第8話 扶桑型はほんとうにダメ戦艦だったのか?(5)

 扶桑ふそう型戦艦について、「この艦が出動するようになったら日本もおしまいだ」と言われた、などと伝えられていますが。

 じつは、それは、扶桑型だけではなくて、金剛こんごう型(金剛、比叡ひえい榛名はるな霧島きりしま)以外の戦艦については、すべてにあてはまることです。

 最新鋭の大和やまと型も例外ではない、と私は思っています。

 第二次世界大戦、とくに太平洋戦線は、戦争が始まるとすぐに航空戦になりました。

 つまり、航空機(爆撃機、攻撃機、戦闘機、偵察機)が主役で、それ以外の艦は航空機を支えるために戦う、という戦争のやり方です。海上では空母が中心になり、他の艦は、空母にできるだけ威力を発揮してもらうために空母に随伴する、という戦いかたになったのです。

 空母は三〇ノットかそれ以上の速力を持っていますので(日本の商船改造空母やアメリカの護衛空母などを除く)、二〇ノット台半ばの速力しか持たない戦艦は、そもそも空母に随伴できず、役に立ちません。

 空母に随伴できるのは金剛型だけだったので、第二次世界大戦時には最古参だった金剛型が大活躍することになりました。ハワイにも行っているし、インド洋にも行っているし、ミッドウェーにも行っています。

 四隻の本格空母を失ったミッドウェー海戦後はやや戦いかたが変わり、戦艦は、ときには軽空母を随伴して本格空母の機動部隊とは別行動をとり、前に出て偵察を担当したり、本格空母にかわって敵の航空攻撃を吸収したりという役割を担当することが多くなりました。

 それでも、やはり、空母部隊と統一行動がとれる必要があり、その役割は金剛型高速戦艦以外には回って来ませんでした。


 金剛型のうち二隻は、ガダルカナル島近海での海戦の結果として沈没しています(最終的には自沈)。このときは空母の護衛からは離れて行動していましたが、海戦をしに行ったのではなく、ガダルカナル島の飛行場を海上から砲撃しに行ったら海戦になってしまったという経過でした。敵に制空権をとられた場所に夜間に高速に進入して陸上砲撃を行う、ということは、やはり高速戦艦でなければ任せられなかったのです。

 これ、扶桑ふそう山城やましろで行ってもだいじょうぶだったら、扶桑と山城は主砲の砲力が金剛型の一・五倍なので、いっそうの戦果が期待できたはずですが……やっぱり任せられなかったんだなぁ。


 で、帝国海軍で、戦艦の戦いが前面に出て来るのは、一九四四(昭和一九)年の後半です。

 この時期になると、大型空母としては瑞鶴ずいかく一隻が残るのみとなりました。空母戦力自体が低下していたのですが、それ以上に、空母で使用できる航空機とその搭乗員が絶対的に不足し、空母を基幹とした航空兵力というものが成り立たなくなったのです。

 空母というのは、海に浮いて動いている、しかも、長さ・幅に限りがあるフネの上から発艦し、さらには確実に着艦できなければいけないので、機体にも、搭乗員の練度にも、大きな制約があったのです。どちらも一朝一夕に整えられるものではなく、機体も、搭乗員の練度も、一九四四(昭和一九)年の段階で枯渇してしまったのですね。


 そんなことで、一九四四(昭和一九)年一〇月のフィリピン沖海戦(レイテ沖海戦)では、すでに戦力を失っていた空母機動部隊を「おとり」にして敵空母機動部隊を吸い寄せるという奇策をとったにもかかわらず、空母を随伴しない戦艦・重巡洋艦部隊は航空攻撃で壊滅的打撃を受けました。

 扶桑と山城が撃沈されたスリガオ海峡夜戦もこの戦いの一環で、扶桑と山城は優勢な敵戦艦部隊をはじめとする水上艦隊に撃滅されたのですが、「戦艦を出すしかなくなって戦艦を戦場に出したけどぜんぜん役に立たずに壊滅させられてしまった」という点は、他の戦艦も同じなのです。

 少なくとも、同じ一連の海戦で沈没した武蔵については、敵航空機を相手に最後まで奮戦し、大量の爆弾と魚雷を浴びて最後に沈んだという(「弁慶の立ち往生」のような)英雄物語が語られ、扶桑と山城はダメ戦艦が無理な戦いをして沈んだと片づけられる、というのは、私は不公平だと思います。

 英雄的と言えば扶桑と山城も英雄的だし、無理な戦いを強いた結果やっぱり沈んだというなら武蔵だってそうです。

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