10月31日(木)

 電車内には多くの学生たちが見られた。

放課後ということもあるけれど、お菓子を持っていたり、私たちみたいに仮装している子がいたりした、みんなハロウィンを楽しんでいるんだろう。

手鏡を出して前髪を整えるミクも楽しそうだった。


「……」

「どうしたの?マナ」

「おなか痛いかも……」


渋谷までもう半分くらいの駅を過ぎたところで、急な腹痛に襲われた。


「次は品川、品川。お出口は右側です。新幹線、東海道線、横須賀線、京急線はお乗り換えです。The next station is Shinagawa, JY───」


「降りまーす。すみません、降りますー」


 ミクが私の手を引いて電車を降りた。


「ごめん」

「トイレ行こ!時間あるし大丈夫だよ!」


 駅構内には人が多くて、お菓子を持った子供連れの人たちや、私たちと同い年くらいの人たちもいた。トイレに入るまでに時間がかかったが、どうにか腹痛が収まるのを待った。


「待たせてごめん、もう大丈夫」

「あのね、次の電し「やば!!??」

「帰ろうよ…」


 同じトイレに並んでいた学生が反対ホームに向かって走り始めた。

何かあったのかな。


「マナこっち」

「そっちは逆方向だよ」

「家に忘れ物しちゃって」

「? わかったよ」


 早歩きで別のホームに向かい始めたミク、大事なものを忘れたのかな。


「なに忘れたの??」

「うん……」


 よっぽど大事なものを忘れたのか、ミクの顔は青ざめていた。

心なしか電車内にも不穏な空気を感じる。


「これ見て」


 見せられたのは街中で人が人に嚙みついている映像。

渋谷駅の文字が映像の中に見えた。作り物にも見えるけれど、今の天気と街中の雰囲気が現実味を帯びていた。

 SNSに投稿されているそも映像には沢山のコメントがついていて、


──さっきの騒ぎこれ?

──なんかのイベントじゃないの?

──観光客が騒いでるだけだろ。


 動画観覧サイトで検索してみると、警察の人が噛みついている人を取り押さえる映像も上がっていた。

ハロウィンのパフォーマンスなのか、本当に事件が起きてるのか混乱する。

 ミクは怖がってるみたい。


「次は東京、東京。お出口は右側です。新幹線、山手線、京浜東北線、中央線、上野東京ライン、京葉線と、地下鉄丸の内線はお乗り換えです。」


「速く!」

「やばいって!」


 東京駅に着くや否や、多くの人が車内に乗り込んできた。

 みんなSNSの動画を見た人たちなんだろうか。


「やばかったよね「え、見ました?」

「あれ本物っぽかったですよね」

「もう、怖すぎて……」

「大丈夫ですか…!?」


 電車内で話していた学生が突然泣き崩れた。

どうやら、東京駅の近くであの動画ににたそうどうがあったらしく、目撃してしまったらしい。

あちこちから、ヒソヒソと同じような内容の話が聞こえてきた。


 大変なことが、起こってるんだ、今。


「ミク、大丈夫?」

「うん」


 仮装の為にヒールをはいているミクの足が辛そうだった。

どうしよう、どうなるんだろう、と考えていると私の家の最寄り駅に着いた。


「降ります!!」

「!?」


 電車の扉が開いた瞬間に、ミクが私の手を強く掴んで走り出した。

 もしかしたらここでも騒動が起きるんじゃないか、もう始まってるんじゃないかと思って、全力で走った。

 私の家まで走るつもりだろう。2階の私の部屋で過ごせばいいかな。でもあいつらが来たらどうしよう、バリケードとか作ったほうがいいのかな。避難訓練みたいに。


「わっ!!!」

「ミク!?」


 考えながら走ってたら、後ろでミクが転んだ。


「キャーッ!!!」


 駅の方角から叫び声が聞こえてきた。

ミクは大丈夫かと、目をやると、ヒール部分を壊していた。

命に危険が迫ってる気がする。


「走って!」


ミクの声が私の神経を動かした。



 

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