第23話 桜杯①
「中継見た?」
「見たよ。めっちゃ人来てるね」
「ダンジョン配信者のおかげってわけだな」
最近は高校生限定の大会も人気になったとはいえ会場が超満員なのはふつうはあり得ない。つまりはここに来ている人の中のある程度は試合を見に来たのではなくて活躍する推しを見に来たというわけだ。
「ファン層変わったねぇ」
「別に悪いことじゃないでしょ。お金を落としてくれれば必然的に盛り上がるんだから」
「それはそうなんだけどなぁ」
「何か問題でも?」
「せっかく推しの活躍が見たくて来てくれたのに俺がその活躍を奪ったらだめなんじゃないかってwww」
「まああの程度の実力なら順当に初戦負けだろうな」
「なんなら俺たちで配信者を狙い撃ちしていく?」
「ありあり。弱い相手に狙いをつけるのは常套手段だしね」
そうこうしている内に遂に大会が始まった。
桜杯は各ブロックでバトルロワイアル形式で戦って最終的に誰が一番強いかを決める大会だ。
何もないまっさらなフィールドの上で10人前後が魔法を撃ちあう様子は迫力満点で毎年かなり話題になる。
そしてその中でも今年は例年と比べてさらに話題も大きくなっている。その理由はダンジョン配信で有名になった学生が数多く参加しているからだ。
近年は冒険者はダンジョン内のドロップ品でお金を稼ぐだけではなくさらにプラスアルファでお金を稼ごうという動きが出てきている。
例えば自伝の本を出したり、おすすめの鍛練法を紹介したり、自分がプロデュ―スした武器を販売したりとさまざまだ。
ダンジョン配信もその1つなのだが誰でも簡単に始めやすいという側面があるため若者中心に活発になっている印象がある。
というかそもそも『可愛いJK』が戦っている動画と『三十路過ぎたおっさん』が戦っている動画、どっちが見たいかと聞いたら9割の人間は前者を選ぶだろう。
そういったわけで現在若者に大人気のダンジョン配信なのだが例外はあれど基本的に配信をしている人たちは弱い。(俺視点での主観)
理由はいろいろあるのだろうが、一番は『配信を意識し戦い方』と『最適解の戦い方』が違うからなのだろう。
配信ではコンパクトな戦い方よりも派手な戦い方のほうが映える。派手な一撃必殺系の魔法を放ったり、剣を大振りしてかっこよく振舞ったりと様々だ。
もちろんダンジョンではその戦い方は間違っていない。
素早いタイプのモンスターはさておき大型のモンスターと対峙するときは隙ができたとしても一撃で屠れる攻撃を放つのはメリットの方が多くなる。
そもそもダンジョン内での戦い方はずっと昔から議論されてきている。『一撃』を重視するか『連撃』を重視するか。
どちらにしよメリットデメリットがあるが対人戦においては個人的な意見だが『連撃』のほうが強いと思っている。
というか魔法が発展しているせいで対人戦も魔法で戦うという風潮があるが条件さえ合えば魔法相手にも近接戦闘である程度通用するような気がする。
「そろそろ行かないと」
「おう。ボコボコにしてこい!」
「任せろ」
というわけでAブロックがそろそろ始まるため控室を後にする。
すでに待機しているAブロックの選手が幾人かいる。
(無駄に派手な服だなぁ)
なんて思っているが心の中にしまっておこう。
口に出したら絶対炎上する。
「それではAブロックの選手のみなさん。入場してください」
スタッフの指示に従ってステージへ入場する。
会場内のボルテージはすでに最高潮だ。
「それでは予選Aブロックの試合を開始します。各選手はステージの仮想ステージの内に入ってください。」
アナウンスの指示通り仮想ステージに入る。仮想ステージに入れば中で負傷した傷はすべて元の体には反映されない。痛みは反映されるけどね。
そんなステージに全員が入るとバトルロワイアル、スタートだ。
◆
いったん息を吐いて目を閉じる。
瞼を開けると仮想ステージの端に選手が一定間隔で並んで待っている。
各自魔法の杖を持ってたりと準備万端なわけだ。
俺のアイテムボックスから刀を取り出して戦闘開始に備える。
「それでは試合開始です」
アナウンスとともに合図のブザー音が鳴って試合がスタートした。それぞれ魔法を展開してステージ内はそこら中で魔法同士がぶつかって閃光がきらめている。
「すっげ奇麗」
なんて呟きながらシールドを展開して初撃に備える。
普段から近接重視の鍛練をしている俺でもシールドの訓練は怠ったことはない。ある程度の強度は自負できる。
「さて、誰から狙うか…」
初撃をしのぎ切った後、辺りを見回して誰に狙いを定めようかと考える。さっき言った通りこの戦いは弱いやつを狙うのが定石だ。それかすでに狙われているやつを漁夫るかのどっちか。
「………あいつ行けそうだな」
シールドの先にいる魔法を放っている男に当りをつけて自分も行動を開始する。
あいにく当りを付けた男は他の選手の魔法を裁くので精いっぱいらしい。
横から迫ってくる俺に気づくはずがない。
「はっ⁉」
背後から刀を振るってまず1人仕留める。
正面の魔法にばかり意識が向いていた男はなすすべなく倒れた。
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