第3話
———気がついて辺りを見渡しても妖は一人もおらず、先ほどの真っ白な空間も見当たらなかった。その代わり、先の見えない暗闇が広がっていた。どこを向いても全く同じ景色だったが、ほのかな期待を寄せてまっすぐに進んでみる。すると、微かに光が見えた。
「家に帰れるかも」と思い、光のある方向へ進むと、真っ白な空間とその中の掛川城を見つけた。どうやら、光の正体は掛川城のの明かりだったらしい。よくみると、真っ白な空間の奥に妖達がいるということも確認できた。さらに近づいていくと、妖の囲んでいる中央に、顔を地面にくっつけたままの状態で動かなくなっている“自分”がいた。どう見ても、“自分”だった。
思考が停止した。確かに意識はここにあるのに、目の前に“自分”がいる。
「どうしたんだ?」誰かの声で、ハッとした。左を向くと、後頭部が大きく後ろに伸びた妖、ぬらりひょんがいた。
いきなり妖に話しかけられて驚いたはずなのに、何事もなかったように、口が「なんでもないですよ。それより…」と勝手に話を始めていた。どうやら私は、妖になってしまったらしい。声も、元の自分とは全く違う声になっている。ただ、記憶や感覚は元の自分とつながっているようだ。
しばらくして話が終わると、急に、身体中に痛みが走った。どうにか痛みに耐え、何が起きたのかと“自分”の倒れている方向へ近づく。すると、妖達が“自分”をさまざまな方法で痛めつけていた。その度に体に激痛が走る。
周りの妖に聞くと、儀式を行う際に利用した子どもに傷をつけるほど、妖の世界に持ってきたもの(今回の場合は掛川城)の傷や汚れが綺麗に治っていくらしい。
どんどん傷つけられ、とうとう、今の自分の体から血が流れ出てきた。体にひびさえ入った。息が荒くなってくる。意識が遠のいていく…最後に目にしたのは、建てたばかりかのように美しい、掛川城だった———
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