10月26日(土)
「ぱぱ、あめたべたい」
「ご飯の後でな」
「いまがいいよー」
涙目で父親に飴をねだる子供がいた。
「かわいー」
ハロウィンで配る用のお菓子の買い出しだ。
特別に好きなお菓子があるわけでもないので、大袋のお菓子を買って、小分けにしてラッピングすることにした。
「クラス用にも買ってく?」
「後の2年も続けないといけないよ?」
「飴でいいや」
チョコレート、ラムネ、ビスケットにクッキー、この時期は大袋のお菓子がたくさん売り出されているからありがたい。
「あ、パパのところのだ」
ハロウィン限定パッケージ!とポップが貼られている棚には、同じお菓子が並べられていた。
ぎっしり陳列されているところを見ると、人気の商品なのだろう。
商品のある棚の上部には、モニターが取り付けられていて、そのお菓子のCMが流れている。
「一度食べたら病みつき!?君も食べてみて!
ほら、口の中で広がるあま〜い刺激に虜になること間違いなし!
君も仲間にならない?」
最後の“君も仲間にならない?”は、“一緒に働きませんか?”という意味らしい。
CMを見ていた私たちの目の前からは、そのお菓子がどんどん減っていった。
「買う?」
「甘そうだし、やめておく。マナも甘すぎるの好きじゃないでしょ?」
「うん」
さすが、土曜日の街中、人が多い。
小分けの袋を買いに入った100円ショップも、ハロウィンコーナーができていて、人が集中していた。
目当ての物を購入した私たちは、ミクの家に行って早速ラッピングをすることにした。
「お邪魔します」
「リビングでしよー」
「わかった」
ミクの家は広い。とても広い。
3階建ての一軒家で、2階部分にリビング、ダイニング、キッチンがある。
1階にお風呂とトイレ、ミクのお父さんの部屋、3階にはミクの部屋とユニットバスがある。
ミクの部屋の方がお父さんの部屋よりも広いらしい。
「広いなー」
「いつも言ってるよね」
「いつも思ってるからね」
お菓子のラッピングをしながら、最近あったテストの話をした。
ミクはどのテストも赤点は取らなかったものの、ギリギリ平均点だったようで、バイトに精を出しすぎて、勉強できていなかったらしい。
ミクはパン屋さん、アイス屋さん、焼肉屋さんと、3つのバイトを掛け持ちしている。
どこも時給がよく、パン屋さんではパンを貰えて、アイス屋さんではバイトの日にアイスを2個まで食べることができて、焼肉屋さんでは賄いで焼肉を食べられるのが嬉しいらしい。
「明日はバイト?」
「うん、15時までだよ」
「丁度よかった、またお使い頼んでもいいかな?」
「いいよ」
私のバイト先は、複合商業施設の中のスーパー。
ミクみたいに愛想も良くないので、レジ打ちくらいが丁度いいのだ。
バイト終わりには施設内のモックに寄って、バニラシェイクとポテトを買って帰るのが私の楽しみだ。
今みたいにミクにお使いを頼まれることもある。バイトの特権で、お会計が10%オフになるのだ。
「ミクも明日バイト?」
「明日はパン屋さんだよー。1日だからスーパーに行く時間がないんだ」
「うちのお母さん買いに行くって言ってたよ」
「マナのお母さん前にも来てたよ」
うちのお母さんは、ミクを我が子のように可愛がっている。
ミクのバイト先に行っては、いつもお菓子とジュースを渡すらしい。
母親がいない、父親もなかなか家にいないミクに慈悲の気持ちを持ったんだろう。
私にも父親がいないのだ。
「くっついたりしないかな!?」
「そしたら一緒に住めるね」
「いいね!」
成長しすぎて、再婚に特別な感情も何もないが、母が幸せならなんでもいいなと思う。
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