第24話 桜杯②

「まず1人…」


できることなら序盤のこのタイミングであんまり消耗しないようにしたい。とはいってもあまりにも攻撃しないと雑魚だと勘違いされて袋叩きにあっちゃうからその分配がめんどくさい。


「次は…」


すでに1対1のバトルが勃発している所に乱入するかのように次の標的を攻撃する。

そんなこんなでちまちま敵を減らしている傍ら、向こうではよくわからないことが起きていた。


一人の女子に向かって4人ぐらいが同時に攻撃をしている。これだけ聞けば女子のほうが劣勢なのかと勘違いするかもしれないが実際は女子が4人を圧倒している。


圧倒的な力を持つ人間が一人いる。しかも現在その人間は多数対一を強いられている。そうなれば周りの人たちが考えることは1つだろう。


(((((彼女を倒さないといずれ負ける)))))


このままじりじりと人数が減って行ったらいずれ彼女に勝てる算段がゼロになる。

そうなる前に全員で倒した方がいい。そう考える人間が増えていき、彼女の周りには次第に5人6人と、増えてきている。


俺としてはありがたい展開だ。

彼女が暴れている所から避難して端にいれば脱落することはない。


それに俺は一対一の状況ならば彼女に勝てる。

せいぜい体力を消耗してもろて、というのが俺自身の感想だ。


「まあ、とはいっても1人でいたらそれもそれで狙われるし、俺も攻撃をするふりをしながらしれっと人数減らすか…」


というわけでわちゃわちゃしている方へ行きしれっと倒す。

途中、彼女が放った全方位に向けての魔法が流れてきたりしたがシールドで難なくガードして対処した。


そして近づいて気づいたんだけどこの女、ダンジョン配信者だ。前にちょこっと調べたときに見た気がする。


だからこんなに狙われているのかと納得した。

すでに配信で手札が割れている相手を積極的に落とす。たとえそれが強敵だとしても有効な手段だ。


それに周りはある程度彼女の強さを試合前にわかっていたのだろうし早めに落としたいという気持ちもわかる。あいにく俺は今回、試合前のログの見直しをさぼったから試合開始まで彼女がどんな人かわからなかった。


「………やっぱやめた」


もし配信者じゃなかったら大勢に囲まれている状況を使ってしれっと倒したりできただろうが………というか現状それそれを、もしやったら試合後にネットでボロクソ言われることが目に見えれているのでやめておく。

大人しく1対1でけりをつけた方がまだましだ。


彼女の奮闘と俺の欺殺でわかる程度にはステージに残っている数が減ってきている。となれば彼女はラストスパートをかけるだろう。それだけを注意して後は攻撃を裁くだけでいい。


いままでは人数が多かったからしれっと欺殺できたが、今ここで欺殺したら100%バレるのでやめておく。


と攻撃を躱していると地面に魔力が走る。


「来たか…」


恐らく地面から魔法を放って敵を殲滅するつもりだろう。すかさずジャンプして足元にシールドを張る。


辺り一面が盛り上がり岩が形成される。

突然の死角の下からの攻撃に対応できなかったものは岩に突き刺さってリタイア、対応で来た人間もバランスを崩したところにとどめを刺されて脱落した。


「………あと一人」


と俺に狙いを定めて魔法を撃とうとする。

こっから俺も彼女を仕留めにかかる。


最初に撃ってきた魔法を躱してまずは接近を試みる。

魔法の攻撃密度は高いが問題ない。躱しきれない魔法はシールドで対処すればいい。


攻撃を躱しつつ、受けつつで相手に接近する。

幸い彼女が魔法で形成された岩のおかげで平面の時よりも接近しやすくなっている。


「取った」


刀をそのまま突きさそうとするとシールドで防御されてしまった。


「あっ」


初撃をしっかり防御されてしまった以上、いったん引かないと至近距離で魔法を食らって負けてしまう。だが、引いてしまうと逆にもう一度接近しないといけなくなるのでめんどくさい。


初撃を当てるこことは失敗したけど、ここからどうにかして戦い方を組み立てれば何とかなる。


ひとまず足を狙おうってことで足払いをして相手の体勢を崩す。いわゆる水面蹴りと言われているやつだ。


その水面蹴りの回転力を利用して踵で相手の頭部に蹴る。


どこぞの蟲柱みたいに踵に刃物を仕込んでいたのならこの時点で勝ってだろうが俺は踵に刃物を仕込ませてないので追撃する。


踵で蹴られたせいで相手は吹っ飛び軽い脳震盪になっているだろう。

恐らくは反撃はない。


座り込んでしまった相手を斬ってそのまま勝利した。


これでAブロック突破というわけだ。





仮想ステージを後にして控室に戻る。


「お疲れ~」


「おう」


控室で観戦していた綾人とグータッチで勝利を祝いそのままパイプ椅子に腰かける。


「どうだったよ」


「楽勝だった」


「もっと早く終わらせることもできたんじゃないか?」


「なるべく手のひらを晒したくないもんで」


「あぁ~、なるほどね」


と試合のことを話しながらこれから始まるBブロックの試合を観戦するのだった。


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