10月31日(木)19:00

さっきの叫び声はこっちまで来たってこと?渋谷から??それとも元からいたってこと???


「私の家にしよう!」

「え、」

「うちのほうがデカいから!」

「あはははは!!」


 極度の緊張からなのか、私は笑いが止まらなかった。

確かにミクの家のほうが防御力が高そうだ。

 一旦、私の家から大事なものや、使えそうな荷物をもってミクの家まで走ることにした。私の家から、ミクの家までは一直線歩いて15分くらい。走ったらどのくらいかな。


「冷蔵庫開けます!」


 ミクは冷蔵庫から食材を、私は自室に行って自分の荷物をまとめた。

服、救急用品、懐中電灯、電池、ナイフ、使えそうなものはリュックに放り込んだ。


「これ使って!」

「借りる!」


 玄関にあった自転車のカギを、ミクに渡した。

いっぱいのトートバッグとリュックにたくさん詰め込んで、ミクの家まで全力で自転車を漕いだ。

 辺りは普段通りの生活が送られているように見える。

間違いであってほしい、夢であってほしい。明日は普通に学校に行って、昨日変なことあったよねって、笑って話したい。


「入って!」

「お邪魔します…!」


 でかい玄関に自転車後ごと入ってすぐに戸締り。ミクは1階部分のあちこちを戸締り、私は2階にリビングに荷物を運んで、目につく窓のカーテンを閉めた。


───建物内に避難してください。えー今、渋谷駅周辺で、人が人に噛みつく事件が多発しています。建物内に避難してください。

渋谷以外にも、新宿駅付近、東京駅付近でも同様の───


「どうしよう……」


外にはゾンビがいるってこと?今からゾンビが湧いてきて、バイオハザードってこと??ゾンビに噛まれて死ぬか、飢餓で死ぬしかないってこと???


ジリリリリリリリリッ


「!!?」


ミクの着信音が広い部屋に響いた。


「はい……。パパ!?」


電話をかけてきたのはミクのお父さんらしい。


「うん、わかった。スピーカーにするね」

「マナちゃん、久しぶりだね」

「お久しぶりです」

「今ニュースを見て急いでかけたんだ、2人が無事でよかった。帰国したいんだけど、日本行きの便が取れないんだロックダウンが行われているのかもしれない。

マナちゃんのお母さんも多分帰ってこられないと思う。後でお母さんに連絡しなさい」


テンテレレレン♬


「お母さん…!」

「マナ!?大丈夫なの!?」

「うん、今ミクの家で──」


 10分くらいお母さんと電話した。

飛行機が一便も飛ばないこと、宿泊先から出られないこと、北海道ではまだ何も起こっていないことを聞いた。

 ミクも電話が終わったようで、待ってくれていた。


「お母さん大丈夫??」

「うん向こうでは何も起きてないけど、出られないんだって」

「そっか……」


 沈黙の後にミクが口を開いた。


「外も騒がしくないし、大丈夫だよ。うち頑丈だし、パパがね食料の備蓄もあるからって言ってたの。私たちなら大丈夫だよ」


 背中を撫でてミク自身と私を安心させるように話していた。

外を見ると、いつも通りの街の明かりで、いつも通りの夜空で、変わったことといえばSNSが悲惨な映像で溢れていること。

 これからどうなるのかな?夢なのかな??

なんてミクに聞いたところで困らせるだけかな。考えてもわかるわけないし、何か、気持ち悪くなってきた。


「今日はもう休もうよ」

「うん」

「何か食べる?」

「いらない」

「部屋で休んでて、後で私も行くから」

「うん」


 明日になったら全部、茶番でしたってことにならないかな。

おやすみなさい。

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