第19話 スタンピード③
「切れ味抜群」
負った刀でモンスターを倒して倒しまくっている。
体の状態はまだ大丈夫、さっき負った傷も血が止まっているから問題ない。
ただ、さっきから疲労がヤバい。
特に身体強化をしても敵についていけなくなっている。
このままではいずれ自分の体がモンスターの速度についていけず死んでしまう。
眼の出力を上げて動体視力を高める。
肉体の速度はこれ以上上らないけど、動体視力の上昇のおかげで未だに食らいついている。
「まだいける」
と自分に言い聞かせる。実際まだいけるかはわからない。
なんせ自分が今まで経験したことのないステージにまで上がっている。
今まで自分が戦ってきた相手、状況、どれも一線を画している。
攻撃を受けて体が傷つくがそんなのに気にしている暇はない。
小型のモンスターに引っ掛かれて、大型のモンスターに吹っ飛ばされる。
全身に切り傷、打撲と結構ダメージが蓄積されている。
両端の魔法組ももう限界だ。
そろそろスタンピードが終わらないと全滅してしまう。
「前進する」
「は?おまえ何を言って…」
「このままじゃお前らの魔力切れがスタンピードが終わるよりも早く来る。
だからモンスターの中に突っ込んで今の状態よりも効率よく倒す」
「体ボロボロなんだからよせ」
今までのモンスターが来たら倒すという受け身の戦い方では時間的にまずい。
それなら俺が敵の大群に突っ込んでモンスターを狩れば効率がよくなる。
「突っ込むからよろしく」
「待てって、ああクソッ」
迫ってくるモンスターの中に突っ込む。
スタンピードの仕組みとして挙げられているのが最下層のモンスターが上昇することでその他のモンスターが連鎖的に逃げようとしているのがモンスターの行進を作っているといわれている。
モンスターに備わっている、強者から逃げようする生存本能と人間を殺そうとする殺人本能、どっちが強いかと言ったら殺人本能だろう。
どんなに人間が強くてもモンスターは人間を攻撃しようとする。
俺がモンスターの中に入っていくと全員が生存本能から殺人本能に移行して行進が遅くなる。
「ぶっ殺す」
なんて言って乱戦を仕掛ける。
モンスターたちの大群を縫うように移動しながら攻撃する。
モンスターたちの攻撃で味方同士のフレンドリーファイアが勃発している。思わぬ誤算だ。
だけどそのおかげでモンスターの数が減ってきている。
「まだまだぁ」
もう何体倒したかわからない。
それでもまだスタンピードは終わらない。
「死ねぇ」
「ぶっ殺す」
外から綾人と真也が攻撃しているのが聞こえてくる。
俺も負けてられない。
◆
「これで……最後だ」
ようやくモンスターがいなくなった。生き残ることができた。
「やばい。もう魔力がない」
「俺も…」
「俺も体中血まみれ」
モンスターを一掃して地面に横たわる。
もう体力も魔力も限界だ。
最後の刀も刃毀れが酷く切れ味も悪くなっている。
「最後のほうヤバかったな」
「それな。あっち側からの魔法攻撃で何度死にかけたことか」
生き残った安堵からか会話が弾む。
自分たちの今までのことを振り返りながら、各自ケガの処理をしている。
「湊さぁ、包帯足りる?」
「たぶん足りる。なんやかんやケガしているのが両腕と腹部だけだから」
「そっか…どうした?」
「真也~? 生きてる~?」
「俺たちってドラゴン倒した?」
「は?なんで倒さないといけないの?」
「最下層のモンスターはスタンピード時に圧死するじゃ?」
「それは1層目まで行った場合の話だろ。ここ結構深いぞ」
「待て待て待て、すっごい嫌な予感がする」
「フラグ建てんなって」
「それなら最初の威圧をしたモンスターをお前らは見たか?」
「「……」」
「…逃げるか」
「そうだな」
「全速力で上に戻ろう」
すぐに回れ右をしてダンジョンの上に戻ろうとしたとき、後ろから嫌な感じがした。
大きな翼にトカゲのような目、ファンタジーにお決まりの竜がこっちに迫っている。
「冗談だろ」
竜は俺たちを見るや否や一直線に飛んできた。
防衛のために作った盛土が竜に当たっただけで削れてる。ふつうに意味を成していない。
「やべっ」
「避けろ‼」
飛んできた竜がそのまま地上に着地して辺りに砂埃が舞う。
ここのダンジョンの最下層ボス『亜竜』、想像通りの竜の見た目をして固い表面、
強力な力、ブレスなどの高い攻撃力などとかなり強いといわれている。
少なくとも今の疲弊している俺たちじゃあ勝てない可能性が高い。
「これどうする」
「逃げ切れるか?」
「無理だ。完全に俺たちをロックオンしてる」
「でも倒せないぞ?」
「何とか倒すしかないだろ」
だが今の状況で倒せる方法が思いつかない。
自分たちの手札は
俺がボロボロの刀、魔法弾、シールド、身体強化
綾人は属性魔法と無属性魔法(なお魔力はすっからかん)、槍。
真也も綾人とほぼ同じだ。
全員が竜を倒せる手段を有していない。
こうなってくると如何にアイディアを出して戦えるかということになる。それもこの手札の少なさでだ。
ほぼ不可能だ。ゲームだったら負けイベと言われてるだろう。
でも俺たちはこれに勝たないといけないという理不尽。
さながらextraステージというわけだ。
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