第2話
———パリーン。窓が破られたような大きな音で目が覚めた。眠たい目を擦っていると、2階への階段を走って、一直線に寝室へ向かってくる足音がした。やばい、と思うまもなく扉が開き、氷のように冷たい手に勢いよく手首を掴まれた。何者かは寝室の窓を開け、私を引っ張る。そのまま冷たい手に引っ張られるようにして、寝室の窓から家の外へ飛び出てしまった。だが、そこは家の外の景色ではなかった。
真っ黒な世界。冷ややかな手。そして、飛び交う無数の妖達。そこでようやく寝ぼけた頭が動き出す。
「…ここ…どこ?…なん、なの?」少し不安ながらも聞いてみると、返事が返ってきた。「簡単に言えば、〝妖の世界〟だ。私たちは掛川城をこちらの世界に持ってきたいのだが、そのためには人間の子供が必要なのだ。」
〝妖の世界〟その言葉が、頭の中で繰り返し響いた。しかし、情報量が多く、寝起きの頭では処理をしきれなかった。理解が追いつかないまま沈黙が流れる。
やっと状況が飲み込めたその瞬間、頬を涙が伝っていた。『家に帰れるのかな。』そう思っただけで、涙がどんどん溢れ出した。不安や悲しみの気持ちが頭を回って、さらに涙の量を増やしていく。
「いやだ、助けて…」そう言えども助けてもらえるはずもなく、妖は容赦なく手を引っ張っていく。溢れた涙が視界を狭める。『いやだ』そう思いながらぎゅっと目を瞑った。それでも涙は止まらない。
諦めて瞼を開いた途端、ぶわっと涙が溢れ出した。違うところといえば、「嬉し涙」ということだ。目の前には、見覚えのある寝室が広がっていた。安心して、溢れていく涙をぬぐう。
布団の中に潜った途端、パリーンと窓の割れる音が響いた。咄嗟に、布団の中に全身を隠す。扉の開く音。静かな寝室で何者かのペタペタという足音だけが聞こえる。恐怖により、体は凍ったように動かなくなっていた。その足音は一直線にこちらへ向かってきた。バッと布団を捲られ、手首を掴まれる。一瞬見えた妖の顔は、言葉に表せないほどに恐ろしく、全身に悪寒が走った。
一生懸命抵抗しても体力が減るだけで、この最悪な状況は変わるはずもなかった。ぎゅっと目を瞑って開いてみても、先ほどのように上手くはいかなかった。真っ黒な世界が無限に広がっているだけだった。もうどうしようもないのだと悟る。
妖に連れられた先には、銀世界のように真っ白な空間が広がっていた。妖曰く、この真っ白な空間の中に掛川城を持ってくるそうだ。掛川城を持ってくる為の準備はもうそろっていたらしく、無数の妖が集まっていた。
私は真っ白な空間の中央あたりに連れられた。その瞬間、妖達が一斉に何かを唱え出した。妖達が何かを唱え出した途端、何が起きたのかわからぬまま、ただただ真っ白な地面に、顔をぶつけてしまった。微かに妖達の声が聞こえるが、意識が朦朧として何も考えられなくなってくる———
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