Vol.3:再燃(〜2017年3月)

【AチームとBチーム】

2016年4月。

高3になり、生徒会をはじめさまざまな枷(って言い方は良くないか?)が外れた。

密かに理系の強い大学への受験も考えていたが、前年の夏に脳を焼かれたため、この年は俳句に全て注ぐつもりで大会に臨んだ。


そして、チーム決め。

Aチームは全国大会へ行った5人。

Bチームは前年助っ人2人だった枠に、新たな部員2人を迎えて結成された。うち1人は満を持しての登場、後にその名を全国に轟かせることになる田村奏天(当時高1)だ。


しかし、ここで高2の吉澤から申し出が。


「俺をAチームに入れてくれませんか。」


確かに、前年秋くらいからの彼の努力には目を見張るものがあった。神大で入選する句作力もあるし、ディベートもできる。未来を見据える面でもその提案はアリだ。

逆に、ここ最近の句会で不振が続いていた平。彼とトレードして新生チームを作るか、との案も出た。

当然、誰だって(強いとされる)Aチームのメンバーでありたいと思うもの。平とて、譲れない思いがあったはずだ。ましてや、僕らは高3で後がない。


部員全員で話し合った後、その意見を受けて丸山から判断が下された。


「Aチームは、昨年のままで行く。吉澤には悪いけど、直前の変更はやっぱり影響出ると思うし、俺はこの5人がベストだと思ってるから。」


この言葉を受けて項垂れた吉澤の悔しさもわかる。

それでも、彼はこの結果を受け入れてくれた。こうなったからにはAを絶対ぶっ倒しますよと、涙まじりに笑ってくれたことも覚えている。

しかしこう見ると、丸山のリーダーとしての格と信頼感がそうさせたのだろうとも思う。

彼は決して漫画で見るような「大将」ではないが、文芸部というチーム全体を見る確かなる目があったし、着いて行こうと思わせるある種のカリスマがあった。

頭が上がらないね、ほんとに。



【最後の】

大会当日。

2016年6月。羽田空港。

……ではなく神奈川大学。

なんで?


A.英検の日と東京会場の日程が丸被りしたから。


立教池袋高校は、英検2級以上(またはそれ相当の英語力の証明となる資格)を取らないとそもそも卒業が認められない。高3秋の学部学科決定までの取得が必須のため、秋の受験では間に合わないのだ。

それが高3の春で、7人(キャプテン含む)のうちで4人残ってるんだから、笑うしかない。


そんなこんなで、我々は池袋の名を冠しながら横浜会場に出ることとなった。



第1試合。兼題は「水温む」。

こちらは我々Aチームはお休み。 慶應義塾湘南藤沢高等部Aと立教池袋高校Bの試合。

この時点でお察しかと思われるが、この年も同士討ちが確定している。

英検のくだりで挨拶で笑いは取れたものの、結果は2-1で慶応Aが勝利。

「立教池袋」が全国大会へ出るには、僕らが慶応Aに勝利することが絶対条件となった。



第2試合。兼題は「猫の子」。

対戦校は慶應義塾湘南藤沢高等部Aチームのみなさん。

僕の句は先鋒戦で2-3で負けた(勝ったかもしれない、2-3なことしか覚えてなくてすいません。)ものの、結果は2-1で勝利。

練習試合の頃よりも格段にパワーアップしていた相手だったが、こちらとて前年全国5位タイだった意地がある。

ひとまず、絶対に落とせない試合を制することができた。



第3試合。兼題は「苺」。

対戦校は、立教池袋B。名物の同士討ちだ。

僕の句は、試合では使わなかった。

前年は3-0で勝っているため、ここを勝って決勝に行くものだと、同士討ちで負けることは無いだろうと、その油断があったのかもしれない。

結果は2-1で敗北。

Bチームキャプテンの松村をはじめ、吉澤、田村の勢いに押されてか、宣言通りぶっ倒された。


つまり、ブロックの全チームが1勝1敗、全試合2-1の三つ巴だ。


少しして、発表があった。


決勝進出は、慶應義塾湘南藤沢高等部Aチーム。


内訳を聞いて唖然としたが、旗1本の差で全国への切符を逃した。

第2試合で3勝していれば。立池Bとの試合を落としていなければ。様々な後悔が押し寄せてきた。



決勝戦は、津久井と慶應A。

結果は慶応Aが中堅戦で決め切り、勝利。

こんなことを書いては失礼にあたるが、正直ブロックのレベルには差があったと思う。だからこそ、決勝に駒を進めていれば、というタラレバが拭えなかった。



表彰式。

ここはちょっとしたトラウマというか、腹立たしい記憶というか、とにかく宜しくない思い出がある。

それが、最後の審査員コメントでのT地Wたる氏の一言だ。(※特定の個人を直接あれこれ言わないように伏字を使っています。)


「まあ立教は東京から逃げてきたわけですけど(笑)」


英検だって言っとるやろがい!

このトンデモコメントに会場は乾いた笑いを浮かべるばかり。その場は何とかやりすごしたけどね?

俳句の実力は知らないけど、少なくとも人としてはなーんも信用できない人だなと思った。


そんな怨恨みたいな理由ではあるが、T地氏は今でも好きになれない。

ちなみに同期の間でもNGワード(笑)みたいな感じになってる。まあ今となっちゃ酒の肴にでもするのかな。


近年は審査員をやっていないようで、心底ホッとしている。

我々のような思いをする生徒さんが、今後とも出ないように祈っています。



【燃えカス】

その後、全国大会出場校発表。


立教池袋の文字はなかった。


前年に出ていたからと言って、翌年も当たり前のように出られるわけではない。

投句審査で上がった経験があっただけに、今年も選ばれるだろうと思っていた節も正直あった。


全国大会に、行けると思っていた。


俳句に賭けた高3の夏。来ることはなかった。

部員の大半も、それぞれ俳句以外の文芸や部活に取り組んでいった。

俳句甲子園が無い文芸部にいる意味は無い。僕のいる意味は無くなった。予定通り、高3で俳句はやめにしよう。


…………


とはならなかった。

悔しすぎる。その執念が僕を燃えカスにしなかった。気づかないうちに、俳句そのものの面白さにもハマっていた自分がいた。他の部活が眼中に無くなるくらいに。

最早助っ人ではなかった。

その炎は、今もなお燃え続けている。


だから、夏合宿でも無理を言って全国大会の兼題を使って部員同士で俳句甲子園をやらせてもらった。

母校の部活は「文芸部」なのだから、当然俳句には1ミリも興味無い子だっていた。今思い返せば、我儘の被害者なのは間違いない。

あの夏は自分のことしか考えていなかったと、反省している。


その後、神奈川大学俳句大賞にも葉書をひたすら送り続けた。100枚(300句)を優に超える数を送り、せめて賞では結果を残そうと勤しんだ。



【「群青」との出会い】

2016年12月。

進路が確定し、高校の授業もほとんど無くなり、暇を持て余すタイミング。


実は、高校2年生の頃から櫂未知子先生主催の「言葉の寺子屋」にお世話になっていた身。そこでかつてアシスタントを務めていた大塚凱さんや永山智郎さんにも、大学生になった後でもお世話になった。


その縁もあって、この頃から開成中学・高校で行われる「初雁句会」に参加させていただいていた。生徒さん達と群青の同人が集まって行う、参加者は20人を超える大規模な句会だ。通常の句会(5句出し)と連作句会がある。

はっきり言って、レベルが違った。

年下の生徒さんがバンバン点を取っていく中で、初回で自分が取れた点数はゼロ。連作も櫂先生から選んでいただいたのみ。

部内の句会で安定して上位に来られていただけに、実力の乖離に真っ青になったのを覚えている。まさしく、井の中の蛙。


それでも、ここなら力をつけられると確信した。

荒波に揉まれる覚悟が決まった時だった。



【足掻き】

2017年3月。神奈川大学俳句大賞の授賞式。

立教池袋からは丸山、橋本、田村の3名が入選。前年に引き続き入選することができて、胸を撫で下ろした。

入賞作品については、「Vol.3-2:句養③(〜2017年3月)」にてご覧ください。


この年は慶應湘南の同期、瀬戸口優里さんがとんでもない数入選してた気がする。1句入選もページ埋めつくしてたし、500通とか送ってたんじゃないかってくらい。

何かに焦点を定めて、そこに本気になることは容易じゃない。だからこそ、努力が形となって現れた人を見ると感心する。


そして、俳句界隈の繋がりが一気に増えたきっかけが、この授賞式の後に行った品川のロイヤルホスト。

ここでカナメや後に一橋俳句会の代表として共に賞へ挑むこととなる中原孝多朗くんたちとパフェをつついたのはいい思い出。他のテーブルにも10人くらい居たかな。



総じて、あの「高3での敗北」が無ければ、僕は100%俳句をやっていないし、ただの若き日の思い出として忘れていただろう。

それに、俳句甲子園「だけ」好きなままだったら、この敗北で絶対嫌いになっていた。スタッフなんてもってのほか。

「俳句」と「俳句甲子園」がくれた繋がりが、「茜﨑楓歌」を作り、支え続けている。

最大限の感謝を。




次回、「Vol.4:老害(〜2019年3月)」。


ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!

続きはまた後ほど!     茜﨑楓歌



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