第5話

 「ミクー、まだー?」マキがわたしを覗き込んで聞く。「ねえ、ききょう。今夜の百鬼夜行にミクは何を着て行けばいい?」

『最初の頃の衣装が一番いいと思います。』わたしが読み上げ音声で答えると

『んーよし!じゃあそーする!』と、ミクがわたしの液晶から勢いよく飛び出してきた。光沢のある袖なしAラインシャツにネクタイ、ミニスカートから覗くスラリとしたニーハイ。膝まであるブルーグリーンのツインテールはミクの定番だ。

「もー、遅いよ。」

『ごめんごめん。やっぱり仮装するか迷っちゃってー。』

楽しみにしていた″吸血鬼″と″狼男″のLIVEチケットは大人気のためあえなく落選したらしいが、行くことに意義があると張り切っている。

「あはは。ミクがそれ持ってるの久々に見たー。」

ミクが長ネギを振ってポーズをとると、マキが「かわいい!かわいい!」と手を叩いて喜んだ。それからわたしを振り返り、賑やかに出かけて行った。

「じゃ、ききょう行ってくるねー!いっぱいSNS投稿するからー。」


 かすかに太鼓の音が聞こえる。さっそく検索してみようか。

 シュッ!シュッ!

 液晶から二体の角張ったものが飛び出てきた。びっくりして急いで画面キーボードを表示する。

『あなた達もいくの?』

 マインクラフトの″スティーブ″と″アレックス″だった。

 四角い手を上下させ『高天神城後の建造物が見たい』と言う。しかし二人とも″インベントリ″が空っぽだ。『ちょっと待っててください。』わたしは簡単なコマンドを打った。

″/give @p elytra 2″

アレックスのインベントリに虫の羽型の″エリトラ″が二つ表示された。

『あとこれもですね。″/give @p firework_rocket 64″っと。』今度はスティーブのインベントリにロケット花火がワンスタック入った。

『ありがとー』二人はエリトラを身につけると、派手にロケット花火を飛ばして窓から出ていった。

 見送ってから、わたしはやっとSNSを覗いた。たくさんの「♯掛川百鬼夜行」があふれてる。しばらく退屈しなそうだ。

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