそびえる壁が見える。王都に到着までもうすぐだ。
王都に入る為に並ぶ列があった。
長い列で、自分達の番がくるまで時間がかかることは明白だ。だが捕まえた盗賊がいることを知らせると、優先して王都に入る手続きをしてもらうことになった。
簡易な荷物検査をされ、リュークのことを聞かれる。従魔だと伝え、それを示すアンクレットを見せる。
「初めて見る魔物だなあ」と言っていることから、龍だということには気付いていないようだった。手続きはそれだけで終わり、私が半魔だということはもちろんバレなかった。
盗賊二人は留置場までそのまま馬車で連れて行くこととなった。憲兵が一人、そこまで案内してくれる。だが私達護衛は任務完了したことのサインをもらったので、そこで依頼は終わり解散することとなった。
「じゃあな!」と依頼人の息子にぶんぶんと手をふられるのと、睨みつけるように歩く盗賊二人の差が印象に残った。
「さて、まずは冒険者ギルドに行くか」
共に護衛の依頼をした冒険者のパーティーに、冒険者ギルドを案内してもらう。よく王都に来るようなので迷うことはない。セスティームの街の祭りのときと同じぐらい、人が多い状態に驚きながらもついていく。
「後でゆっくり見ればいいから」と宥め、どこかに飛んでいくリュークを捕まえておくことは忘れない。
「大きいですね……」
「そりゃ王都の冒険者ギルドだからな」
横の大きさは違うがニ階建てということは変わらない冒険者ギルドに入る。人の出入りが多いので、いちいち全員から視線をもらうことはない。
だが私が子どもで小さく、リュークを抱えていることから、何人かの興味をひいていることは分かる。
今回は共に依頼を受けた冒険者がいるので、目立たないよう身を隠すことはできるが、これからは私とリュークだけだ。この視線に慣れなければならない。
居心地の悪さを感じながら、依頼達成の報告の為に受付に行く。
美人の女性が多いことに、どこの冒険者ギルドもそうなのかと思った。その間にリーダーが報酬をもらう。
魔石の換金した代金も含めた報酬を私と相手のパーティーで分けた。最初にその比率を決めていたので、文句は出ない。
「何か困ったことがあったら、ここの宿にいるから遠慮しないで来いよ」
宿を教えられ、約二日お世話になった冒険者とも別れる。親切な人達だった。旅するのに便利なことやパーティーでの戦い方など、教えてくれた。
「じゃあ、行こっか」
「ガウッ」
私とリュークだけとなり、王都を見て回る。といっても疲れているので、自分達が泊まる宿に到着するまでである。先程別れたパーティーが泊まる宿ではもう満員だったのだ。
そして紹介されたのが、従魔がいる客に色々なサービスをしてくれる宿だ。店主が生き物全般が好きらしかった。
宿につくまでに、主にリュークが好きな果物を買った。旅をする身なので、重くてかさばるものは買えないが消費するものなら買える。
明日から二、三日は王都で滞在するつもりだ。体を休めることと、観光をするつもりなのである。その間に消費出来る分だけ買い、リュークが荷物を持つ。
重いと契約の繋がりで言っているので、「頑張って」と声をかける。持ってあげたりはしない。私は旅の荷物で精一杯なのだ。
べリュスヌースから契約の際にもらってあまり使っていなかった杖もある。
あげた本人(龍)から、この機会に使えと言われて持ってきているのだ。この杖は私の膨大な魔力に耐えきれ、魔力の操作がしやすくなる。簡単に折れたりするものではないので、棒術で接近戦になったときにもだ。
そんな優れた杖であるが、私が成長してもまだ背丈を超える大きさの杖である。かさばる。だが、美術的に高価がありそうな杖だ。 戦闘以外には雑に扱うことは出来ない。
そんなことを理由にして、リュークを置いてけぼりにして先を行く。果物の荷物が重いというアピールで、飛ぶ速さを遅くしているのは分かっている。
いつもはそんなリュークを何かと甘やかしている。今日も果物を買ってしまった。だがその甘えを少しずつ減らしていかなければ。
旅をするのだ。果物が重いというぐらいの苦は、苦と思ってはいけないだろう。
期待をさせないように後ろを振り返らず、魔力探知で反応を見る。重いことは我慢してついてきているようだった。
リュークはやればできる龍なのだと、内心でとても感動していた。だからだろうか。
口を塞がれて叫ぶことは叶わず、あっという間に暗い路地へと連れられてしまった。
勿論、すぐさま撃退する。身体強化をして、相手の足を思いっきり踏む。
痛みで私の体を拘束していた腕の力が緩んだその一瞬、私は顎に向けて思いっきり持っていた杖を叩き込んだ。
「うがぁ……!」と地面に転がった相手は男であった。そしてもう一人その男の仲間がいたので、避ける暇なくみぞおちをついた。
誰でなんの為に、私を無理やり連れて行こうとしたのか。こういった相手はセスティームの街でリュークを狙うものが多発したときに慣れている。
どうせろくでもない為だろうが、この場で聞き出してやろうとする。そして私はとあることに気付いた。
「……リューク?」
ついさっきまで歩いていた通りにいない。
契約の繋がりで分かるリュークの居場所が、違う場所にいて速いスピードで離れていた。
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