Vol.2-2:句養②(〜2016年3月)

【俳句甲子園】

「向日葵」

向日葵やメッキの剝げている時計


向日葵、本当に何も思い浮かばなかったのを覚えている。と言うより、何を作っても「近く」なってしまっていた。

向日葵の生命感と時計の無機質な感じの対比を評価された記憶。勝敗自体は3-2で辛勝。

俳句甲子園で突くなら、「メッキ」の表記、「や」に対して「いる」の表記、くらいだろうか。



「夕立」

夕立や大聖堂の鐘鳴りぬ


一方、こちらはすんなりと決まった覚えがある。

立教大学には結構立派なチャペルがあり、ほぼ毎週礼拝に行っていたからか実感の伴った作句ができていた気がしている。

本番では聴覚情報の重ね合わせが評価されていたような。勝敗は0-5で完勝。この句に限らず、背伸びせず自身の体験に落とし込んで作った句は守りやすいと思う。

個人的に、今でもお気に入りの一句。この情景、かっこいいでしょ。



「日焼」

日焼子の汚れることのないミット


作句が難航した兼題その2。本番では組み合わせの結果使うことのない句となった。

一見まとまっているように見えるが、野球やってた人からすればそんなわけない、に尽きるだろう。

俳句甲子園では「レギュラーになれず夏が終わってゆく虚しさが〜」みたいな風に守ったのだろうけど、ベンチメンバーだって練習はしているわけで、当然、汚れる。本番用にわざわざ新しいミットを使う人はあんまりいないんじゃないかな、手に馴染まないし。

そこを突かれたら終わりだった。危ない。

もし対戦句として出ていたら、野球、ましてやキャッチャーなんてやったことないのが審査員にはバレてたと思う。



「蝉」

蝉時雨だらけ暗転して覚める


作句が難航した、と言うよりは表現を決めかねていた句。勝敗は3-2の辛勝。

当日、審査員の評が真っ二つに割れた。

蝉時雨は「蝉の声だらけ」なのだから、「だらけ×だらけ」はやりすぎじゃないのかという意見、その蝉時雨にダメ押しする表現を「冒険」として評価したという意見。

この試合は、鑑賞点をどちらが取るかみたいな勝負だった気がする。

上記の点に加え、説明チックな書きぶり、「覚める」の着地など、攻めどころは多い気がする。



「露」

露の夜や本の続きを読む母子


苦戦した3句とは比較的早めにできた、と言うより、とりあえず出せそうな句ができたから一旦後回しになったものをそのまんま提出した記憶。そりゃあ締切前日に3句残ってちゃこっちに時間割く余裕は無いよね。勝敗は4-1で敗北。

フレーズのありきたり感、「露の夜」である是非等、攻めどころは多くそれをきっちり突かれて為す術なし。



「居」

紙芝居終り崩れる雲の峰


おわり」の解釈次第で読み手によって評価が分かれそう。

「終り(おしまい)」と名詞的活用であれば、場面転換として成功していると言えそう。いっそ中八を恐れず「紙芝居おしまい」まで言ってあげるのも手だったのかも?

「終り(終わって)」と動詞的活用となると、中七が時間経過の説明になっていると見られるだろう。一方でその滑らかなカメラワークがいいと評する人もいると思う。

どう解釈するかは読者のみなさんにお任せします。俳句は「読み手の文学」なので。



「待」

百物語九十九の行方知れず待つ


音数が合わず表現を悩んだ結果、強行突破した記憶。

この句では「九十九つくも」と読ませているが、それはアリなのか。そして「百物語」を、怪談といえば夏でしょ、みたいに季語として扱ってもよいものなのか。

この句が日の目を浴びることはなかったが、仮に壇上で披露され、勝ってなんかいたら波紋を呼んでいたと思う。



【神奈川大学俳句大賞】

都心より来ぬ居候トマト嚙む


おそらく、兼題「居」で作っていた句。

評には「トマトは農家直売のものでしょう。取り合わせの妙です。」とある。

今思えばやりすぎかなと思いつつ、帰省等ではなく「居候」なのが救いなのかも。

あと、「都会から来た居候」の意であれば、文法的には「ぬる(連体形)」が正解。「都心より来ぬ/居候トマト嚙む」だと前半が「都会から来ましたよ! ……何が?」ってなるだが、その言い切りも一周回ってアリか。



若葉寒帰路のコロッケ屋は休み


個人的には食器よりこっちの方が自信あった記憶があるけど、なんで出さなかったんだろう。チームメイトが向こうの句を推したのかな。

評は「帰りがけにいつも立ち寄るコロッケ屋のほっかほかのコロッケが食べたかったのに、今日に限って休みという。「若葉寒」がうまい。」とのこと。ありがとうございます。



鐘朧墨たつぷりと一画目


見ての通り、地方兼題「朧」で作った句。

評には「三句目も「鐘朧」と墨の匂いが強烈な中七との取り合わせが巧みです。」とある。

小6まで書道をやっていたからか、実感が伴ったのかも。一画目は慎重に、それでもって覚悟を決めて筆を打ち込む必要があるので、その緊張感が伝われば。

「今年の漢字」とかで使われるでっかい筆でもアリだと思う。読者のみなさんにお任せします。



かくれんぼ向日葵畑から聞ゆ


こちらは一句入選の句。

俳句甲子園では「つきすぎでしょ〜」って言われて没になった句。僕もそう思う。

かくれんぼという遊戯が、向日葵畑から「きこ」えているという視点と、これができるのは向日葵畑ならではだという「季語の力」が評価されたのかも?(希望的観測)



【おまけ:部誌からも2句。】

炎天下赤白旗の入れ替はる


俳句甲子園の句、作りたくなっちゃうよね。

でもあの夏を描きたいなら、前書きで「俳句甲子園」が必要か。でも入れ替わるのは攻守だし、旗は挙げられるもの。強いて言えば「交はりぬ」……?

俳句甲子園を知らない人は、炎天下の道路工事の句だと思うんじゃ、とも。



木枯が吹いて遅刻の常習犯


この生徒は、ことある事に何かと言い訳をつけてそう。

「木枯が吹いて」の部分を情景として取るか言い訳と取るかは読者次第。当時もその意図で作ったはず。

個人的には結構好きな句のひとつなんだけど、「見えすぎてしまう」点が評価の分かれ目か。




高校時代の句にいつまでも縋るなと言われそうですが、何卒ご容赦を。


以上、供養でした。

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