11月6日(水)
「雨だね、今日」
「うん」
窓の外では大量の雨粒が落ちて、風のせいで波打ってるみたいに見える。
パパパパパッ
ドォーン
雨のせいで銃声はより遠くに感じられるし、籠った音に聞こえる。
昨日よりも、ゾンビの数が減ってるような気がする。この地域にゾンビがすくないだけかもしれないけれど。
早く、いなくなってくれないかな。
テンテ♬
「はい……!」
「マナ?大丈夫なの??」
「うん、大丈夫」
「よかった。ミクちゃんも?」
「うん」
お母さんも無事らしい。北海道では、なにも起こってない。ホテルの中で安全に過ごしていて、ただ外には出られないから退屈だそう。
今、外にゾンビがいるけれど、雨と遠くからの銃声のせいでこっちに気づいていないこと、昨日はオムライスをふたりで食べたことをお母さんに話すと、クスクスと笑っていた。
まるでこの状況を楽しんでいるみたいねって、私は「うん」と答えた。
楽しんでやろう、ゲームみたいに。あの配信者がしてた3Dゲームみたいに。
死なない程度に。
恐怖でハイになったのかもしれない。ずっとこの中だけで過ごして、いつか食料がなくなって、笑うことがなくなって、会話がなくなって、気力がなくなって、悲惨な未来を考えるくらいなら、子供がする妄想みたいに馬鹿みたいに考えてやろう。
「お母さん、私たちは大丈夫だから」
「安心はできないのよ。だからこうやって連絡をちょうだい。頻繁に」
「わかった」
「ミクちゃんに代わってちょうだい」
お母さんから言われて、スマホをミクに渡した。最初は笑いって何かを話していたけれど、だんだん声色が落ち着いていって真剣な話を始めたのか、ミクは姿勢を正してお母さんと電話していた。
10分くらいしてスマホが返ってきた。
「マナ、絶対に生きていて。ミクちゃんと2人で」
「はい」
電話をきった。窓から入る西日。もう雨は上がっていた。
家の周りに脅威の気配はない。少しの安堵。
「お母さんと何話したの?」
「マナと一緒にいてねって、2人で安全に過ごしていてねって」
「そっか」
突如、変わってしまった私たちの世界。この大都市の一部に過ぎないこの小さな小さな家の中で、女の子が2人。外には絶対に力では叶わない脅威。
遊園地のお化け屋敷やサバイバルゲームに放り込まれたような感覚。
お化け屋敷であれジェットコースターであれ、それが本当は安全なものだとわかっていれば、恐怖はワクワクするスリルのように感じられると、偉い人が言っていた気がする。
今の状況で、“本当は安全なもの”だとは思わないけれど、人間は危険を察知すると、アドレナリンの放出によって「闘争・逃走反応」が引き起こされる。 らしい。
生き抜いてやる。
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