第4話 魔法以外の戦い方
中学生になってから早2週間が過ぎ、最初はきつかった毎日6時間授業にも慣れてきたころ、相変わらずクラスメイトと学校隣接の訓練場で戦闘訓練を勤しんでいた。
とはいっても相変わらず勝てない。たった1週間で今までの差を追い越されたわけだから俺の心中も穏やかじゃないわけです。
人間は一般的に中学生から高校生にかけて最も実力の伸びしろがあるわけだから、周りに抜かされるのはある程度覚悟していたけど、こんなに早く負けるようになるのは想像していなかった。
「はぁ~」
「どうした?」
「最近負けっぱでつまらん」
「それでも結構強いよ」
「そりゃあ全国の中学生の中で比べたら強いほうだよ?
でもクラスの中じゃ最弱じゃん」
「みんな中学になってからいきなり強くなってるもんね」
「このままだとブライドその他諸々がへし折られて二度と立ちなえれなくなりそう」
勝てなくなってからも魔法を使うこと自体は割と楽しいので訓練場に行くことは続けている。実際魔法は楽しい。だけどそれはそれ、これはこれで勝負に負けるのはやっぱ楽しくない。
我、齢十三で挫折を知る。
そんな状況で俺ができることといえばやっぱり無属性魔法の鍛錬だけなわけで日々鍛錬を続けている。
鍛錬を続け、訓練場で負け、また鍛錬。その繰り返しを続けているうちにいつしか魔法は無駄なんじゃないかという疑問が生まれてきた。
よくよく考えて無属性魔法しかできない人間がなんでこんなに魔法に執着しているのか、冷静に考えてわからなくなってきた。
その執着が今まで俺にやいやい言ってきた連中を見返したいという感情であれ、魔導士という家系に生まれてきたことによる無意識な強迫観念であれ、俺自身の魔法に対する羨望であれ、もう過去のことだ。
いつしか魔法を極めたいという願いは魔法で勝ちたいという願いに変わり、今は魔法とかはどうでもいいから勝ちたいという願いになった。
多分アニメなら闇堕ち確定演出だね。ここから闇の感情とやらが渦巻いて闇魔法を使えるようになるのが定番なんだけど現実はそうはいかない。
というわけで
◆
とは言ったものの魔法の代わりになるものって何?
現状俺に魔法以外の勝機なくね?
少なくとも3歳から今さっきまでずっと魔法しかやってないわけで、ここからどうすればいいのでしょうか?って状態なんだけど...
そんなときのためのインターネット。というわけで魔法全盛期のこの時代に通用しそうなものを片っ端から調べていく。
「魔導剣士...」
海外で最近されている新しい戦闘スタイルらしい。これ以外にも魔導闘士だったりと近接の戦闘スタイルに魔導という言葉をつけるのがトレンドらしい。
魔法を武器に上乗せして近・中距離に対応できるようにして、魔法だけの相手よりも攻撃のバリエーションを増やす。
戦い方としては全然ありなんだけど、無属性魔法だけってなるとだいぶきつい。
だけどやっている価値はある。
無属性魔法で肉体強化のバフが使えるし、あとはセンスの問題だ。いかに近接攻撃と無属性魔法を使い分けるか、
というか、無属性魔法しか使えないのならわざわざ魔導剣士なんてことをやらなくてもいいのではないか?
無属性魔法をわざわざ剣に上乗せするメリットがないし、そんな面倒なことをやるぐらいならメインで剣士をやってサブウェポンとして魔法を使えばいい。
こうなってくるともう止まれない。その後も夜遅くまでネットサーフィンに勤しんだ。
◆
翌日、今までクラスメイトとやっていた訓練場での訓練も断り一直線に家に帰宅。そして昨日考えていたことをさっそく実行。
「まず身体強化の前に基礎体力をどうにかしないとな」
そもそもある程度鍛えているとはいえ今の俺の体は近接攻撃ができるほど完成されていない。つまりは今俺がやるべきことは一に運動、二に運動、そして三に運動だ。
鍛えるといっても単純な走り込みや腹筋、腕立てetc...と同時並行で身体強化の練度を上げないといけない。体に一定の魔力を纏わせながら運動を続ける。
それを繰り返すと自分の中の魔力の精度を上げたり、ある特定の部位を集中的に強化することもできる。
そしてそれを終えた後はいつも通り無属性魔法の練習。
普段やっていた戦闘訓練よりも運動に時間を費やすようになり、俺の生活リズムが変わった。
「最近なんかあった?」
「別に?」
学校の授業間の休み時間でよく聞かれるようになった。大方、俺が訓練場に来なくなったからだろう。
「じゃあ訓練場に行かなくなった時間で何してんの?」
「強くなる方法を模索中」
「ふーん。もしかして最近負けっぱなしだったの気にしてる?」
「そりゃあ気にするでしょ」
「あら以外。お前のことだからてっきりなんも感じずにいたのかと思ってたわ」
「そんなわけないだろ」
「でもゴシップ報道とかは全然気にしないよね」
「それはそれ、これはこれ。」
「「「ハハハハハ」」」
男子で集まって雑談をしていると授業開始のチャイムが鳴る。
「授業始めるぞ~」
授業が始まった。内容は数学。得意じゃないけど苦手でもない普通な教科だ。
「○○だからここは××だ。そしたらこの式が変形して...」
授業を黙々と受ける。魔法に力を入れているとはいえこの学校は進学校だから授業の内容も結構難しい。
「それじゃあ今日はここまで。宿題は問題集の問題□まで
定期考査が近づいているからそろそろ復習するように」
授業が終わり、昼休み、いつも通りのメンツで昼飯を食べる。普段から放課後に一緒に訓練場にいるメンツだ。
「湊~、いい加減戦おうよ~」
「やだ。どうせボコられるだけ」
「それならある程度手加減するからさぁ」
「そっちのほうが嫌だ」
予め買っておいたパンを頬張りながらいつも通りの他愛もないことを話している。
最近は俺が訓練場に来なくなった話をよくしている。
「というか戦闘訓練せずに何しているの?」
「基礎錬。体力つけてる」
「へー」
「それで湊は定期考査明けのトーナメント戦参加するの?」
「まだ決めてない」
「参加するなら今から戦闘訓練やっといたほうがいいよ」
ゴールデンウイークが明け、憂鬱な定期考査のあとに中学1年生のみの大会が学内で行われる。まあほぼ全員が参加するこの大会だがもし、その日までに近接戦闘を完成できなければ出る意味がないためまだ出るか出ないかは決めてない。
「もしかしたら出ないかもしれないし戦闘訓練はいいや」
「もったいないな~。1組以外のやつらにはボロ勝ちできるだろうに」
「格下クラスをボコってもなんも楽しくないでしょ」
「でも今年は魔法書独占禁止法の世代だから俺たちとは大差ないよ」
「それを加味しても俺達には勝てないよ」
「それはそう」
「「「「「アハハハハ」」」」」
傍から見れば発言が漫画の悪徳貴族のそれだが実際、彼らは強い。
そもそも魔法やその他の戦闘力がその人自身の優劣につながることが多いこの世の中では名家の子などは特に幼少期からの戦闘教育が盛んだ。
各自、子供のころから魔法の英才教育を受けている。かくいう俺も子供のころから母親や父親に無属性魔法を教えてもらった。
とはいっても実際に見られているのは魔法の聯度ではなく戦闘力だ。
つまり、近接戦闘を学んだらその分プラスで評価される。
できることならゴールデンウイーク中に近接戦闘を完成させたい。そう思いながら昼飯を食べる。
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