11月4日(月)

「今日はごめん。おやすみ」


 昨日の最後の会話。でも、私は寝たふりをして答えなかったから、会話じゃないか。

 昨日の今日で、私たちの雰囲気は最悪。ミクはお父さんの、私はミクの部屋で夜を過ごした。朝から顔も合わせてない。

私の意見は間違ってない。間違ってなかった。


 だって今、私たちの家の周りにいるんだよ。


 ゾンビが。


 静かにしてないといけないせいで声すらも出せない。今日一日、ずっと怯えてる。SNSアプリでミクにメッセージを送って話してるけど。文面で感情を読み取るのは難しい。

怒ってないといいな。

 昨日、仲直りすればよかった。寝たふりせずに、答えればよかった。

死にたくない。最後の会話が、昨日のあれでいいわけがない。今日が最期になるのかな。


『怖い?』


 ミクからのメッセージだ。


『怖い』

『昨日はごめんね。きつく言い過ぎたよね。反省してる』

『マナが止めてくれなかったら、今頃ゾンビの餌だったよ。ありがとう。

この家なら大丈夫だよ。バリケードも作ったし、頑丈だから安心してよ』

『うん』


 安心したいけど、ひとりだし、武器ないし、独りだし。


 ガチャ、サッサッ


「ひっ!!???!!」


 すり足で何か入ってきた、ミクのデスクの下に身を潜めてる。怖くて目を開けられない。ゾンビだったらどうしようミクはどうなったの最後までひとりか、ごめんね


「マナ、マナ」

「!!?ミク」

「窓から見たらね、ゾンビいなかったから来た」

「よかった……」

「汗すごいよ、びっくりさせてごめんね。メッセージ送ればよかったんだけど」


 恐怖と緊張のせいで全身から汗が噴き出ていたみたい。手もベタベタだし、額からも汗が流れた。震えがまだ止まらないし、手先が冷たい。

 ベッドに移動してミクがずっと背中をさすってくれて、大丈夫だよ。と声をかけてくれてる。

震えも落ち着いて、脱力して時計に目をやると19時を指していた。


「もう夜か……」

「お腹すいた??」

「すいたかもー」

「グラタンにしよう」


 またゾンビがいたら怖いから、と部屋の電気は付けずに懐中電灯の灯りだけでキッチンに立って、コソコソと話しながらふたりで料理をした。


「チーズもっと?」

「もっと」


 クスクスと笑ったり、なるべく暗い話題は出さずに楽しく料理した。

出来上がったグラタンは、今まで食べたグラタンの中で一番美味しかった。


「昨日はごめん」

「うん」



 

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