後は野となれ、悪となれ

霧島輝海

第1話 ”仮面の昇り龍”ハルトマン


 キラキラ光る派手なガウンを身に纏い、

一人の男が入場してきた。

リングに上がり歓声に包まれコールを受ける。

「”太陽の貴公子”KATSUMI」

画面に映る男は、コールを受けるとコーナーに登り、

手を高々と上げ観客にアピールをする。

もう一人男が今度はKATSUMIとは正反対の

落ち着いたガウンと緑色のマスクを被り、入場して来る。

リングに入るとこちらも歓声に包まれ、

「”仮面の昇り龍”ハルトマン」

そうコールされるがアピールをするわけでもなく

ただガウンを脱ぎ、相手をただ見つめる。

この試合は、リーグ戦の1試合だった。

互いに臨戦態勢に入ると、


      ”カーーーンッ”


ゴングが打ち鳴らされた。二人は、互いの様子を

見るように一定の距離を保ち、見つめ合う。

次の瞬間、二人はロックアップを組んだ。

若干、ハルトマンのほうが優勢か。

KATSUMIをロープへと押し込む、するとレフェリーが

「ブレイク」と声を掛ける。それを聞いたハルトマンは

両手を離し、クリーンブレイクをした。

そんな試合の様子がテレビで流されていた。

 テレビの前にはその映像を懐かしむ訳でもなく、

冷ややかに見つめている男の姿があった。

「また昔のことでも思い出しているのか?悠真」

そうヘラヘラしながら男が話しかけていた。

「たまたまテレビでやってただけ。

昔はあまり思い出したくないんだ」

そう感情のない無機質な声で言った。

その言葉を聞いた男は、なにかを取り出し、

「そういう割にはまだこんなもん持ってるだろ」

と、見せてきたのはプロレス雑誌だった。表紙には大きく

「史上最強の不協和音!?KATSUMI&ハルトマン二人が初対談!!&

ハルトマンへの突撃インタビュー!!」

とかつてのタッグパートナーとの対談、

そして俺が受けたインタビューの話題が書いてあった。

「どっから持ってきたんだよ。やめてくれ、師匠」

そう言うと同時に、雑誌を取り返そうと手を伸ばした。

「まぁいいじゃないか。減るもんでもないし、

それにこれは俺が日本に来る前のやつだ読みたいんだよ」

と言い、雑誌を更に遠くに俺から離した。

それを見た俺は、立ち上がり雑誌を取り返した。

取り返すまでは良かったが、その拍子に雑誌を

床に落としてしまった。落とした雑誌の開かれたページは

ちょうどインタビューの記事だった。

「なに落としてんだよ、全くおっちょこちょいだな。

ほんとにお前はいつになっても変わらないな」

師匠は、笑いながらそう言った。

「まぁそんなことより、テレビ見なくていいのか?」

そんなことを言われテレビに視線を戻すと、

試合もクライマックスに迫っていた。

 試合の初めは、クリーンファイトをしていた二人だったが

終盤に向かうにつれ、エルボー、逆水平チョップなど

打撃の打ち合い合戦になっていった。

互いにエルボーを打ち合ったとき、

今までよろけることの無かった二人が膝から崩れた。

ダウンカウントをレフェリーが数える。

「1、2、3、4、5、6」

6まで数えられると二人が立ちあがろうとする。

だが、体が動かないようだった。

「7、8、9、10」

ついに10カウントが告げられた。


      ”カンカンカーーンッ”


結果は両者ノックダウンの引き分けとなった。

だが、二人の最後まで必死に立ちあがろうとする姿に

観客は大きな歓声を飛ばした。

二人は、練習生の手を借り立ち上がる

そして互いの健闘を称え、握手をした。

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後は野となれ、悪となれ 霧島輝海 @kirishima_terumi

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