PTから追放された盗賊、全滅の報せを聞く。僕を逃がしてくれたと気づいてももう遅い

青猫あずき

戻って来てくれとすがっても、もう遅い。

「ニッキ。お前をパーティから追放する」


 冒険者ギルド、〈蒼穹の旅団〉に所属するS級冒険者パーティのリーダー、カイラス・スターウィスパーはそう宣告した。


「え? なんで急に……」


 小人族フィドリングの少年、ニッキ・ティックフィンガーはカイラスの突然の宣告に驚いた。


「なんで……だと? お前、シラを切るつもりか? 依頼の報酬として貰った金貨袋からいつも少量くすねてから頭割りしてたのに気づかなかったとでも思ったか?」


 ニッキは覚えのない罪に首を振った。


「僕、そんなことしたことないよ」


 助けを求めてパーティの他のメンバーに視線を向けるニッキ。

 エルフの神官、リアナ・ムーンブレイズはすっと目をそらした。

 ドワーフの戦士、バルグリム・アイアンシールドは我関せずと酒を飲んでいる。


「手切れ金だ。これを持って田舎に帰れ」


 酒場の机の上にカイラスはどんと金貨袋を置いた。


「さあ、早く行け。冒険者を続けようなんて考えるな。故郷の畑で野菜でも育てるのがお前にはお似合いだ」


 ニッキは椅子から降りて、涙を見られないような振り向いた。


「後で戻って来いって言ったって知らねえからな……!」


 金貨袋をばっと掴んで、ニッキは酒場を飛び出した。


* * *


「あれでよかったの?」


 神官のリアナはカイラスに聞いた。


「仕方ないだろ。お前だけ残れと言ってい聞くやつじゃあない」


「魔王軍幹部の討伐依頼、か」


 ドワーフのバルグリムがギルドの発行した依頼証をヒラヒラと揺らす。


「本来ならSS級二ツ星の冒険者でも成功するか分からない依頼じゃの」


「ああ、国としては対処する姿勢は見せないといけないが、SS級二ツ星の冒険者を向かわせて失うわけにはいかない。そこで、格は遥かに下がるが世間一般では十分に英雄として謳われる俺たちのようなS級冒険者ひとつぼしを捨て駒として向かわせて放置しているわけではないと民に示す必要がある。この依頼は死地へと向かう片道切符だ」


「だから依頼を受ける前にニッキを追放して田舎に帰らせたのね」


 リアナの言葉にカイラスはうなずいた。


「あいつは死ぬにはまだ幼すぎる。今からでも十分に人生をやり直せるだろう」


* * *


「全、滅、……?」


 田舎で家族と畑仕事に勤しんでいたニッキの元に、S級冒険者パーティが魔王軍幹部に挑み敗北したという報せが入るまでに2年の年月がかかった。


「冒険者ギルドから、直前までパーティのメンバーであったあなたにパーティメンバーがギルドに預けていた魔剣やアーティファクトなどのアイテムの代理返還を申し出ています。受け取る場合、こちらの書類にサインを」


 配達人が書類を示し、ニッキはそこにサインをした。


「それでは、私は先に王都へ戻り、冒険者ギルドに書類を渡しておきます。一か月以内に、受け取りのために王都へお越しください」


* * *


 王都まで遺品を取りに歩く道すがら、ニッキは涙をこらえきれなかった。

 僕のためだったんだ、僕を逃がすためだけに……。

 書類には石化の呪いを操る魔王軍幹部”邪視”のメーテルとの戦いに敗れたとされる。

 その時、ニッキにひとつの希望がよぎった。


「……石化の呪い?」


 パーティは全滅したがそれは死んだことを意味しないのではないか?

 もし、仲間たちが石にされたのなら、”邪視”のメーテルを倒し、石化を解くことができれば彼らを取り戻せるのでは?


 だが、”邪視”のメーテルを倒すにはSS級二ツ星の冒険者でも足りないとされている。


「二ツ星で足りないなら三ツ星ならどうだ?」


 SSS級三ツ星冒険者になって、あいつらを救い出す。幸いにも石になってるんだ。いくら待たせたって良い。

 なら僕がなってやる。

 ”邪視”のメーテルを倒す、 SSS級三ツ星冒険者に!

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