第17話 スタンピード①
スタンピードは最下層からモンスターが上に上昇する現象のことだ。
1番下の層のモンスターがまず上に行き、その上のモンスターは下のモンスターから逃げるように上に上る。
「1層辺りのスタンピードの上昇時間は20秒」
「それは渋谷のダンジョンでの話だろ?ここは1層辺りが狭いからもっと短い。大体5秒ぐらいで上ってくるはずだ。」
「現在いる場所が76層、最下層からここまで138層、ここに到達するのに10分しかない」
「今から全力で戻っても70層辺りでスタンピードに巻き込まれる」
「10分かけてここで迎撃準備をしたほうがいい。ここでもし俺たちが死んでも足止めの分上の人たちが助かる」
「俺は死ぬつもりねぇからな」
すぐにダンジョンの壁に魔法で盛土をしていき防衛しやすいようにする。
10分後といっても正確な時間はわからない。いつ来るかのなんてことを考えながら迎撃する準備を進めているが正直、怖すぎて頭の中が真っ白だ。
「こっちは準備できた。」
「こっちも」
小刻みに震えている地面の上で準備を終えた3人が集まる。
モンスターたちの行進時に発生する揺れがだんだんと大きくなっていき、いろいろなモンスターの鳴き声がダンジョン内にこだます。
「この際縛りプレイなんていってられない。俺も魔法を使う」
「迎撃しきれなくなったらどうする?」
「そうなるときは死ぬ時だ」
「最悪自分の周りにシールドを張れば少しは時間を稼げる」
「おい、10分経ったぞ」
まだ来ない。
だけど着実に、少しずつ揺れは大きくなってきている。
モンスターたちがすぐそこまで来ているはずだ。
魔法陣を展開していつでも撃てるようにする。
もし少しでもモンスターが見えたらすぐに攻撃開始。
嫌な汗を出てくる。
いつ来るんだ?なんて考えながら奥を凝視していた刹那、甲高い鳴き声が爆音で聞こえてきた。
(威圧攻撃ッ)
直後、モンスターが迫ってくる。
脳内ではモンスターがいることを理解しているが体が動かない。
さっきの”威圧”のせいで何もできなくなっている。
(動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け…)
自分を鼓舞するかのように心の中で唱え続けてようやく体が動いた。
「マズイ」
と思いつつも魔法を放つ。
威圧から復活した2人も攻撃に参加してスタンビートを押し返そうと頑張る。
魔法陣7個を同時展開して最大瞬間火力を上げる。今の所はモンスターに対処できている。
「綾人、左‼︎」
「うわッ」
だが油断できない。段々と一撃で屠らなくなったモンスターに加えて図鑑でしか見たことのない飛行型と、次々に俺たちを襲いに来ている。
「だめだこりゃ」
こういう状況になって逆に脳みそが冷静になっている。アドレナリンのお陰かな。
いつもよりも格段に冴えている状態に晒されて段々と状況を俯瞰して見れるようになっている。
もうスタンビートに遭遇してから数分は経っているはずだ。だが未だモンスターの数は底が見えない。
「チッ、一匹来る‼︎」
「湊!」
「了解」
直ぐにアイテムボックスから短刀を取り出して突っ込んでくる犬型のモンスターの脳天に突き刺す。
だけど俺が1匹に対処するために魔法攻撃をやめた瞬間、今まで拮抗していたスタンビートと俺たちの天秤が崩れたようだ。
一気にモンスターが雪崩れ込んでくる。
「やべぇ」
「くそっ」
こうなってしまった以上どうしようもない。
今更、魔法攻撃に加わっても無理なことは目に見えている。
「俺が近接やるからお前らモンスターを減らせ!」
「「わかった‼︎」」
迫り来るモンスターの数々、両端は綾人と真也の魔法による攻撃で近づくことすら許されない。
一対多数+空間を使えない平面的な攻撃しかできない
これは思ったよりもキツそうだ。
両脇の壁を活用できないとなると、基礎的な身体能力でどうにかするしかない。
今の今までは身体能力でどうにかできない相手には立体的な攻撃、具体的に言えば壁走り等々を使って逃げながら戦うという手段で対処してきていたが今日はそれができない。
次々にくるモンスターを刀で斬っていく。
もういくら倒したかは覚えていない。たくさん倒したようなきがする。
腕が重たい。だけど動かないといけない。動かないと死んじゃうからね。
「『魔法弾』」
近接攻撃を続けながら魔法も使う。
近接に意識を割かないといけない分さっきみたいな7つ同時展開なんてことはできない。
だけどやらないより課はやるほうがましだ。
これでいくらか斬らないといけないモンスターが減る。
いつ終わるかわからないモンスターの濁流に耐えようと必死に攻撃し続けていた時、嫌な音がした。
バキッと何かが割れる音。
短刀が折れた。
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