11月3日(日)

「お昼ご飯できたよー」

「はーい」


 今日までゾンビの影を見ていない私たちは、警戒しつつも夏休みさながらのように過ごしていた。

 セキュリティ万全のこの家の中では、玄関か窓を突破されるか、食料が尽きない限りは心配することは少ないように思える。

玄関も窓も鍵を閉めてバリケードも作ってある。食料は、ありがたいことに1か月分くらいはあるし、暴飲暴食もしないし助かるまでに尽きることはないだろう。

 約1か月で、元の世の中に戻ればの話だけど。


「昨日の夜に自衛隊が動き始めたんだって、県外からも来てるらしいよ」

「発生源はどこなんだろうね」

「まだわかってなんだって」


 テロなのか、未知のウイルスのものなのか、未だに不明。分かってることは、昨日SNSやネットニュースに上がってた

 頭部を破壊することで、動きを停止、死亡させる。

 音に敏感。

 目がうつろで、常にヨダレが出ている。

これくらい。感染経路が不明な今、外に出るべきではない。空気感染の恐れもあるから、窓も開けていない。


 自衛隊がすぐに来なかったのは、パニック状態の人がそこら中にいて、身動きが取れなかったらしい。

その期間に感染してしまった人もいるみたいで、救助に遅れが出ていたとニュースになっていた。

幸いにもテレビ局は、生きているようで私たちに有益な情報を与えてくれる。でも、音に敏感なゾンビのせいで私たちはイヤホンでニュースを見なければならない。

 テレビ局も時間の問題だろう。人が密集しているところにある建物だし、アナウンサーの恐怖におびえる目と、震えを見ると何とも言えない。


「ちょっと庭に行ってくるね」

「は?」


 何を言ってるんだ。外は危ないというのに。


「シャベル取ってくる」

「は?」


 何??


「大丈夫だから、待っててね」

「待って待って、危ないって。自衛隊も動き始めてるんだから、自ら危険に向かわなくてもいいじゃん」

「備えとかないと不安なの」

「助けが来るまでここで待ってたほうがいいよ」

「私たち丸腰なんだよ?」

「丸腰でもいいよ。誰かが助けてくれるんだから」

「もし来なかったら?」

「来ないこと、ないでしょ……」


 広いリビングに、私たちの呼吸音が鮮明に響き渡った。


 わざわざ危険な場所に行こうとするなんて、おかしい。

自衛隊が、国が動いているのに一国民の私たちはただ安全な場所ですぎしていればいいだけなのに。


「武器がないと、いざというときに不安なの。

もし、窓からゾンビが入ってきたら?もし助けが来なかったら?考えると怖いし、いざとなったマナのことを守れないよ」

「……」


 助けが来ないなんて、考えたくもない。

考えられない。イレギュラーかもしれないけれど、武器を持った人がゾンビに負けるわけない。頭部を破壊すればいいんだから、武器を扱う何かしらの訓練を受けているはずだし、市民を守るのが彼らの仕事なんだし。


「すぐにも「今日はやめて」


「今日は、やめて」


 死にたくない。余計なことしないで。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る