11月9日(土)
カチカチカチカチ
「……」
「……」
カチカチカチカチカチカチ
銃声は止んだまま、静かな夜だ。心は穏やかではないけれど。
スマホの画面には、11月9日(土)00:28、と表示されている。まだ眠れない。
「トイレ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
ミクも寝付けなかったみたいで、まだ起きていた。
ミクが戻ってきたら、私もトイレ行こうかな。寝付けないし、音楽でも聴いてよう。
最近私たちの世代に人気のK-POPでも聞こうかな。
この子たちは、今日本で大変なことが起こってるって知ってるのかな。まあ、知ったところで何もできないんだろうけど。アメリカの大統領さんとか、確か今の総理と中良かったよね、武器とか資材とか送って欲しいな、軍隊丸ごと送り込んでくれてもいいんだけど。
あ、出国も入国もできないのか。ダメじゃん。
イヤホンから聞こえてくるこの子たちには、こんな絶望的なことは起こってなくて、恐怖も感じなくていいし、普通に学校があって、放課後は友達と遊びに行って、休日も出かけたり、旅行行ったり好きなことしてるんだろうな。
この際、宇宙人でもいいからさ、助けてくれないかな。
「さむ」
湯たんぽを足に押し付けて暖を取る。トイレ行く時靴下履いた方がいいかな。
カイロも持っておこうと、部屋の隅にある箱まで2歩歩いた床が雪の上みたいに冷たかった。冷え性ってどうやったら治るんだろうか。
すぐに封を破いて、布団の中に戻って「冷え性 治し方 自力」で検索してみた。
冷えに対して有効なのは適度な運動です。 20分程度のウォーキングやストレッチ、エアロビクス、ホットヨガなどは、冷え対策だけでなく健康増進に役立ちます。 また、腹式呼吸や質の高い睡眠も冷え対策に効果的です。 血流が滞ると冷えにつながりますので、体を締め付ける服や下着は避けましょう。
「ふーん」
ストレッチくらいならできそうかな、下着と服は、あんまり持って来れてない気がするから着込むしかないか。布団に潜り込んで足首を回したり少し動いてみた、改善されますように。
ガタンッッ
「!?」
下の階から大きな物音。
「ミクは?」
トイレに行ってから結構な時間が経っている。遅すぎる。
家の中の音だったような……。外は静かだったし、問題ないはず。
細いカーテンの隙間から外を見てみる。人もゾンビもいない……。
「ミク大丈夫かな」
「なに??」
「うっ……!!!!!!?」
びっくりしたほんとにびっくりした心臓が出てくるかと思った。
すぐ後ろにミクが立っていた。気づいていなかったから、人生の中で1番驚いたと思う。
「どこ行ってたの?なんか凄い物音がしてミク戻ってくるの遅いし、何かあったのかと思って」
「シャベル取ってきた」
「へへぇ……」
変な声が出た。
寒くなってくるし、ニュースのことも心配になって、庭からシャベルを2本取ってきたという。外の状況も確認して、バリケードを潜って外に出て戻ってくる時に玄関のバリケードが一部動いてしまったことから発生した物音だった。
寒さも忘れて、足早にトイレを済ませて。驚いたせいで、どっと疲れて布団に入ってすぐに寝落ちてしまった。
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